表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
折りたたみ式フラグっ!?  作者:
第二章、梅雨の日の小さなモモ
18/21

モモのお散歩コースっ!

はい、最近具合の悪い神山です。

この話は結構長くなると思うので、更新が遅くなると思います♪

それと、読みにくいと意見があったので全て改行したのですが、お気づきになったでしょうか?

改行に一時間かけました(笑)


それと、ゴールデンウィーク中にかなり更新するのですごく楽しみにしてください♪

 モモは町はずれの地元の僕でも行ったことのない草道を歩いていた。僕の腰ぐらいまで生えた草は、夏の訪れをまるで示しているみたいで、僕は汗を流しながらアウストラピテクスと書かれた背中を追っていた。

 さすがはもと猫というべきか、高いところが好きなのか、なにかちょっとでも段差があればすぐにそこに登って嬉しそうに歩いく。だが、それこそが僕の狙いだった。

 なぜ、僕は今まで気付かなかったのだろうか……。このようにモモをストーキングすればきっと人獣を攻略するヒントがあるというのに。

 僕はモモから三十メートルぐらい距離を置いてモモの尻尾を追う。これが本当の尾行ってやつか、などと考えながら。

 モモは無言でズンズンと草道を進むと、一つの小さな公園へと入って行った。

 公園はもう誰からも忘れさられたかのように、遊具はほとんど錆びていて、とても子供たちが来たところで遊べそうにない、廃墟同然のような公園だった。それでも一応公共の場所なので草刈りだけはしてあった。

 モモはその廃墟同然のような公園に入ると、わけもわからず思いっきり走りだし砂場の砂で山を作り、わざわざ作った山を思いっきり蹴飛ばして「うにゃっ! 目……目にぃ……」と言って一人で楽しそうに遊んでいた。

……なにがしたいんだ?

 僕から見たら猫耳、猫尻尾、首には大型犬用首輪をつけた人が昼の公園で楽しそうに笑っている。実に謎だ。さすがはアウストラピテクスと言うべきか。

 近所に家だ建っていなくて良かったと思う。

 ホッと胸を撫で下ろしている間に、モモは遊んで疲れたのか、それとも疲れたのか、公園の端に置いてある壊れかけのベンチで休憩していた。

しばらくそのまま時が流れ、それじゃあもうひと遊びしますかニャ、とベンチから亜血上がり砂場に向かおうとした時、ベンチの背後から一匹のデブ猫と二匹の痩せ細った猫がブサイクな泣き声でモモに近寄ってくるではありませんか。

 後ろの二匹は見覚えないけど、たしかあの先頭を切っている猫は佐久間さん家のデブ猫だ。

 モモも佐久間さん家の猫が近づいたのに気付いたのか、耳をピコピコとさせてベンチの背後からやってくる猫どもを警戒した。

やばっ。

 前回、モモが佐久間さんを殴ったと言っていたから猫に暴力降るなっていったけど、これは今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気だぞ。向こうの三匹と一人? からしてはただの喧嘩でもこっちから見たら、ただの人が猫をボコボコにする喧嘩、いや、いじめだ。

ベンチまでやってきた猫たちは、佐久間さんが飛脚とも言われるそのデブった足を見せつけ華麗にベンチに乗ると、モモなど無視してそこで昼寝をし始めた。

他の二匹は近くで警戒しているモモに向かってブサイクに鳴きだした。


「うん? ニャにニャに? ここは兄貴の縄張りニャ、だからお前はどっかに行け。それに日が当たらな

くて兄貴が怒る寸前の顔しているニャ、ほら、さっさと行った」


 モモは一人でそんなことを言うと、体を小刻みにして震えだした。


「な、なにが兄貴ニャ! ここはモモの縄張りだニャ! お前らこそそこどけニャ、それともまたぶっ飛ばされたいニャか?」


 モモはボクサーみたいに拳を前に構えリズミカルにジャンプをしている。その前の二匹は低姿勢(前かがみ)になって深く唸っている。そして僕はその様子を低姿勢(歩腹全身)のようにして遊具の陰から見ていた。

 今まさにこの公園は二人と三匹の戦場だ。

 まずは情報収集係の翼が情報をまとめる。

 まず、わかったことは、この寂れた公園同然のような場所がモモの縄張りだってこと。それと、この様子から察するとたぶんモモは猫と会話をする事ができる。よし、これは新情報を二つもゲットした。この調子で攻略の鍵を手に入れなきゃ。

 遊具の裏で、小さくガッツポーズをとり一人と三匹の縄張り争いの様子を観戦する。

 先陣をきったのは猫たちだ。猫たちは前かがみのまま深く唸る。


「うん? とにかく邪魔だ。兄貴に日が当たらないだろう? ブスはどっか他の場所で日向ぼっこしろ。兄貴が怒ってしまう!」


 モモはまるで誰かに通訳するように言い終えると――って僕もしかしてばれてないよな?

