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5:『後悔』という名の剣

キャラクター紹介


《リエール・シークレン》  21歳 男

本編の主人公。

幻導士候補者として、

どうやら普通ではない特殊な選出をされた様だ。


《フィリップ・マルルーニ》 21歳 男

リエールの親友&ツッコミ役。

幻導士候補の一人。


《ミュア・アネスト》 18歳 女

容姿端麗。

物語のキーパーソンだが、また今回のエピソードには直接登場しない。


《ニーニャ・ラ・フィロ》 22歳 女

才色兼備。

優秀で明るくて美しい幻導士の一人。

料理が得意。


《エルニー・アトロラーチェ》 22歳 男

文武に長ける美青年。

その美しさから女性と良く間違われる。

ニーニャと同時期に幻導士となる。


《マルケス・バロウ》 ???歳 男

幻導士の中でも高位の一人。


《ジャスティス・ブラッド・アロン》 ???歳 男

マルケスと同様、幻導士の中でも高位の一人。

プロローグにも同じ名の男が登場したが…。


次のエピソードの区切りが長過ぎるため、

今回のエピソードはその序盤を区切った物なので、短めです。


             『後悔』と言う名の剣


マルケスより指示を与えられたエルニーの案内により、

中庭経由で向かいの部屋へと通されたリエール達は、

先程の雅やかな応接間とは似つかぬ空間を見渡して息を飲む。


天井の高いその部屋は、無風流で窓一つなく、

粗く起伏した床や石壁を見るだけで、

表面のひんやりとした感触が想像できる程、空気も冷たく乾いていた。


唯一の採光源である出入口を閉ざせば、

たちまち暗黒領域と化しそうな彩度ながら、

何故か照明器具が部屋のどこにも見受けられず、

その出入口から伸びる三人の影が行き着く先に、

闇へと続く不気味なトンネルがあった。


しかし、それだけにとどまらず、

トンネルの差し掛かりに[鉄格子]が設置されていたため、

これから誘導を受けるであろう場所に対して警戒心を抱く二人。


エルニーが鉄格子に近寄り、左半分を軽く引くと、

鍵もかんぬきも掛かっていない格子扉は、

金属系の摩擦音を立てながら滑らかに開く。


開いた扉を押さえながら、

「さ、入って」と、広げた右手で奥を指し示すエルニー。


まだ入口の側にいたリエール達は、

その指示を受けて恐る恐る格子を潜り抜ける。


目を凝らしてトンネルの奥を観ると、

数歩先からは下り階段になっており、

それは少し降りた地点で左に向かって緩やかなカーブを描いていた。


エルニーは鉄格子を掴んだまま後ろ歩きでトンネルに入り、

慎重に右半分の鉄格子と合わせる。


「ゆっくり閉めないとバウンドしちゃうんだ、これ」


エルニーが振り返ると、リエール達はスローペースで階段を下りていた。


そんな二人を抜いて先頭に立ち、

闇の中へとためらいなく下りて行くエルニー。


何度もここを通った経験を持つであろうエルニーのその行動を観て、

先導者として信用に値すると感じた二人は、

彼のペースに合わせてコツコツと付いて行く。


階段は[Uの字]を描いており、

下り始めから丁度半円の位置で段が途切れていて、

その先は平坦で真っ直ぐな通路だった。


リエールとフィリップは通路に差し掛かった時点で、

闇の中を明かりさえ持たずに早足で進んだエルニーの意図を悟る。


通路の先に、ゆらゆらと揺れる光が差し込む部屋が見えたのだ。


静かに闇を彩る青い光に魅了された二人は、

目標としていたエルニーの背中よりもその部屋に意識を奪われ、

歩行速度を高める。


室内に一歩足を踏み入れて立ち止まったエルニーは、

「ここだよ」と、二人の方を振り返るが、

二人はまるでエルニーが視野に入ってないかの様にそれを通り越し、

光の入口を見上げながら部屋の真ん中付近までゆっくりと足を運ぶ。


その部屋の形状はドーム型だったが、

天井の中心部が平面のガラス張りになっており、

