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グランディーヤの至宝。そんな大層なものにわたしはなったつもりはないのである。
さてさて、寝込んでいたらいつの間にか始まっておりました、大祭。
大祭というだけあってそりゃあもう人がすごい。遠い国の一族なんかは代表者だけしか来てないらしいんだけど、それでもうわー、って感じですよ。うちで働いてくれている人も全部一族の人間だしね。どんだけいるのよ、とうんざりするのも仕方ないと思います。
さて、この大祭。今年が大がかりなだけで実は毎年あってたらしい。
らしい、というのはあたしは屋敷のなかでも特に奥まったところに自室があるせいで、お客様を迎える部屋が並んでいる区域であってることはわからないのだ。今回は、大祭があるっていうんで、重い腰を上げて自室から出てるんだけど。
ジョアンナたちに連れられてきたのは、大ホール。しかも奥の扉。イメージ的には王様用出入り口だと思ってもらえればたぶんぴったり。ここから入るなんて目立つから嫌なんだけど、という視線を送るもジョアンナがわたしの意見を聞いてくれるわけもなく、気が付けば目の前の扉が開かれ、一段高くなった檀上のまん真ん中にわたしは立たされ、グランディーヤの至宝だとかなんとか父様に言われてしまった、というオチなのです。
「今宵、グランディーヤの至宝を皆の目にかけることができ嬉しく思う。しかし先立って伝えたように、彼女は身体が強くない。本当に顔見せだけになってしまうが、どうか理解して欲しい」
父様はそれだけ言うと、わたしの背中をそっと押して微笑みかけてきた。
いや、微笑まれても意味わかんないんですけど!?
要は、あいさつしろってこと?
「…お初にお目にかかります。リリーナです。どうぞよろしく」
ちょっとどうよ、って感じの挨拶だけどわたしがぺこりと頭を下げた瞬間、歓声が響き渡ったからどうも問題はなかったよう。
でも、歓声がくるとはさすがに思ってもみなかったよ。しかもよくよく見れば、感極まったのか泣いてる人もちらほらいるし。
今のあいさつのどこにそんな要素が?と思うけど、こっちの世界の人と向こうの常識が根強く残ってるわたしとはまた感覚が違うのかもしれないってことにしておく。でなきゃ恐ろしすぎる。スルースキルって大事だよね!
それからしばらくして。
立食パーティーみたいなのが始まった。いつの間にか姿を消していたジョアンナが再びわたしの後ろに立って飲み物やら食べ物やらを差し出してくる。あんまり好きじゃないやつもなかにはあるんだけど、ジョアンナがにっこり笑ってるからこれは食べなきゃダメなんだろう。
「具合はどうだい?」
「ウィル」
最初は父様や母様のそばにいたのだけど、ひっきりなしに人が来て挨拶するので途中からわたしは会場の隅っこにいた。姉様や兄様も人と話すので忙しそうだったし。
「顔色もよさそうだし、問題ないみたいだね。ただ無理だけはしないこと」
いいね、と微笑むウィルは正装のせいもあっていつもより数倍きらきらしている。サングラスがほしいくらいです。
「ウィルは知ってたの?」
わたしが「グランディーヤの至宝」だとかいう存在だってこと、と後半口に出さずに問えば、察しの良いいとこはすぐに理解できたらしい。もちろん、と笑う。
「リリーナが思っているより、リリーナの存在はグランディーヤにとって重たいものなんだよ。だけど、それとは別にリリーナが僕の大事な子だってことはわかっていてほしいな」
暗に、グランディーヤの至宝だから大事なのではない、と伝えてくるウィルの気持ちが嬉しい。
「それに、きっと一族のみんなもそうだよ。特にリリーナはずっと大祭に出席したことがなかったろ?だからみんな公爵の末娘を見たくて仕方なかったところに、とびっきり可愛い君が現れたものだから感動しすぎて泣き出した人もいるくらいだよ」
「えー…」
それは若干どうかと…。
確かにわたしの顔が転生前とはかなり変わって美形一族にふさわしいものだってことは理解してるけど、父様とか母様とかの色気ある美貌には敵わないし、兄様や姉さま、それこそウィルだって若々しくて花のある顔をしてるくらいだからわたしの顔を見たところで感動しないんじゃないかなぁ。
「ま、その自己評価の低さはともかく。明日からはいろんな人が挨拶に来るだろうから今日は早めに退出していいよ。デザートが欲しければ部屋に用意するよう言っておくけど?」
参りましょうか、お姫様、なんてとびっきりの美形にとびっきりの笑顔で言われたら断れるわけがない。
明日からのことを考えてちょっと憂鬱になったけれど、おとなしくウィルの手を取ったのだった。
+ + + その頃の兄様と姉様の会話
「ちっくしょー。なんでウィルなんだ!僕だってリリーナをエスコートしたい!」
「言葉づかいが乱れてるわよ。それをいうならわたしだってそうよ!あんなに可愛らしいリリーナをエスコートできないなんて」
「じゃんけんで勝負したのが間違いでしたね」
「そうだな、ウィルにじゃんけんを挑むのが間違いだった」