 焦って周りを見渡すが、人っ子一人いない。

それじゃあ、なぜモモは通訳をしているんだ?

 そんな疑問を持ちつつ、全身を使って怒っているモモに再度耳を傾ける。


「どこが怒っているんだニャ! それが怒っている顔なら偉い可愛いニャ!」


 そう言うモモの前で寝ている佐久間さんは、目を細めお腹を出しながらごろごろとベンチの上を転げ回っていた。

 あ、ほんとだ。かわいい。


「それとモモのどこがブサニャ! モモはめ~ちゃめちゃ可愛いからニャ! お前達みたいなブサイク達と喋ってやっているだけでもありがたいと思うんだニャ!」


 モモは無い胸を張って威張る。

 けれど、僕はもうそんな小さな争いよりも、ベンチの上で寝ている佐久間さんにくぎ付けだった。

 きっとあのもさもさとした毛は、触るともふもふしていて、あのつぶれた鼻はもきゅもきゅしているんだろうな。

 そんなことを思いながら見ていると、突然モモが地団太を踏んで寝っ転がっていた佐久間さんをベンチから取り上げた。

 ああ、僕の佐久間さんがっ!


「へっへぇ~ん、どうニャ? とどかないにゃろ~? ふっ、ちび猫どもが、モモのことをブスブス言うからいけないニャ。どうだ思い知ったかニャ?」


 モモは佐久間さんを両手で高く持ち上げ、足にしがみついてくる下っ端どもを見下してあざけ笑っている。

 ほんとに近所に家が無くて良かった……。それと、モモの手の中でも半分寝かけている佐久間さん可愛い。


「返して欲しけりゃ、モモのことを可愛い小娘ちゃんとおっしゃいニャ! おーっほっほっほっほ!」


 なにを言っているんだコイツは……飼い主として恥ずかしくなってきたぞ。しかも、今今気づいたが向こうは人間の言葉を理解しているのだろか? モモは元は猫だからわかるけど、向こうは始めから猫のわけだからモモの言っていることがわかるという保証はどこにもない。

 兄貴をとられて観念したのか、下っ端共は戦闘態勢を崩して地声で鳴き出した。


「うん? ニャにニャに? ぜってぇ~言うかブス、胸は小さいくせに態度はでかいんだな。てか、飽きた。そろそろ兄貴をおろせ?」


 さすがは猫。飽き性っていうか自由気ままというか。


「…………っ! む、胸をっ……胸を言ったら最後ニャ! そんなにお前達の兄貴を返してほしければ返してやるニャ!」


 モモが顔を真っ赤にして叫ぶと、佐久間さんを持ったまま公園内で一番草が生い茂った場所に移動して、下っ端共もそれについて行く。

 おお、やっとこの縄張り争いも終止符が打たれるみたいだ。でも、今回は暴力沙汰にならなくてよかった。さすがは家の猫。一度言ったことはしっかりと守る。

 モモはそこで大きく息を吐いて勢い良く叫ぶ。


「ほ~らよ! 兄貴盛り一丁っ!」


 そして体を思いっきり後ろに反らせて、デブ猫の頭をふかふかの草むらに打ち付けた。その姿はプロの体操選手とも言える姿で、プロレスのジャーマンスープレックスという技だった。


「…………」


 一同驚愕。

 モモは笑顔で兄貴から手を離し何事もなかったかのようにスキップでベンチに戻って行く。下っ端共はしばらくその光景に呆気をとられていたが、佐久間さんが「ぬぁ」と鳴いたことで我に帰り、兄貴を連れて公園から出て行った。


「ふっふっふ、モモのウィ~ナァ~! モモ選手強いですっ! モモ選手可愛いですっ! モモ選手巨乳

ですっ! ここはモモの縄張りだニャ~!」


 ベンチに片足をかけて右手を掲げる。

 だが、それもすぐ飽きたのか、服をはたくとスキップで公園から出て行った。

 えっ! 今勝ち取ったばかりなのにベンチ使わないのっ! なら譲ればよかったじゃないか!