そこから降り注ぐ光の中でそれを見上げるリエール達は、

揺れの原因がすぐに分かった。


ガラスの上が[水溜まり]になっていて、

光は水を通って差し込むために揺れていたのだ。


部屋の中央には石の台座があり、

その上には同じく石製の[柩ひつぎ]の様な箱が置かれていたが、

柩にしてはサイズが小さく、

底の下、四隅の位置に敷かれた石によって少し浮かされていて、

そこを通して鎖が三重程に巻かれており、

更には鎖の両端が交差する箇所に錠前まで付いていた。


「この部屋は、さっき君等がここに来た時、

足を浸していた[泉]の真下なんだ」


エルニーはそう言いながら中央の箱に近付き、

ジーンズの右ポケットを探りはじめる。


「更にこの下にも部屋があるんだけど、

そこは凄いよ、後で観る事になるから楽しみにしてて」


だが、そう言いながらしばらくモゾモゾしていたエルニーは、

「あれ?」と、急に慌て始めた。


「どうしたんだ?」


ここに来るまで沈黙を保っていたリエールが久々に声を出す。


エルニーはポケットの詮索を止めて呆然としながら言う。


「やば、[鍵]はさっき部屋の机に置いたんだった」


だが、その言葉の反響に混じって足音が聞こえた。


通路を振り返っても、

その暗さ故に肉眼では誰なのか確認できなかったが、

どこか気を使ってる様な足音の細さで、ニーニャと分かった。


案の定、両手で三冊の厚い本を抱えたニーニャが現れ、

揺らぐ光が差し込む部屋に無言で入って来たが、

それと入れ替わるタイミングでエルニーが通路に出る。


そんなエルニーを視線で追いかけつつ、

「何?どうしたの?」と、

ストレートな質問をぶつけるニーニャ。


「鍵を置いてきちゃってさ」


エルニーはそう答えつつ、小走りで階段に向かう。


「あ、私持ってきたから」


軽く飛び跳ねて180度向きを変え、

そのまま小走りで戻ってくるエルニー。


傾斜の付いた光の中にニーニャは立ち、

「あなた達が観たのってどれ?」と、

表紙に宝石の嵌った三冊の厚い本をリエール達に提示する。


リエールはニーニャに歩み寄って軽くそれらを見渡した後、

その内一つを指差しながら、近付いてきたフィリップに向かって、

「この白い宝石が嵌ったやつだったよな?」と、自らの記憶の裏を取る。


フィリップは三冊の表紙を覗き込んで確認するが、

その全てに見られる共通点が、

質問の意図を難解な物へと変えた。


「というか、この宝石は全部白くないか?」


「あ、ほんとだ」と、適当さが露呈したリエール。


「うん、どれも白いけど、濃さが違うでしょ?」と、ニーニャ。


そう言われて細部に注意したリエールは、

「ああ、それなら、ここまで白くはなかったよ」と、

一旦指を引っ込める。


そして少し観察した後、

三冊の中で一番透き通った白さの宝石へと指を差し替え、

「この中ではこれが一番近い気がするな」と、

再びフィリップの方を見る。


「だな、ほんのり白いって感じだったよな」

「それよりももっと透明だったかも」


それを聞いたニーニャは、

嬉しそうに口を反開きにしたままエルニーを見た。


エルニーもそれに応えて同じ仕種。


「すごい!」


ニーニャの声が通路にまで響き、

丁度階段を下りてきたマルケスの耳に届いた。


「[リグレット]を引き抜いたのか?」


リエールとフィリップには不可解な台詞で登場したマルケスは、

フィリップの右横にいたエルニーの左肩を掻き分けて、

その場を覗き込む。


「いえ、これから開けるところです」


ニーニャのその言葉で拍子抜けするマルケス。


「でも、一番透き通った宝石を選びましたよ、リエール君」


横からのエルニーの声に、マルケスはパッと振り向く。


「そうか、それはかなりの素質があると見えるな」

「流石に[時が選んだ]だけの事はあるかも知れん」


何の事かわからずに戸惑うリエール達を尻目に、

幻導士達の仕事は進行する。


「えっと、じゃあ…、どうしようかな…」


