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ヒメゴト  作者: 渡辺律
常識はなにより大切です。
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ちょっと短いですが。

前置き的な感じで。

 年に一度、各地から一族の人間が集まっていろいろなことを話し合ったり、これからのことを決めたりする会議がある。それが大祭。特に今年は五年に一度の大掛かりなものなせいで、うちの使用人たちは大慌てで準備に追われていた。









「シンシア様、どうなさいますか?」

「お断りしておいて。一体、なんなのかしら。この時期にお茶会のお誘いだなんて」

「グランディーヤの一族に加えてもらいたい、ということではありませんか」

「ふん。あんな牛蛙みたいな男をうちの一族に加える、なんてありえないわ。自己保身だけが上手な人間なんて使えないし」

「左様でございますわね。こちらでお返事をさせていただいても?」

「ええ、忙しいと思うけど、よろしく頼むわ。それより、リリーナの体調はどう?」

「だいぶ食欲もお戻りになり、大祭までには持ち直すだろうとのことですわ」

「ならいいのだけど。カリナ、あなたにも苦労をかけるわね」

「もったいないお言葉ですわ」


 シンシアのねぎらいに、シンシア付筆頭侍女であるカリナは頬を染めて嬉しそうに俯いた。生まれたときから主家に対する忠誠を徹底的に叩き込まれる彼女たちにとって、主からの言葉は何より嬉しいものだ。それをシンシアもわかっているからこそ、感謝の気持ちはストレートに表すようにしていた。彼女たちによって自分たちは支えられているのだということを、シンシアはよく理解していたから。



 大祭を一週間後に控え、屋敷はてんてこまいだった。

 なにしろ、世界中から一族の人間が集まるのだ。しなければならないことは多い。とはいえ、一族の人間はグランディーヤ公爵家には滞在せず、宿泊用の建物に逗留することになっているのだが。

 今年の大祭では、初めてリリーナが出席することになっている。そのことにどれほどの意義があるのかわかっていないのは当のリリーナだけだろう。グランディーヤ一族が待ちわびた存在であることを彼女は知らない。知らせる必要もない。彼女が存在さえしていてくれればグランディーヤ一族は満足だし、シンシアにとってリリーナは可愛い妹。健やかにあって欲しいというのが心からの願いだ。



「王太子の方はどうなっているか知ってる?」

「婚約の話は延期にはなったそうですよ。もちろん、婚約話自体は白紙になってはないので、本当に時間稼ぎといった感じですけど」

「ってことはまだあきらめていない、ってことよね」

「どうも王宮に探りをいれましたら、王太子の側近の方々もリリーナ様が王太子妃になるのに賛成しているとかでそちらの働きかけも大きいようです。陛下もリリーナ様を気に入っておられますし」

「厄介ね」


 シンシアは手に持っていた紙の束をばさり、と机に放った。

 王太子が一途な男だけに始末が悪い。一途な男に別の女を宛がったとしても振り向きはしないだろう。しかも無駄に知恵が回るからリリーナを手にできるために尽力を惜しまない。王太子、という肩書を外してみると悪い男ではない。

 悪い男ではない、のだが。


 リリーナが王太子にまったく興味ないのよねぇ。


 はぁ、とシンシアはため息を吐いた。

 可愛い可愛い妹であるリリーナには幸せになってもらいたい。好きな男に嫁ぐというのも一つの幸せだろう。だが、肝心要のリリーナが恋愛ごとにさっぱり興味を持っていないのだ。そんな妹を無理やり誰かの嫁にするなんてできやしない。


 あ、でも結婚しないならずっとうちにいることになるわよね。

 そしたらいつだってリリーナに会えるし、思う存分構えるし、楽しいわよね。

 嫁がれたら、相手の家に入るわけだから簡単には会えなくなるし、べたべたできないし。そんなの嫌だわ。

 だったら結婚しなくてもいいんじゃないかしら。




+ + +




 先ほどまで、どこかアンニュイな雰囲気をまとっていたシンシアが急に明るくなったのを見て、カリナはほほえましくなってしまった。

 自分の主たるシンシアは公爵家の長女に相応しい落ち着きと聡明さを兼ね備えた素晴らしい女性であったけれど、こと妹たるリリーナのことになると途端に落ち着きをなくすし、突拍子のないことを言い出してリリーナに呆れられたりしているのだ。リリーナとシンシアが並ぶとリリーナの方が落ち着いているということが多々あるため、時々、どちらが姉なのかわからなくなるくらい。

 カリナとしてはリリーナのことも大事だが、シンシアのことはもっと大事なのでシンシアがにこにこしていればそれだけで満足だ。きっとシンシアのことだからリリーナは結婚しなくていいんじゃないか、という結論に行きついて喜んでいるに違いない。カリナにとってもそれは喜ばしい。

 だって、大事なリリーナのそばにいることができるし、リリーナを見てご機嫌なシンシアの顔を見ることができるのだ。筆頭侍女としてこれほど喜ばしいことはあろうか。


 シンシア様とリリーナ様の幸せのために。

 ぐっとこぶしに力を込めたカリナは王太子の情報をもっと入手せねば、と心に決めたのだった。あんな男にリリーナ様はやれない!



次回は大祭とか王太子の話とかが書ければいいなー、と。

お待たせしておりますがどうぞよろしくお付き合いくださいませ!

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