フラグの折り方っ!?
本屋へ着くなり、すぐにフラグ本を探しまわる。前回とはお店が違うから、どこに売っているのかわからないのだ。
フラグ本を探し回っていると一冊の本が目に入った。
「…………っ!」
その本のタイトルは、
『フラグの折り方』
まさか、望んでもいなかった代物だ。
僕にはその本が輝いて見えた。すぐさまその本を取りレジへと向かう。値段なんて関係ない。たぶん今の僕はあまりの嬉しさでよだれを垂らしているかもしれない。けど、そんなのどうだっていいどうせ今日、僕はスクールライフが終わったのだから。
なんだかもう学校なんてどうでもよくなってきちゃった。この本が手に入れば……。
急いでレジでお金を払い、商品を受け取り急いで自宅へ帰る。
「ただいまー」
「おかえりー」
「……おかえりなさい」
何事もなかったですよー、みたいな顔で姉ルルと妹ルルが出迎えてくれた。
「あぁ、ただいま」
もう一度挨拶をして、靴を脱ぎリビングへと向かう。
「……夕食の準備できているけど……食べる?」
リビングに着くと妹ルルが無感情な口調で、そんなことを訊いてきた。
「ああ、よろしく」
適当に返事を返して、テーブルにご飯が並べられていく。
夕食にはまだちょっと早い時間だが、今の僕はそんなことより完璧に一冊の本に夢中だ。
ふかふかのソファに座り、さっき買ってきた袋から『フラグの折り方』と書かれた本を取り出す。
「ふっふっふ、ついに待ちわびたぞ!」
「どうしたの、頭でも打った?」
姉ルルの声がどこからか聞こえてきたが、そんなことは関係のない。
ゆっくりと本をコーティングしているビニールを剥がして一ページ目を開く。
目次――
いや、目次なんて今回どうでもいいんだ。それよりも早く僕は早く魔法少女のフラグの折り方を知りたいんだ。
急いで次のページを捲ろうとしたが、そこで怪しい分が目にはいった。
注意事項――
注意事項? 前回の『フラグの立て方』ではこんなページなかったぞ?
注意事項と書かれていれば飛ばすわけにもいかないので、一応目を通して見る。
注意事項――
この度は『フラグの折り方』を買っていただきありがとうございます。
さっそくですが、この本を読むにあたって注意事項があります。それは、フラグの折り方と折りたたみ方の違いです。
皆さん勘違いしているかもしれませんが、折りたたむというのは、攻略中のキャラがいながら新しいフラグを立ててしまうことです。つまりギャルゲーで例えると立てれるフラグは一種類のみということです。それで、折るというのは、根本的に根こそぎ折るということです。それを踏まえた結果この本をお読みください。
うむうむ、つまりこれは二人以上攻略しようとして何も知らずに折れ立って勘違いするなってことか……ん? 待てよ? ということは?