そう言って軽くキョロキョロした後、

「これ持ってて」と、エルニーに本を差し出すニーニャだったが、

それと同時に、彼女のスカートの左ポケットを探り始めるエルニー。


「逆、こっち」


ニーニャは身を反転させ、右ポケットをそちらに向ける。


エルニーは鍵を取り出すと、機敏な動作で錠前の解除にかかる。


邪魔にならないよう、箱から距離を置くリエールとフィリップとニーニャ。


巻かれている鎖が外された事を確認した後、

マルケスが長方形の蓋の幅側に立ち、

「そっちを頼む」と、向かいを指差しながらエルニーに指示する。


重々しくザラ付いた摩擦音と細かな砂埃を立てつつ、

蓋をスライドさせるマルケスとエルニー。


そして外された蓋が台座に立て掛けられると、

ニーニャが本を左脇にまとめて抱え、

右手でリエールの左手を掴んで箱の中を覗ける位置に引っ張った。


リエールは、ニーニャの手の心地好い温もりで、

目が覚めた様な感を覚えたが、

直ぐにそれが離れ、強い物惜しみの残る中で渋々箱を覗く。


だが、その意識を一瞬で切り替えさせる光景がそこにあった。


箱の底に、鞘に収められた一本の[剣]が横たわっていたのだ。


露になっている柄側のみを見た限りではあるが、

白銀色の下地を黒で縁取るという妙な配色のその剣は、

形状も一風変わった代物で、

ガード(つば)部分は左側だけが長く伸びており、


その先端は角の丸い二等辺三角形になっているだけだったが、

若干突き出た程度の右側のガードとの支点に、

黒光りする宝石が埋め込まれていた。


その宝石と柄頭を隔てる10センチ程の長さのヒルト(柄)も、

特に細工のないシンプルな物で、

もし艶のあるワインレッドの木製鞘に収まっていなければ、

[剣]と認識できたかどうかさえ怪しかった。


それを黙って見詰めているリエールに、横からマルケスが解説を施す。


「これが[リグレット]…」

「[後悔]と名付けられた剣だ」


反射的にマルケスを見たリエールの横からニーニャが続けた。


「作られた時に鞘に収められてから、未だ引き抜かれた事がないの」

「その間116年!」

「筋金入ってるでしょ?」


今度はニーニャに向き直って質問するリエール。


「何でそんなに勿体ぶってるんだ?」


それにはマルケスが応答する。


「勿体ぶるつもりなど、我々にはなかった」

「むしろ、早急に[引き抜く者が現れる]事を祈っていた…」


マルケスの側にいたフィリップが、その言葉のおかしな部分を指摘した。


「引き抜く者が[現れる]?」

「なぜ、皆さんがこれを抜かないんですか?」


マルケスは遠回りに理由を述べる。


「例の[本]だが…」

「フィリップ君も手に取ってみたか?」


フィリップは一同を見回してから、

「ええ」と、答える。


「重かったでしょ?」「重かったかい?」「重かっただろう?」


幻導士三人が、それぞれの言い回しで合唱する。


リエールもフィリップも、それによって[抜かない理由]の見当が付いた。


正確には[抜けない理由]というべきだろうか。


「あれと同じ性質なのだ」


エルニーが箱の縁を軽く二回叩いて解説を続ける。


「これは極端にそれが強くて、

僕等では持ち上げる事すらできないんだ」


その言葉に含まれる矛盾点に気付き、リエールがエルニーに発問する。


「どうやってこの中に入れたの?」


「この中に入れてからその性質を持たせたの」


「なるほど」


マルケスがリグレットを見下ろしながら詳細を語る。


「これ自体が重い訳ではないが…」

「例えば[資格を持つ者]以外の者が、テーブルの上に置かれたこれを、

直接触らずに道具を使うなりして動かそうとしたとしよう」

「するとこれは、その[意図]に反応し、

空間的に現在の位置をキープしようとするのだ」


エルニーが例によって補足を挟む。


「つまり、[その場から動こうとしない]という事だね」

「剣のクセにわがままだよね」


微笑む一同。


