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千夜ちよ!!!」


 荘太が蹴り破るような勢いで千夜の部屋に入ると、彼女はすでに起き上がって真っ白な猫に餌を与えているところだった。

 部屋にはところせましと青々とした植物が並べられ、ところどころの天井からは鳥籠がつるされている。


 少女はあどけなさの残る顔を荘太の方に向けた。


「荘太、どうかしたのお?」


 言い方はとてもおっとりとしていて、荘太が怒っているのを見てもまるで気にしていないといった風である。見開かれた大きな目がじっと見つめてきた。荘太は一瞬言葉に詰まったものの、すぐに気を取り直して言った。


「千夜。一夜の部屋にいるあれはなに」


「なにって……あー、こないだあげたもののことー?」


「わかってるんだな。だったら俺が言いたいことわかる?」


 千夜は小首をかしげた。


「えーなんだろう」


 荘太のこめかみがぴくっと動いた。わかっててわからないとかいうんじゃない!

  

 一応言っておくと、普通の人が彼女にそう言われたなら本当にわかってないと判断するに違いない。それほどまでに彼女からは邪気を感じることができない。しかし、幸か不幸か長年の付き合いである荘太にはその裏を読み取ることができた。


 荘太の様子を感じ取ったのか、千夜はふっと笑った。


「荘太あ。そんなイライラしてると幸せが逃げていっちゃうよ?」


 体のどこかが切れる音を聞いたような気がした。


「誰のせいだ、だれの!!」


「やだあ。こわーい」


 どなり声に臆することもなく、くすくすと笑う。これ以上言っても無駄だ。荘太はがっくりと肩を落とした。


「もちろんー、いい検証データがとれるかもって一ミクロも思わなかった、っていったら嘘になるけどー」


「わかってるんじゃん……」


 わかっているなら最初からちゃんとしてほしいと思うのはおかしいのか。荘太は一つ咳払いをして言った。


「あのさあ、ちょっと今回はやりすぎじゃない?蛇とネズミって……そんな悪趣味な実験、」


「ねー」


 荘汰の話を千夜がさえぎる。彼女は窓の外に目をやり、遠くを見るようにして言った。


「あの蛇、どこにいたと思うー?」


「え?」


「アスファルトの上。それも大通りの。不思議だよねー、なんでそんなところにいたのか」


「……」


「たぶんーどこかの誰かがペットとして飼ってたんだろーね。でも逃げ出したか追い出されたかしてさまよってあんなところにいたんじゃないかなー」


 千夜はくるりと荘太に振り返った。


「だからね、さびしくないようにしてあげようと思ったの。そりゃ同じ蛇のほうがいいかなとは思ったけど、居なかったから」


 そこまで言って、千夜はにっこりと笑った。


「で、少しでも仲良くなるために薬の力を借りるっていうのはまたそれはそれで意義があるような気がしてー?」


 その言葉を聞いて荘太は悲しくなった。せっかく途中までいい話みたいだったのに!千夜はいい子ではあると思うが、この実験検証好きなところがそう言い切らせてくれないのだ。彼女は動植物、一夜は薬品などの化学が好きで、年中実験を繰り広げては度々面倒事を引き起こすのだ。

 荘太のそんな心中を知るのか知らないのか、千夜はいつものらりくらりとかわす。

 

「それはそうとー、そろそろ行かなくていいのー?こんなことしてていいのー?」


 荘太ははっとした。壁に掛けられた時計に目をやる。


「やば……!」


「やっぱりー。でもちゃんとみんな起こしてからにしてねー」


 うっと言葉に詰まる。そろそろ行かないと間に合わないかもしれない。荘太は、おそるおそる千夜を見た。


「千夜、代わりに……」


「やだ」


 即答である。


「大丈夫ー。死ぬ気で走ったら間に合うからー」


 千夜の実にうれしそうな声を聞きながら、荘太は彼女の部屋を急いで後にした。



お久しぶりです。


残すところあと一人となりました。

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