リビング全体を見渡す。キッチンから無言でお皿を運んでいる青い髪の少女妹ルル。僕の前で床に座りながらテレビを見ている赤い髪の少女、姉ルル。
たしか、奏さんと昨日の朝にぶつかってフラグを立てた――そして、その夜、こいつ等が降ってきてフラグを立てた。つまり奏さんのフラグは折れたんじゃなくて、折りたたまれたってことに? たぶん今日折りたたまれたのは、ルルと奏さんがお互いに顔を合わせたのが引き金になったのだろう。
「え、うそ……じゃあ……っ!」
あまりの嬉しさで本を持っている手が震える。が今は叫ばず、ご飯の準備ができたみたいなので本を一旦置いて夕食にする。
えーと、今日の夕食は、冷やし中華か。なぜ春に? って感じだね。姉ルルも準備ができたことに気付いたのかテレビを見るのをやめてテーブルへと着く。
すっかり、得体の知れない魔法少女と暮らしに和んでしまっているが、よしとしよう。今はとてもハッピーだしな。
大口を開けて冷やし中華を頬張る。
甘酸っぱいタレ、シャキシャキとしたきゅうり、甘い卵焼き、そして切り刻まれたハム、がいっぺんに口の中を襲ってきた。
「妹ルル最高! これおいしいよ」
「あ、ありがとう……」
少し俯いて答える妹ルル。
一人暮らしではとても味わえなかったことだ。
「私は? 私のお弁当はどうだった?」
姉ルルはそれに反応するように身を乗り出して僕に迫ってきた。
残念だが、実のところあんなこと悲劇があった後だから、お弁当を食べるのを忘れていた。きっと今も僕のバッグの中で眠っているであろう。
だが、目を輝かせて姉ルルが訊いてくるので、適当に誤魔化しておく。
「う、うん、おいしかったよ」
「ほんと? どれがおいしかった?」
なにっ! そこまで追求してくるか。
「えっ、えーと、卵焼きかな?」
卵焼きならお弁当に入っているもんだろう。そう思い答えた。
「そんなもの入れてないよ?」
姉ルルは眉を八の字にする。
「間違えた。あれだ、あれ、ご飯。そう白飯がうまかったなー」
「なんでよぉ、ばか!」
なぜか半泣き状態のまま姉ルルは顔を伏せてしまった。
もう、わからん。よっぽど妹の方が取り扱いやすい!
「ごちそうさま」
「……はい」
あまりのおいしさと本の内容の好奇心で夕食をあっという間に食べ終え、フラグ本を持って自室へと向かう。
「えーと、なにを調べるんだっけ?」
頭の中で思いだす。ああ、そうだ。そうだ。でも、奏さんのフラグが折れたわけじゃないということがわかった。それじゃあ、どうすれば、もう一度立て直すことができるんだ?
この本の目次を見ても、一切そんなことは載っていない。それもそうだろう。この本は、フラグの折り方についてであって、フラグのたて直し方じゃないのだから。
しかし僕は、この手の事に詳しい友達がちょうどいるのでポケットから携帯を取り出して電話を掛ける。
「おう、進一ひとつ聞きてい事があるんだけどいいか?」
無論、その相手は七瀬進一だ。
『なんでもいいぜ、ロリコン大――翼』
今コイツ、俺のことをロリコン大王と――だが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。余計なことは言わずに用件だけ話そう。
「ギャルゲーとかでフラグを二本以上立てちゃって最初の子に戻したい場合どうすればいいの?」
用件を言って進一の答えを待つ。
『そうだな、基本的に二本以上は立てれないソフトが多いけど、そんなことした場合は、データを消して最初からにするか、そいつのフラグを折るか、そいつを攻略するかしかないな』
「そうか」
最初からというのは、たぶん僕の場合それは死を示すのだろうな。だからそれはできない。となると、折るか攻略に限られてくる。てか、そもそも折るためにこの本を買ったんだった。と、なれば今からでも行動に移さなくては!
「サンキュ」
お礼を言って電話を切ろうとすると進一が「待て!」と僕を呼び止めた。
「うん? なんだよ?」
「……翼が二次元の道に走っても……俺は味方だからな!」
ツ――ツ――ツ――
あいつ絶対勘違いしている。クソーまた学校中にわけのわからない情報が回ってしまう。しかし今はこっちが優先だ。
『フラグの折り方』と書かれている本を持ちベッドに転がる。
よし、まずは魔法少女のフラグ折り方、と。
最初に書かれている目次を見て魔法少女、フラグの折り方と書かれたページを探す。もしかしたら記載されていないんじゃないかって不安はあったが意外にも魔法少女については目次の次あたりに記載されていた。
「えーと、なんだって?」
その書かれているページを開き、黙読する。
魔法少女フラグの折り方。
どうも魔法少女フラグの折り方担当の金澤です。この度は、本を手にとって頂き誠にありがとうございます。
さっそく魔法少女フラグの折り方を説明したいと思いますが、まずは自分の立てた魔法少女のタイプを知ることをオススメします。タイプによって折り方も違ってくるので、そこは把握しといてください。基本のタイプは戦闘型と訳あり型があります。
戦闘型というのは、モンスターなどが災いの様に降りかかってきて、それを倒し、世界を救いに来たタイプです。
訳あり型は、下界にきた理由があり、例えば魔界で父親と喧嘩して家出をしに下界へ降りてきた、というタイプです。
どうです? あなたの魔法少女はどっちでしたか?