「だからって、地球の自転や公転を無視して、

宇宙的な位置に居座る訳じゃないよ」

「リグレットが自分の位置の基準にしているのは地磁気だから、

地動には従順なんだ」


リエールはいつもの様にフィリップと顔を見合わせる。


話をイマイチ理解してなさそうな二人にはお構いなく、

マルケスが続ける。


「ただ、あくまで地磁気を現在座標の参考にしているだけで、

磁力の影響を受ける訳ではない」

「それどころか、重力の影響も受けない」

「故に、テーブルをずらしても、床に落ちずに[空中停止]してしまう」

「その際、抗体を持たぬ人や動物、無機質な物体等では、

リグレット本体に触れる事さえできなくなる」

「触れようとしても、すり抜けてしまうのだ」

「光に関しても反射するより透過する比率が高まり、

半透明に見える程だ」

「その状態を解除するには、[コロナ]を…」

「つまり、例の抗体を宿すための[フラッシュ]を浴びせるか、

抗体を持つ者が触れれば良い」

「とにかく、抗体を接触させれば解除できるのだ」

「そうなれば重力も受けるし、無機質な床等でも落下は止まる」

「ただ、そうなった場合、

資格を持つ者でなければ、その場から動かせないがね」


一同の視線を受けるリエールは、

リグレットを見下ろしたまま硬直していた。


「その[資格]を持っているのが、

あの本を初めに手にした君なのだよ、リエール君」


リエールはマルケスの方を向き、

この状況下なら誰もが持つであろう疑問を呟く。


「でも、なぜあの本を手に取っただけで、おれに[資格]が…」

「それって、かなりいい加減な選出基準ですよね…?」


エルニーが軽く吹き出す。


「たしかに、一見するとそう感じるね」

「でも、本当はそこに奥の深い理由と仕組みがあるんだ」

「後で聞けると思うよ」


「ほう」


リエールと同じ疑問を持ったフィリップだったが、

その延長でどうしても合点の行かない部分があったため、

彼の質問に乗じて尋ねる。


「しかし、116年も前から資格を持つ人を探してたにしては、

あの廃鉱にあった白い部屋は新し過ぎるような…」

「とりあえず、前に行った時はなかったはずだし…」


マルケスが即答する。


「それはそうだ、なにしろ24回目の配置なのだから」

「君達の観た部屋は去年作られた物だ」


「五年間隔で配置が変わるからね」と、エルニー。


「なんでそんなに面倒な事を?」

「場所も分かりづらいし…、目立つ所に置けば良いのに」

「というか優秀な人材を連れてきたら良いのに」


フィリップのその指摘に、

微笑みながら顔を見合わせる幻導士達。


「うん、そこにも深い理由と仕組みがあるんだ」

「けど、とにかく今は抜く所を見たいし、後で説明があるから」

「ね?」


「ういうい、じゃあ後でじっくり聞くよ」


空気に飲まれたフィリップは、問題を棚上げして流れを戻す。


しかし、一度乱れたテンポの名残から、少し展開が滞る。


痺れを切らしたニーニャが、

リエールの左手を両手で掴んで、上下に揺さぶりながら言った。


「ねえリエール君、早く抜いて見せてよ」


ニーニャが手を離すと、リエールはリグレットに視線を戻し、

特に躊躇もなくサッと手を掛ける。


「こうゆうの、空想モノで良くあるよな」


116年もの間、

自分を持つ者をひたすら石の柩の底で待ち続けた剣は、

まるで雑貨店に並んだ商品の一つを、

無意識に手に取る客の如き[さり気なさ]で持ち上げられ、

その流れに乗ってあっさりと封を解かれた。


あまりの造作のなさに、場は静まり返る。


そして意外な事に、皆が注目するリグレットの姿が、

漂う静粛をより濃厚にした。


「これが…」


全容を露にしたリグレットは、

鞘の長さが70センチ程あったにも拘わらず、

刃の部分は僅か5センチ程度しかなく、

肝心なその刃も、みすぼらしく黒ずんでいたのだ。


それはどんなに優れた眼識に基づいて品定めしようとも、

116年もの長期に渡り、

