真っ白だった筈の壁
恐れる事をやめました
やめようと
やめる事に救いを見出したのです
抵抗する事が生きていく望みかのように
いつしか希望に変わっていました
希望は違うことだったのです
忘れてしまったのです
ペンキを上から塗っていく事にしました
濃い色のペンキを用意する事にします
淡い色ではダメなのです
真っ白だった筈の壁は
いつの間にか汚ればかりになっていました
何色とも言えないのです
言い表せないような醜い色です
用意するペンキは黒がいいです
漆黒の
黒でないと全てを塗りつぶせそうには無いのです
缶の蓋を開けます
筆をペンキに付けます
太い短い筆です
塗っている時は静かです
心がこんなにも穏やかなのは
いつ以来でしょうか
これ以上の無い上からの目
これ以上の無い
これ以上の無い
これ以上の無い
私たちの苦しみは届く筈も無いのでしょう
あなたは愛を望めば容易なのかもしれません
軽薄で薄っぺらなものに包まれて
それでいいと
それがいいのだと
高い所から私たちを見下し嘲笑うのでしょう
優越に浸って満足されるのでしょう
これ以上の無い悲しみ 餓え 崩壊
あなたの知る処では
無いのでしょうね
私たちはそれでいいと あなたを笑って差し上げる
報いは何れは回ってくると笑って差し上げる
黒いペンキを手に取って
悲しみも
胸の痛みも
何もかも
上塗りするのです
今から私たちは無感になっていくのです
何を見ても心が痛まないように
狂っている光景の中に溶け込むように
躊躇いは無い
後悔は無い
ただ
あなたが憎い
私たちの心も真っ黒になりました
この戦いが終わった時に
あなたは
何を思うのですか
あなたの瞳は何を映すのですか
晒された土が薄い茶色で一面を覆って
人々が賑やかに生活していた廃墟を見て
無数の躯が
ただ動けずにその場に留まっている光景を
推測していた筈です
容易に理解が出来た筈です
命よりも
優先した先に見たものは
命よりも
重いものでしたか
これ以上の無い上からの目
これ以上の無い嘘
これ以上の無い深い愛を失ったこと
これ以上の無い
これ以上の無い