05
ちょっと短いですが。。。
過保護だ、と胸を張って主張したいけれど、主張したところできっと誰も聞き入れてはくれないんだろう。
顕現した黒翼をおともに外出してから数時間後。いつの間にかするすると現れたマティアス叔父様に連れられて、家に戻ってきた。もちろん馬車のなかでお小言を頂戴しましたとも。ええ。
いわく。
外出を禁じるまではしないけれど、外に出るなら出るできちんと影を連れていきなさい、と。
影、というのはグランディーヤ一族に仕える人たちのことで、主にひっそりとした仕事を請け負っているらしい。要は諜報員みたいな?あとは、わたしたち家族の警護だ。
正直、黒翼とか精霊さんたちのうち誰かが常にそばにいるから、わたしの警護は必要ない、と言いたいところだけど、それが受け入れられることはない。精霊さんと人間はまた別物だから、だそうだ。それって理由になってんの?
とにもかくも。家にたどりついてまずは一息。メイドさんがすかさず、いれたてほやほやの紅茶を差し出してくれる。香りを楽しんでから、飲むとほっとした。外出もいいけど、やっぱり家に勝る安心感はない。
「でも、なぜ急に外に出ようとしたのだね?」
「気晴らし、かな。ねぇ、叔父様からもお父様たちに言ってくれる?リリーナを働かせてみれば、って」
「おや、まだそんなことを言っていたのかい?」
「ひどいわ、当たりまえじゃない。うちで職に就いていないのはわたしだけよ。姉さまも母様もお仕事があるのに」
「リリーナ、本当はわかっているだろう?だいぶ良くなったとはいえ、まだ君の身体は完全じゃない。魔力の器である身体ができあがってないうちは何が起こるかわからないんだよ。それで困るのは君じゃなくて、周りの人間だ。リリーナ、君は賢いからわかるだろう?」
マティアス叔父さまの優しい瞳に、しぶしぶながら頷く。
確かに、だいぶ成長できたとはいえ、いまだわたしの身体に魔力が馴染み切れていない。白飛にいわせると、わたしの魔力はまだまだ増幅中らしい。いつまで増えるのかわからない。
わたしが頷いたのを見て、マティアス叔父さまが嬉しそうな顔でよしよしと頭を撫でてくれる。子ども扱いされているみたいでなんか恥ずかしいのだけれども、マティアス叔父さまの大きな掌で撫でられると安心もする。
「それより、マティアス叔父さま、今日はどうして家に?」
「ああ、兄さんに伝えたいことがあったのと、最近、リリーナに会ってないなぁと思ってね。それと珍しいお菓子を手に入れたんだ。せっかくだからね」
「わー、嬉しい。叔父さまの持ってくるお菓子はいつもハズレがないから好きよ。わたし好みなの」
「もちろん、リリーナの好みはわかっているからね」
ぱちん、とウィンクする叔父さま。うう、普通の人がやったら気持ち悪いだけだけど、叔父さまがすると様になるからすごい。叔父さまもグランディーヤ一族なだけあって、美形。お父様と系統は似てるかな。年齢とともに渋みを増してだんだんダンディーになっていくタイプ。
わたしと叔父さまはしばらく紅茶を楽しみながらいろんな話をした。叔父さまもお城で働いているんだけど、仕事柄お城以外の場所にもあっちこっち行ったりするから、わたしは叔父さまの話を聞くのが大好きなのだ。
「あら、楽しそうね。わたくしも仲間にいれてくれないかしら?」
「お母様っ、お帰りなさい」
夕食の時間のちょっと前にお母様が帰ってきた。今日はお仕事とかで早朝から出かけていたのだ。
「アリシア、今日も美しいね」
「ふふ、ありがとう。マティもシャーフには劣るけど、かっこいいわよ」
「それはありがたいのかどうかわからないけれど、相変わらず夫婦仲はよさそうだね」
「ええ」
にっこり、とお母様とマティアス叔父さまが笑いあう。眼福ですな。
ちなみに、シャーフ、というのはお父様の名前だ。お父様とお母様はお互い名前で呼び合ってるから。グランディーヤ一族の結婚はすべて恋愛結婚、というだけあって、うちのお父様とお母様は未だにラブラブである。ちょっと暑苦しいときもあるけど、そういう夫婦っていうのはあこがれる。まあ、結婚するつもりは毛頭ないんで、関係ないんだけど。
おいしい紅茶においしいお菓子。最高だ。
まったりしていたところで、家令であるスチュアートが来客を告げてきた。わたしは聞こえてきた名前ににっこりする。スチュアートの後ろから応接間に入ってきたのは、マティアス叔父さまの息子であり、わたしにとっては最も歳の近い従兄であるウィリアムだった。
「ウィルっ」
わたしはついつい、嬉しくなってウィルに飛びつく。わたしがウィルを非常に好ましく思うのは、彼がとても理性的な人だからである。
ウィルはにっこり笑いながら、レディがそんなことをしてはだめだよ、と頭をやさしく撫でてくれた。そういうところはマティアス叔父さまとそっくりでさすが親子、と思う。顔はあんまり似てないけど。
ウィルも当然のことながら、美形だけど、マティアス叔父さまよりか、叔父さまの奥さんであるダリア叔母様に似ている。中性的な美人さんだ。わたしはウィルが来ると、ウィルにべったりだったから、お兄様たちにはなぜだ、と涙ながらに問い詰められたことがある。美形はどんな顔でも美形だけど、涙ながらに迫られるのはさすがのわたしでも怖かった。逆にわたしが泣き出す羽目になり、お母様がそりゃあもう恐ろしかった。思い出したくもないくらい。
「父上、これはなんですか?」
ひらり、とウィリアムがどこからともなく取り出したのは一枚の紙。それにしてもどこから取り出したのかしら。
叔父さまはウィルの取り出した紙を見て、驚きもせず平然としたまま、その通りだとも、と答えた。
「あなたに休暇なぞあるわけないでしょう。それがなんですか。休暇に入る、仕事は自分たちで片付けろ、なんて。陛下に呼ばれてるので、明日朝イチで王宮へ向かってくださいね。そうでないと、取り上げますよ」
「ハリーあたりを向かわせておけばいいよ。そんなことより、リリーナが足りないんだよ。足りないんなら補給しないといけないだろう?」
いや、それもどうなのよ、とつっこみたいけれどつっこめない。いまいち、よくわからん親子喧嘩っぽいものはつっこみどころ満載なまま進んでいく。
「だったら私のほうがリリーナ不足です。不足度でいけば私の方が上。となると私が先に休暇をもらうべきでしょう」
「青二才が何をいってることやら。君たちには不足しているくらいでちょうどいい。リリーナを補充していいのは私くらいになってだとも」
「なにを」
これが王宮内でも人気を誇る二人の実態だなんて、一族の外には絶対洩らせない秘密である。外面だけは大変いいのに、どうしてこう、意味のわからないことで張り合うのかわたしにはさっぱり。しかもわたしが足りない、ってなんだそれ。わたしはビタミンでもなんでもないぞ。