これ程厳重に保管するだけの[価値と由緒]のある代物とは、

とても思えない見目形であった。


その時、背後からリエールとフィリップには初耳な声が響いた。


「やはり…、と言ったところか…」


反射的に声の方を振り向く一同。


そこには、落ち着いた雰囲気を纏った背の高い男が、

腕組みをしながら壁に寄り掛かって立っていた。


顎の骨格ラインがくっきりした顔の輪郭を、

清潔感のある黒髪ミディアムストレートで包み、

ボタン全開の黒いトレンチコートの下に、

白いワイシャツ、黒のベストを装着し、

ボトムスは黒の、更にはベルトも革靴も黒という、

この薄暗い場では殆ど保護色と言える程に黒で固めたその男の名を、

マルケスが囁く程の小声で口にする。


「ジャスティス…」


ジャスティスはそよ風の如く穏やかに、しかし素早くリエールに近付く。


そして、リエールの目の前に立ち、黙々と見下ろす。


間近にいるのに呼吸さえ感じさせない気配の薄さは、

正に[清閑]そのものだった。


しかし、不思議と威圧感はなく、

その男の行為一つ一つが奥ゆかしさを含み、

単純な動作にも、多くの知恵や経験が礎となっているのが感じ取れた。


[この男は多くを内に秘めている]という印象の裏に、

それが何であれ、信頼と安心できる雰囲気があった。


「君が[資格を持つ者]か…」


リエールは不意に鼓動が高鳴る。


次に、リエールの持つリグレットに注意を向けるジャスティス。


「…」

「分かってはいたが…」

「まだまだだな…」


その言葉の解釈に困ったリエールは、

自らの持つリグレットを見下ろしつつ尋ねる。


「まだまだ?」


少し下がって間合を広く取ったジャスティスは、

マルケスと目を合わせる。


「説明してないのか?」


マルケスは飛んできた視線を屈折させてエルニーに向ける。


エルニーは更にそれをジャスティスに返し、

「ジャスティスさん、お願いします」と、軽く付託する。


ジャスティスはそう来る事を分かっていたかの様に、

ポーカーフェイスで話し始めた。


「リグレットの姿は持つ者自身の反映…、

すなわち、能力や精神力、経験、知識、度量…、

それらに応じて[形状が変化する]のだ」


簡略な説明の後、振り返って入口に向かって歩き出す。


そして、部屋から出る一歩手前で足を止め、

背を向けたまま意外な名詞を口にする。


「リエールよ…」


驚いたリエールが、直ぐ様返事を返す。


「え?俺を知ってるんですか?」


マルケスが会話に割り込んできた。


「[景色に溶け込んで]立ち聞きしてたのさ」

「いつもそうだ」


「(いつから居たんだ?まったく気付かなかった)」


ジャスティスはその言葉には特に反応せず、

左半身をリエールに向けて静かに開口する。


「後で[ライブラリー]に来てくれ」

「リグレットを手にする意味…、そして、君に[資格]がある理由…」

「その疑問に応じよう」


振り返って通路へと足を踏み出したジャスティスに目線を送りつつ、

全員を対象にした声明を発すマルケス。


「丁度いい」

「これからこの二人とあの娘を連れて、

ライブラリーに向かおうと思っていた所だ」


マルケスにチラッと振り返ったジャスティスは、

ちょっとした情報を残しながら部屋を後にする。


「あの娘なら、既にライブラリーで読書に夢中だ」


それを聞いたリエールとフィリップは、

御馴染みの顔見合わせをしてニヤつく。


そしてリグレットを鞘に収め、マルケスの方を振り向くと、

「マルケスさん、ここでまだなんかあります?」と、

せかせかした口吻こうふんで尋ねるリエール。


しゃがみ込んで箱の蓋を掴みながら返答するマルケス。


「後は我々が片付けておくから、君達はあの男に付いて行くといい」


二人はそれを聞くや否や、再び顔見合わせをしてうなずき、

走ってジャスティスを追い掛けた。


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