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ヒメゴト  作者: 渡辺律
ありがたくもない出会いと騒動の結果。
2/30

ごめんなさい。嘘つきました。前後編で終わらなかったのであと一話、続きます。

 王太子から求婚された日から公爵邸内はてんやわんやしている。お父様は疲れた顔をしていらっしゃるし、ラルフ兄様はシンシア姉さまとヒューイ兄様に詰め寄られてすでにへろへろだ。


 ラルフ兄様が姉さま達に詰め寄られているのには理由がある。

そもそも、あの日、王太子なんぞがなぜ公爵邸内にいたかというと、なんでもラルフ兄様と皇太子が密談するためだったらしい。なんでお城じゃだめなの、とかいろいろ思うところはあるのだけれど、城勤めにはいろいろあるんだよ、とどこか遠くを見て言うラルフ兄様を見ていたら、ああ、いろいろあるんだろうな、と思って、ちょっとラルフ兄様がかわいそうになった。ラルフ兄様の背中が哀愁漂う中間管理職42歳のオジサンに見えたなんてことは秘密。





 王太子から求婚を受けたわたしなのだけれど、もちろんお断りするつもりだ。

 というかわたしの見た目はどう見ても10歳。日本なら小学四年生だ。そんな相手に結婚を申し込むなんて、さては王太子ロリコンだな。ロリコンと結婚して、ロリじゃなくなった途端、浮気されるなんてことになったら悲惨で目も当てられないし、だいいち、ロリコンは変態の一種だ。変態が好き、とかいう心得はないので、謹んでご遠慮させてもらいたい。

 それに、わたしは一生結婚するつもりもないのだ。

 わたしが結婚するってなったら、わたしを溺愛している家族がうるさいし、精霊さんたちもうるさい。わたしの周りには常時、精霊さんたちがいて、わたしにちょっとでも敵意があろうものなら、先手必勝とばかりに攻撃するような精霊さんたちばかりなのだ。普段、というかわたしに対してはとても優しいのだけれど。


 精霊さんたちによると、わたしは精霊のいとし子というやつらしい。いとし子だからなんだ、といいたいのだけれど、ただわたしが存在しているだけで精霊さんたちは満足なんだとか。

 だったらわたしが誰と結婚してもいいと思うのだけれど、精霊さんたちはわたしを独占できないのに、たかが人間の男にわたしを独占されるのはむかつくらしい。なんて身勝手な精霊さんだ、と思わずにはいられないけれど、もともと精霊というのは身勝手らしいからしょうがないのかも。わたしに害がなければいいや、と半ば放置している。

 それに、わたしの遊び仲間が精霊さんたちであることに間違いはないし、人間のお友達というのがいないわたしにとって精霊さんたちはとても大切な存在でもある。人間のお友達がいないというとなんかさみしい子みたいだけれども、こればっかりは仕方がない。お母様に言わせると、わたしはとても利用価値が高いのだとか。

 それもそうかもしれない。

 なにせ、魔法力の高さは成長の遅さからして折り紙つきだし、精霊のいとし子だとかで、なんの対価もなしに、高位精霊を使役できる。これは実はすごいことなんだって、最近ようやく知りました。


 魔法とは異なり、精霊術は精霊さんの力を行使するわけだから、術者に求められるのは精霊に好かれるか否か、という一点のみ。しかし、精霊に好かれたからといって、無対価で術を行使できるなんてことはないのだとか。要は、ギブアンドテイクってことらしい。

 精霊によって対価に何を求めるかは異なるのだけれども、わたしはなんにも求められたことがないから、どんなものが対価になるかはわからない。

 とりあえず、精霊術を使うのにも限界があるのがふつうだ、っていうことです。はい。









+ + +









「リリーナ、出かけるから、ジョアンナに言って仕度してもらいなさい」


 王太子から求婚?されてから三日後。疲れた顔をしたお父様に呼び出されて、そう言われた。

 お出かけ?どこに?と聞きたかったけれど、それどころじゃなさそうだし、ということでおとなしく自室に向かい、ジョアンナに仕度をお願いする。出かけるとなると、やはり公爵家の娘として相応しい服装が求められるので、到底、自分では準備できないのだ。


「久しぶりのおでかけですわね」

「うん。嬉しいんだけど、なんだかなぁ」


 ジョアンナに髪を結ってもらいながら、わたしはぐるぐるしていた。精霊さんたちはこの場にはいない。着替えるからその間どこか行ってて、と先ほど部屋から追い出したのだ。いくら精霊さんと仲良くても、着替えを見られる趣味はない。露出狂でもあるまいし。


