怒る――起こる――奏
今回これは短いかな?
まあ、前回が長すぎましたからね。
「えー! なんでモモばっかりぃ~。酷いです! 残酷です。私もう寝ます。泣き寝入りしちゃいます!」
家に帰ると、リビングで明かりも点けず無言で待っていた。僕らはまるで夜遅くに連絡無しで帰ってきたサラリーマンのようにこっそりと家にあがり電気をつけると、モモの姿を見てなのか、モモと一緒に帰ってきたのか、それとも両方ともなのか、とにかく僕達を驚き怒鳴り、今はクッションを抱いて顔をクッションに沈めていた。
怒られるとは思っていたがまさか、泣きまで行くとは思わず、僕もあたふたとしてしまう。
「と、とりあえずさ、ご飯にしない? お腹空いたし、ねえモモ?」
「んニャ」
隣のいるモモに同意を求め、空気だけでも和らげようとしようとしたが、裏目に出てしまったようで奏ちゃんは「以心伝心です……お互い通じ合っているのです……それに、どことなくいつもよりモモが嬉しそうですし」
さすがは元、悪魔というべきか。モモの気に掛けていたモヤモヤを見抜くとは恐るべし。
そんな奏ちゃんの姿を見てなのか、モモが奏ちゃんの隣に座り、耳元で何か囁いてあげる。
モモがなにか言い終えると、奏ちゃんは耳を真っ赤にしてクッションから顔を上げた。
「つ……翼くんっ!」
「な、なに……?」
突然の出来事で少し後ろに体を引いてしまう。
「そ、その、モ、モモとキスをしたってのは本当なんですかっ!」
奏ちゃんは顔を真っ赤にして叫ぶ。
夜の奏ちゃんは活発的と言うか表情豊かで困る。それになんでこのタイミングでそのことを言ったんだよ、アホモモ。
モモは悪気のなさそうに下をチロッと出して二階に行ってしまった。
「そ、その、う、嘘ではないけど……モモがホッペにちゅってしただけで、普通に親と子供がするようなフレンチなやつで……決してやましい気持ちなどないやつだ!」
「そ、それなら百万歩譲って許しますけど」
だいぶ譲られたな。
「あの服はなんなんですか! あれ『М・R・Y』の服ですよねっ! なんでモモが着ているんですかっ! 話によると腕を組んで店内を歩き回ったとか」
くっ、モモの奴め、なんでそこまで言うんだよ。なにか得でも……はっ、もしかして下着のことは言ってないだろうな? いや、どうせ言ってようが言ってなかろうが、おのずとバレることなんだ。ここは自白しよう。
「それは、ごめんなさい! それと、モモに水色の下着を買いました! しかもAからBに寄せて上げるタイプです。どうか、お許しを。なんでもいうことききますので!」
一気に言い終えると、奏ちゃんに土下座をして許しのポーズをとる。
奏ちゃんはその言葉を聞いて今にも倒れてしまいそうな顔をしてクッションに顔をうずくまらせた。
もしかして本気で泣いてしまったのだろうか?
恐る恐る体を起こして奏ちゃんの隣に座る。すると、奏ちゃんがクッションを抱いたままなにか喋り出した。
「うん? どうしたの?」
クッションが邪魔をしてよく聞き取れないので、顔を近づけてなにを言っているのか、耳を澄ませてみる。
「……私も……私も翼くんと一緒に服買いたいです……それからもっとちゃんと一緒にご飯食べたかった……です」
その言葉を聞いて今日の昼のことを思い出す。
そういえば、あまりにいろいろあり過ぎて忘れていたが、今日イタリア料理店に奏ちゃんを置いてきぼりにしてしまったんだった。食べている最中もポニーテールの女性(正確に言えばポニーテールに)見惚れて全然会話できなかったし。
奏ちゃんには悪いことをしたなと思い、僕も背中にあるクッションを抱いて、顔をうずくませながら会話をする。
「……奏ちゃんやい」
「……なんですか……?」
奏ちゃんは暗い声で答える。
「同じクッション愛好家として、一つ頼みがあるんだけどいいかな?」
「……いですけど……」
こんな時でも断らないのは、さすが奏ちゃんだ。
「明日、クッション二号は暇なのよね。そしてちょうどなんだか明日は『М・R・Y』に行きたい気分なんだけど、どうかな?」
意外とこれ苦しい。
僕の問いに対してクッション一号は返してこない。不思議に思いクッションから顔をはずし横をみると鼻を赤くして目を輝かせた奏ちゃんがいた。
「はい! 私、行きます! どこまでも行きます!」
奏ちゃんは嬉しそうにそういうと、鼻歌を歌いながら晩御飯の準備をし出した。
なにはともあれ、機嫌を直してくれてよかった。
それからほとぼりが冷めたかなーとモモが確認をしにきて、確認すると一緒にご飯を食べていつも通り今はソファの一番端で丸くなって寝ていた。
「ほら、せっかく買ったばかりの洋服、皺になるぞ?」
隅で寝ているモモを起こして、パジャマに着替えるように促す。
「翼くん、明日午後から大雨で、降水警報も出るみたいです。それで、明日はこれとこれどっちがいいですか?」
奏ちゃんは嬉しそうに服を二着持ってきて僕の前に差し出す。
この質問を今日何度されたことであろうか……。奏ちゃんには悪いけど、適当に見て右のスカートの方にした。
「それじゃあ、僕はもう寝るけどいい?」
時計を見てみるともう、時計の針が二十一をさしていた。
本当に今日はいろいろとあり過ぎた。もうしんどい。
「えー、もう寝ちゃうんですかー? もうちょっとお話しましょうよぉ。こういうのってピロートークって言うのかしら? なんだかピロートークってえっちぃ響きですね」
キャ――と奏ちゃんはいつも以上にハイテンションで部屋の中で悶えていた。