 とは思ったが、そんなことをストーキングしている僕が言えるわけでもなく、モモの白黒尻尾を追うであった。


 その後、モモは別の公園や建設途中の工場、人ん家の庭などを歩きまわり結局、最後は僕が最初にモモを見つけた駅周辺に戻ってきていた。

あの縄張り争い以降、特に変わった行動などせず、普通に散歩を楽しむ少女となっていた。いや、まあ散歩を楽しむ少女もそんな普通というかいない気がするけどね。いたら、すいません。

あまりにもモモを追うことに必死だったので気付かなかったのだが、外はいつの間にかオレンジ色に染まり夕焼け空ではカラス達の鳴き声で蔓延っていた。


「それじゃあ、僕はそろそろ帰ろうかな」


 これ以上ストーキングしていてもきっと何もないだろうと思い、隠れていたビルの陰から顔を出し帰宅路の方へ足を向ける。

きっと今頃奏ちゃんは家で頬を膨らませて待っているのだろう。なんて言い訳するか考えないとな。

 そんなことを考えながら一歩足を出したその時、


「あー! これ、モモが欲しかったやつニャー! やっぱり可愛いニャ~!」


 と、奇声にも近い歓喜の声が聞こえた。

 突然の叫びに周りにいた人(僕も)足を止めて、叫び声がした方向を見ると、これでもかってほどガラスケースに顔をくっつけた猫耳少女の姿があった。

 周りのサラリーマンなどは何も見なかったかのように、視線を戻すと再び歩き出す。ま

あ、それが普通の反応だろう。世間なんて厄介事になりそうな火種を自分から関わりに行

くような真似は絶対と言っていいほどしない。それが、アウストラピテクスと書かれた人

間ならなおさらだ。

 だが、僕は世間とか云々、それはモモだったのでもう少しストーキングすることにした。

 モモが先ほどからべったりとくっついているお店の看板には『М・R・Y』と書かれていた。

 たしかあれは、奏ちゃんがよく読んでいるファッション雑誌によく載っている名前だ。なんの略かまでは知らないけど、たしか今若い女性に大人気だということは聞いたことがある。


「モモも女の子らしいところあるんだな」


 帰るのを途中で止めていた僕は、再びビルの陰に隠れてそんなことを呟く。今まで猫中心で見ようとしていたから気にも留めなかったけど、モモだって一匹の猫の前に一人の少女なんだ。

 そう思うと、今までもう少ししっかりと扱ってあげればよかったなと思う。

そういえばストーキングしている最中も心なしか過ぎ去って行く、女性を見ては溜息を吐いていた気が……。

 モモは両耳をピコピコと動かしながら、じっと凝視すると突然ガラスケースから離れた。


「よし、じゃあ帰るニャ。見れただけでも十分! 旦那様が心配しているだろうしスキップで帰るニャ!」


 そう言って、残念そうにも笑顔で振り向き、帰宅路の方に大きく一歩前に足を出す。が、しかし、そこには不運にも昨晩降った雨の水たまりで広がっていた。

モモはその水たまりに気づいていないようだ。


「やばっ――――」


 急いでビルの陰から飛び出しモモの救助に駆け寄る、が時すでに遅し、


「にゅ、にゃああぁぁぁぁあぁあぁあぁああぁああぁあぁああぁぁぁっ!」


 モモは片足をどっぷりと水たまりに踏み込んでいた。

 急いで駆け寄るが、それ以上のスピードでモモはどこかに行ってしまい、周りの人は僕のこと凝視していた。


 それから二分程度で水に怯えきっているモモを発見。

 モモはさっきほどの『М・R・Y』という店のすぐ近くにあるゴミ捨て場でゴミと一緒に小さく丸待っていた。可愛いのでしばらくそのままにしておきたかったが、僕はそこまでSではないので、手を差し伸べ助けてあげる。