「あら、なにか気にかかることでもございまして?」

「いや、どこに出かけるのかなぁ、とか、出かけていいのかな、って。普段、出かけることなんてないから、マナー違反なことしちゃったらどうしようとか、いろいろさぁ」

「そうですわね。リリーナ様はお出かけされたことあまりありませんわね」

「うん。わたしの体がまだまだ未成熟だってこともわかってるし、別に外に出たいっていう欲求もあんまりないから別に気にしてはないんだけどね。読みたい本はお父様がすぐに手に入れて下さるし」


 そう、わたしは公爵邸から出たことがほとんどない。出たことがある、といえば、二度ほどお父様のお姉さま、つまりわたしの叔母にあたる人の家に行ったことがあるだけだ。


「今日、どこにでかけるのか、ジョアンナは知ってる?」

「ええ。ですが旦那様には秘密にしておくように、と言われましたので残念ながらお伝えできませんわ」

「ううううー。いじわるー」

「申し訳ありません。ですがおしゃれをすること自体は嫌いではありませんでしょう?それに、外に出かけられることはそうないとはいえ、常に礼儀作法には気を使っていらっしゃいますから、そこまで緊張なさらなくても大丈夫だと思いますわ」

「だといいんだけれど」

「いざとなったらシンシア様やラルフ様もご一緒なさるそうですから、こっそり質問なさればよろしいのですよ」

「姉さまたちも行くの?なんだ、だったら心配いらないかも。あんなにきらきらした人のなかにいたらこんなちびっこなんてきっと見えないわよね」


 と、わたしが心から安心している後ろで、ジョアンナが、リリーナ様も十分きらきらしていらっしゃるし、リリーナ様が主役なのだから見えないわけがない、とこっそり思っていたことをわたしは知らない。





 ガタガタと馬車に揺られること数分。わたしはお父様、お母様、ラルフ兄様、シンシア姉さまと同じ馬車に乗っていた。残念ながら次兄のヒューイ兄様は今日はお仕事を休めないとかでここにはいない。心底悔しがっていたから、もし帰りに時間があればお土産でも買っていきたいものだ。せっかくだし。

 いつの間にか馬車はお城へとついていた。正門ではなくて隣にある普段使われている入口のすぐ前に馬車が停まる。お父様やラルフ兄様が降りてから、彼らの手を借りてわたしが最後に馬車から降りた。


 予想していたとはいえ、初のお城だ。これが王太子の求婚相応とまったく関係なしの訪問だったら心から喜んでいたに違いない。なにせ、わたしがまだ日本で生活していたとき、ヨーロッパではホテルとして利用されているお城があると聞いて、一度は行ってみたいと思っていたのだ。公爵邸も城みたいなものだけれど、やっぱり王様がいた方が本物のお城、という気がする。

 

 やっぱり、お城ってことは、王太子の求婚の件だよね。


 わたしは心のなかで大きなため息を吐いた。侍従らしき人の案内に従って、進んでいるのだが、どんどんお城の中心部に向かっているような気がしてならない。お城の中心部といえば、ふつうはお偉い人がいる場所じゃなかろうか。お城でえらいひと、といえばそりゃあ王様だ。




 で、案の定、わたしたちを迎えてくれたのは王様だった。


「よく来たな。ええと、それでリリーナ嬢はどこかな?」

 こりゃまたえらいフランクリーな王様だなぁと感心していたら、大きな手のひらでわしわしと髪をなでられた。

 ちょっ、まだ自己紹介もしてないんですけど。しかもそんな力強くなでられてたら倒れる。


 倒れそうになる前にお父様に支えられた。


「陛下、うちの娘で遊ぶのはやめてくださいませんか。というか見るのもやめてください。減る」

「なんだよー、けちだなー。俺が見たからといって増えることはあっても減ることはないぞ」

「そうですね、あなたがいるだけで心労は増えるでしょう。ですが、精神力は間違いなく減ります」


 お父様、王様相手にそんな言い方して大丈夫なんですか。というか、王様、そこらへんにいる酔っ払いみたいなんですけど、これ、影武者とかじゃないですよね?


 減る、減らないという小学生のような口げんかをしていた二人だけれど、お母様のおだまりなさいという言葉に静かになった。いつの時代でも母は強し。


「減るとか減らないとかはどうでもいいですわ。ええ、陛下が仕事をしないせいで、わたくしが旦那と会えない日があって寂しいとかそういうことは言いませんわ。それより、陛下、なぜお止になりませんの。シンシアならばともかく、リリーナとの結婚は無理でしてよ」

「ははは。そのことなんだがな、本人に言わせるのがいちばんいいと思って。本人を呼んであるんだ。今ちょっと仕事で席を外しているんだが。ま、ちょっと待ってくれや。もうすぐ来ると思うからよ」


 こうしてわたしはロリコン王太子と再会することになる。

次回、最終決戦。ロリコン王太子との攻防。

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