その9
これにて一応番外編完結。ぐだぐだ~。
「遅くなってしまって申し訳ありません。本来ならばこうなる前に貴方をお迎えしたかったのですが」
王太子が少しうなだれながらそんなことを言う。
ロリコンな上にM疑惑もある王太子だけど、異世界トリップもののお約束なのかやはり美形。芸能人とかなら周りに美形がいるのも当たり前かもしれないけど、日本にいたときのわたしは根っからの小市民。こっちで生まれてからは、家族やら執事さんやらメイドさんやらとりあえず周りにいる人たちがきらきらしすぎてるせいで、それなりに美形には免疫がついたつもりだったけれど、そんなことはなかったらしい。電気が足りなくなったら美形のきらきら笑顔で賄えばいいんじゃないかな。
とそんなアホなことを考えていたら、王太子の言葉をまるっきり聞いていなかった。
「いいですよね?」
いきなりそんなことを言われても、いいとも嫌だともわかりませんけど。
しかし、聞いてなかった、とは言い出しにくい雰囲気。王太子の後ろにはいつの間にかさっきまで骨肉の争い的な空気を作っていた騎士までいるし。
「えーとー」
こんなときはやっぱり風華が役に立つよね、ってことでこっそり風華に心話で何を王太子が言ったのかを訪ねようとした。それを聞いて返答すればばっちりだろうし。ところが、S思わぬところから横やりが。うう、タイミング悪い。
「そんなことを許すと思うのか」
怒り心頭MAX、なノリで顕現したのは黒翼。続いて白飛と緑藍までもが顕現した。あれ、なんか機嫌悪い、よね?
「もとはといえば、あなたが蒔いた種でしょう。人間ごときのくだらない争いにリリーナを巻き込むなんてありえませんね」
いつもはやわらかい笑顔を見せる緑藍がずばっとそんなことを言い出した。いやいやいや、あのね、一応、この人わたしより偉い人だからね?人間社会はいろいろとあるんだよ?
「ええ、それについては謝罪しましょう。しかし、決めるのはリリーナ嬢ではありませんか?皆様が精霊王並びに四大精霊だということは重々承知いたしておりますが、それはそれ。人の営みですから」
緑藍の言葉にめげずにしれっと返す王太子。ちょっ、どういうこと?
(あー、なんかね、王太子サマがもう心配事はなくなったから安心してお嫁にきてくださいな、みたいなことをね、言ったのね。だから)
風華が苦笑いをしながらそんなことを伝えてきた。その隣では炎樹がけらけら笑っている。
(そんなん黒翼たちが許すわけねーのに、あの坊ちゃんもばっかだよなぁ)
いや、坊ちゃんてアナタ。
そりゃたしかに炎樹とかから見れば王太子のほうがずっと年下なんだろうけどさぁ。でも見た目は炎樹の方がお子様なんですけどー。
なんていうか一触即発な雰囲気。笑顔でいることが当たり前の白飛ですら笑顔がない。これは緊急事態とみて間違いない。
間違いは、ない、んだろうけど。
これ、場を収めるのってわたしなんだろうなぁ。
「ええと、わたしの将来に関するお話なので、茶々いれないでよっく聞いてくださいね。まず、わたしは王太子さまと結婚するつもりはこれっぽっちもありません。以前、お断りしたはずです。それに、こういうのに巻き込まれるのって面倒だし。黒翼たちも、わたしのことを思って行動してくれてるのはわかるけど、暴走しないで。いきなりケンカ腰はありえない。空気を読んでっていっつも言ってるでしょ。わたしはあくまで人間社会で生きてるんだから」
一気に言ってからふぅ、と息を吐き出した。
「それに、わたしは今ものすっごくいろんな意味で疲れてるんです。王太子サマとかはまだ後片付けとかあるんですよね?だったらそっちを優先させてください。わたしは帰ります。緑藍はそのお手伝いをしてね」
「いやです」
間髪入れずに返事が返ってきた。
いかにも拗ねてます、という風情でそっぽを向く緑藍はかわいい、かわいいが。それとこれとは別な気がする。というか、すねても可愛いだけとかさすが美形。
「緑藍にしか頼めないんだけど。ダメ、かなぁ?」
あえてゆっくりと告げてやれば面白いくらい、うっ、と言葉に詰まり、しぶしぶながらわかりました、と答えた。白飛とかに言わせると、わたしの上目使いはなんというか子犬のつぶらな瞳に似ていて、その瞳でお願いされると断りにくいのだとか。正直、可愛い子がやればいいのかもしれないけど、わたしがやったってどうかと思うのだが、立っている者は親でも使えというし、自分以外がキモいと感じていないのならそれはそれでokなのだろう。
こっそりと緑藍に王太子を監視しておくように伝える。そうしないと変態はめげないとどこかで聞いたからまた結婚を迫ってくるかもしれないためだ。変態ってこわい。
こんな感じで一連の騒動は幕を閉じた。
ぐだぐだな毎日だったからこういうハプニングもたまにはいいカンフル剤になったのかもしれない。わたしとしては二度とごめんだけど。他人の修羅場ほど面倒なものはないし。
しかし、この後もなんやかんやと王太子の面倒事に巻き込まれる羽目になるとわたしが知るのは、また別のお話である。