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ヒメゴト  作者: 渡辺律
変態も外面だけはいいようです。
13/30

幕間 1

カーターが王太子を好きすぎる。

 ラグントン家は魔術師一家として有名な家系だった。一族のほとんどが魔力を有し、これを行使する術を知っている。そんななかで全く魔力を持たずに生まれてきたカーターはラグントン家の面汚しと呼ばれていた。


 カーターの一つ上の兄、カーチェは将来素晴らしい魔術師になるだろう、とラグントン家でも評判の子どもだった。魔力の大きさもさながら、頭の出来も素晴らしく良かったためだ。カーチェが光とするならば、カーターは影だった。

 生まれた際に全く魔力を持っていなくても、成長すれば魔力を持つこともある。これはある程度成長しないと魔力に身体が耐えられないためだと言われている。だから幼いころは希望が持てた。いつか、自分も魔術師になれるかもしれないと。成長するたびに希望は薄れ、やがて絶望へと変わっていった。


 ラグントン家の面汚しと呼ばれ、辛く当たられていたカーターを引き取ってくれたのはなんと王太子だった。たまたまラグントン家を訪れた際に、カーターを見つけたのだ。なぜ王太子がカーターを自分の側近にしようとしたのかカーターは知らない。だけれども。カーターは王太子のためならば自分の命も惜しくないと思えるのだった。





「と、いうわけで、決して王太子殿下は悪い方ではないのです。言動がストレートなせいで、誤解されがちなところもありますが。しかし、きっとリリーナ様を幸せにしてくださるはずです」


 両手を握りしめ、力説する騎士にわたしは見えないように息を吐いた。


 身内の不始末は自分の不始末でもあるから、どうか謝罪させてほしい、といつぞやの騎士が言ってきたので、別に謝罪など望みはしなかったけれど、受け入れるのも人間としては大事だよね、というわけで空気を読んだわたしはカーターを家に招きいれたのだった。

 それが間違いだった、と気づいたのは、カーターが滔々と話し始めてから三分。

 自分がラグントン家の面汚しと呼ばれていたことから、王太子に拾われるまでのストーリーを語られたところで飽きた。


 正直、他家でどういうやり取りがなされているか、なんてさっぱり興味ない。そりゃあ、多少かわいそうだなとかそういう感想はあるけれど、それはそれ。他人の不幸自慢ほど面倒なものはないと思うのだ。

 しかし、家に招き入れたのは自分であるし、とわたしは内心あくびを噛み殺しながら、カーターの話を聞いていた。






 ようやく話が終わった。

 長かった。しかし、というわけで、という接続詞はおかしくないか?とつっこみたいが、やめておく。なにせわたしは元日本人。空気は読むし、本音は基本、八つ橋にくるむ。たまに本音ぽろりするけど。

 どうもカーターさんはわたしに王太子と結婚してくれ、と言いに来たらしい。これが王太子の差し金だと問答無用で追い出すのだが、どうもカーターさんの真摯な願いらしい。独断専行というやつですね。人としては素晴らしい行動なのかもしれないけれど、騎士としてはどうなんだろうと思わなくもない。騎士が上官の命令に従わないなんて使えないにもほどがあるから。




「残念ですがお断りいたします。あのときもわたしはそう言ったはずですが?」


 なるべく冷たく聞こえるように言ってから、メイドさんの入れてくれた紅茶を口に含んだ。これであきらめてくれるといいのだけれど。

 

 しかしさすがメイドさん!

 深い藍色のワンピースに白いエプロンという格好は伊達ではないです。目の保養にもなるし、うはうはです。



 わたしの言葉に多少ひるみながらも、ですが、とカーターは反論してきた。


「王太子殿下は本当に素晴らしい方なのです」


 出るわ、出るわ。王太子の自慢?が。

 いかに王太子がすばらしくて、そして王太子が真摯にわたしを望んでいるのだと、わたしが負担に思うようなことは何一つないのだとつらつらと語る。

 

 正直言って、そろそろわたしは飽きていた。

 だって、何度言われようともわたしは王太子の求婚に対し、イエスの返事はしない。

 それは精霊さんたちがとなりにいるから、ということではなく、王太子が統治者として素晴らしい人格を有していたとしても、それはわたしが人生を過ごす上での伴侶としての資質ではない。むしろそのような人を伴侶に持つほうが大変だと思う。

 わたしはどちらかというと一人が好きだ。これはまだわたしが日本で生きていたときからそうだったから、もともとそういう性質なのだろう。

 精霊さんたちはもう慣れたし、人とは違う生き物なので別に気にもならないが、王太子の伴侶となれば違う。プライバシーなんてなくなるに違いない。それが当たり前で今まで生きてきた王太子とわたしではきっと考え方が根本的に異なるし、そういう人のところにわざわざ嫁いで自ら苦労しようという情熱などわたしにはありもしないのだ。



 わたしの呆れ顔にも気づかず、いかに王太子が素晴らしいかをいまだ語っているカーター。恋する乙女かとつっこんでやりたい。

 どこまで待っても終わりそうにないので、わたしはソファから立ち上がってドアを指し示した。


「御帰りを。あなたの謝罪は受け取りました。それ以外の事項については不要です。あなたに指図される云われもない。帰る気がないのであれば、強制的に排除しますが」


 いかがなさいますか、とわたしはにっこり告げた。

次はおそらくカーター視点。

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