プロローグ:バス事故
※暗めのお話で少し描写がアレかもしれません。悪しからず。作者、一応R14程だと思っております。
『2011/7/14:バス横転事故発生。乗客と運転手、併せて十数名死亡。怪我人多数。走行中、運転手の不注意により対向車の確認が遅れる。ぶつからずに済んだものの、過度のハンドリングにより横転の模様。警察は引き続き詳しい調査をし、状況を明確に―――。』
双眸にはテレビの画面が映りこんでいた。ただただ、呆然と見入っていた。悲惨な事故現場だ。そう、いつもの彼ならその程度の感想で済んだだろう。確かにさして違いはない。稀にニュースで目につくバスの事故だ。彼の身内が乗っているかもしれない点を除いたならば。
慌てて携帯電話を手に取る。彼の手が的確な操作を欠いているのは、急いでいるという理由からだけではないのかもしれない。次から次へと分泌される焦りが、彼の携帯電話に付着する。その機械の無機質さは、まるで今から予測する事態を肯定するかのようだった。
「くッ…そっ、はやくッ…」
焦燥に駆られ思わず口走る。電波を通してコール音が携帯電話から聞え始める。呼び出し音が長い。永遠とも思える数度目のコール後、ようやく回線は繋がった。
「あっ! 俺! 俊一! 母さん!?」
『……お掛けになった電話番号は、電波の繋がらない場所にいらっしゃるか――』
床に携帯電話が叩きつけられる。耳ざわりな音とともに破片が飛び散り、彼の頬を掠めた。――繋がらない。
彼は途方に暮れた。何故か先程から不幸なイメージが拭いきれない。自分を熱心に教育してくれた母。昔成績が優秀だと誉めてくれた笑顔。その顔が、表情が、もう一生涯見ることができないような、そんな感傷を抱かずにはいられなかった。自らの頬を赤い雫が濡らしている事に気付けないまま、壊れた携帯電話を見つめていた。
――彼が唯一の肉親の不幸を聞くことになるのはそれから3時間も後の事だった。