一通り目を通して溜息を吐く。
うーん、どっちって言われても昨日は姉妹の喧嘩って聞いたけどそれは当てはまらないしなぁ。どっちかというと後者の訳ありタイプに近いけど、魔法が使えるあたりはやっぱり敵と戦うのかなー、いや、魔法が使えなきゃ魔法少女って言わないから関係ないか……。
「ちょうどいいや、この際ちゃんと話してみることにしよ」
ピョンっとベッドから体を起こして『フラグに折り方』と書かれた本を片手にまた一階へと戻る。
「おーい、お前達はここに来た目標とか訳ってあるのかー」
リビングに入ると一階でテレビを見ている姉と夕飯の後片付けをしている妹に訊ねる。
「う~ん、あるっちゃぁ、あるよー」
そう答えたのは姉ルルである。
「げっ、まじかよ。で、それってどんなん訳なんだ?」
「うーん、そうねー、妹よ、説明をお願い」
そう言われて、キッチンからエプロン姿の妹ルルが現れる。っていつのまにエプロンなんて用意したんだ? もう、本格的に住む気まんまんじゃないか。
妹ルルは無表情で席へ着くなり、汚れていない手をエプロンで拭きながら話し始めた。
「……理由は一つ」
そう、一つねぇ。
「……悪魔討伐」
そう、悪魔討伐ねぇ。
「って、えええええええええええええええええええええええええええ!」
え、今彼女なんとおっしゃいましたか。悪魔? いや、そんなはずはない。きっと僕の後ろにクマがいて「あ、クマ」と言ったんだ。まぁ、それはそれで僕の命は危ないのだけれども。
そんな僕の叫びなど一切気にすることもなく妹は話を続けは始めた。
「……悪魔と言っても、鎌などはない。……それに一般人に危害はあたえない」
え、あぁ、そう。なんだ、安心じゃん。
その言葉を聞いて安堵のため息を吐く。が、僕の心を読んだのか妹ルルは僕の腕を掴むと薬指にはめられている指輪を見つめた。
「え、もしかして僕は――」
そこまで言って、妹ルルは僕が言おうとしたことを引き継いで言った。
「……こっち側」
「結局そうなるか……」
薄々もう無理だとは感じていた。だいたいのゲームだってこうだ。主人公はある日突然勇者の息子やら、伝説の剣やらを引っこ抜き、民に祀られ強制的に旅支度をさせられるものだ。武器も道具もないまま。
だが、僕は違う!
僕は最初から攻略本、いや、このゲームの裏技を知っているからさ。この『フラグの折り方』という名のな! ポケ○ンで言うなら最初の三匹を選ばずに、家に帰ってベッドで眠る、そしてベッド越しでスタッフロール! きっとスタッフの名前は少ないだろう。なんという裏技!
僕は握っていた裏技本を開き、悪魔討伐クエストの回避方法、魔法少女フラグの折り方を調べる。
えーと、悪魔討伐だから目標型か。
目標型。
目標型だったあなた。誠にすいませんが目標型はフラグの折り方はございません。目標型は魔法少女達と協力して目標をこなしてください。そすれば、フラグは見事折れるではございませんが、クリアしたことになるので一旦折りたたまれます。
へ? なんだって?
フラグの折り方が存在しないって? どうして? どうしてなの、金澤さん。
黙って握っていた手が徐々に震えだす。
う、嘘だろ? そんなことって……。
「……協力よろしく」
そういうと妹ルルは席を立ち、キッチンへ戻ってしまった。