5章:喪失
ふと、にぎりかえしたてがきえていた。めのまえから志保がいなくなっていた。きもちのわるいみぎてのかんしょくもすべてきえていた。まわりをみまわす。てんいんもおきゃくも、ぼくにしせんをそそいでいた。
さいふをテーブルにおいてすぐにみせからでた。なんともいえないひょうじょうをしていたとおもう。
まちじゅうをあるきまわった。志保はいったいどこにいってしまったんだろう。どこをさがしてもいない。ぶつかった人のしせんがとんでくるが、ぼくのしったことではない。志保にあいたかった。 ――もしかしたらさきに、ぼくのいえにかえっているのかもしれない。ぼくはきろをいそいだ。
「ただいま」
いつもどおりのきたく。そうだ、かあさんにそうだんしてみよう。そうおもったとき、かあさんのこえがきこえてこないことにきがついた。
りびんぐにも。だいどころにも、げんかんにも、ぼくのへやにも。
――いなかった。
「ああ、そっか」
「なにがまちがっていたんだろう――」
まっくらだ。
「あああああぁああぁぁあぁぁあ!」
放課後、ほとんどの全校生徒が帰ったであろう教室でその集会は行われていた。
「それでな、アイツの噂知ってる?」
あの日、俊介が不登校になってから一年の月日が流れていた。
夕焼けに焦がされ続けるグラウンドを見つめながら、雄二は言葉を続けた。
「あいつな、なんか絶対イっちゃってたんだって。俺の言うこと、何にも聞こえてねえみてぇでさ、変なことばっか言うの」
かつての友人を尊ぶ彼の姿はそこにはなかった。親友という肩書も、あの日の悲しみも、とっくに廃れたものになっていた。
「なあ、今度志保さんの墓参り、皆で一緒に行かないか? って言ったんさ。そしたらあいつ、すげえ嬉しそうな顔してよ、物凄く楽しみだ、だってよ! 意味わかんねぇ!」
雄二の隣の男子生徒が声を上げる。金髪にピアスが印象的なその生徒は、過去に校内で暴力事件を起こしたことでも有名だった。
「ああ、わかるわかる。みんなもわかるっしょー? あいつの異常ぶり。二年生の教室に乱入してカーテンに抱きついたんだってな! 志保、志保! ってさ。うわマジキモ」
「そうそう。そんなん聞いたことあるな。カフェとか行って一人で喋ってたらしいぜ。しかもしょっちゅう。どんだけだよー」
他の取り巻きも声を上げ始める。皆、今の雄二の仲間だった。
「だよなー。イっちまってたって絶対アレ。家ん中でもさ、あいつ一人しかいねえ筈なのに、近所の人は喋り声聞いたらしいぜ」
「うっわ、マジで。スゲー、俺も聞いてみたかったわー。近所通りかかったら聞こえたんしょ? 今もいねえかなあ。なんてね」
生徒達の顔が嘲笑に歪む。雄二も例外ではなかった。かつて親友だったころの面影は微塵もなくなっていた。
話題が絶えない教室に、壊れたかつてのクラスメイトを嘲笑う集団だけが生きていた。