「ほら、モモ、そんなところでなにしてるんだ? 靴もびしょびしょで、お前水駄目なんだろ?」


 モモは驚きと嬉しさと怯えのある複雑な表情で僕を見つめると、いきなり差し伸べた手をとって抱きついてきた。


「えっ! お、おい、どうしたんだよ?」


 抱きつくモモの体は今も震えて、モモの耳が僕の頬をくすぐっている。

 そんなに猫からして水は怖い物なのだろうか? 人間で言う、放課後の告白ぐらいなのだろうか? いや、その怖さとはまた違う怖さか。

 とりあえず、抱きついているモモを離し、落ち着かせる。


「お前、靴ビショビショだな。それ嫌だろ?」


「うん」


 モモは潤んだ瞳で頷く。

 あれ? なんだろう。さっきモモのことを一人の女の子だ、なんて考えちゃったから意識しているのだろうか? ちょっと今のモモにドキドキしちゃったのは。


「ちょ、ちょうどさ、いいお店知っているんだ。ここから超近いからそこ行こうぜ」


 モモの顔を見れないで言うのも、意識しているせいだろうか? そしたらなんだか何もできなくなってしまう。と、とにかく、まずは出よう。

モモの手を握ってゴミ捨て場から出る。


「あのぉ~、旦那様。なんで顔赤いニャ?」


「……一足早い日焼け」


 って何くだらないこと言ってんだ。よし、意識しちゃ駄目だ。モモは猫。モモは猫。モモは猫。モモは猫。

 そう何度も心の中で言い聞かせ、やってきたお店の前に立つ。


「ほら、ここ。いいお店だろ?」


 そう言って前に立つお店には頭上にピンク色の文字で『М・R・Y』と書かれていた。

 その文字を見て、モモは驚きと嬉しさの表情で僕を見つめる。が、しかし、すぐに俯いてしまった。


「ど、どうしたんだよ? ここにモモの欲しい服があるんだろう?」


 急に俯いてしまったモモが心配になり、問いかけてみる。


「うん、で、でも、ここ値段が高いニャ……。それに旦那様にそんな迷惑をかけるわけには――ってなんでモモがここの服が欲しいって知っているニャっ!」


 モモは急に顔を上げて僕のことを見つめた。


「え、あ~ぁ、超能力? 超能力でわかったんだ。じゃあ入ろうぜ」


 そう言って、モモの手を引っ張り店内に入ろうとするが、


「でも、旦那様に迷惑が……」


 と言って動き出さない。


「いいの、いいの、今日はちょうど持ち合わせもあるし、ほら入るぞ」


 これは嘘ではない。ちょうど、昨日親から月額分の振り込がされてあったのでお財布のパンパンなのだ。

 仕方なく拒むモモの手を引いて無理やり店内に引っ張った。


 お店の中は白を中心のピンク柄でできており、実に女の子好きそうな感じだった。

 店内は五つのフロアに分かれているらしく、夏のコーナーを今は中心に、春、秋、冬までもが品ぞろえされているみたいだ。

 僕はこういう店なんて入ったことないからよくわからないが、とにかく広くバリエーションのある店だってことは入っただけでわかった。そしてここは女性服専門店みたいなので男性にはちょっと肩身が狭い。

 横に並んでいるモモを気づかれないように、横目で見ると、あれほど嫌がっていたモモもこの光景には圧倒されたのか口を開き目を輝かせていた。そして嬉しさのあまりに僕の尻にモモの尻尾がバシバシと当たっている。


「で、どの服が欲しいんだ?」


 目を輝かせて遠くの方まで見据えているモモに訊いてみる。


「や、やっぱいいニャ! そんな旦那様に迷惑かけちゃうニャ。ほら帰る帰る!」


 モモは申し訳なさそうに言うと、踵を返して店を後にしようとする。が、僕と手を繋いでいるので僕が歩き出さない限り向こうも動けない。

僕は店を後にしようとしているモモを無理やり引っ張り店内の奥に進んでいく。

 きっといつもならこんなことはしないのだろう。けれど、今朝のこと、そしてモモのことを考えてしまうとほっとく訳にはいかなかった。そして何よりも、今日一日観察していて、女の子があんな服を着て街中をうろうろするにはいろいろ問題がある。


「ほら、モモ。これなんてどうだ? 可愛いぞ?」


 適当なところで止まると、これまた適当に品を手に取ってモモに当てて見せる。


「……旦那様、それSМ衣装ニャ」


「……っ!」


 くっ、なんだ、この店。こんなジャンルまで扱っているのか。

 手にとった、亀甲縛りみたいな服――いや、もはや服とも言えない縄を元にあった場所に戻して、恥ずかし隠しにさらに奥に進んでいく。

 周りから「聞いた? 今、旦那様って呼んでいたよね?」「しかもSМの衣装買わせようとしていたよ」と若い女性から非難の眼で見られていたが、そんなことよりもモモがSМだなんて卑猥な言葉を知っているのにショックで、気にしてなんかいられなかった。

 ある程度進んだところでモモは急に足を止めた。


「うん、どうした?」


「ほ、ほらもう帰ろうニャ。きっと奏ちゃんも家で待っているニャ。これ以上迷惑はかけられないニャ」


 モモはそう言うと、歩いてきた軌道を変えて入ってきたとはまた別のドアから出て行こうとする。

 モモはそう言うと、歩いてきた軌道を変えて入ってきたとはまた別のドアから出て行こうとする。


「…………」


どうしてここまで僕に迷惑を掛けることを気にしているのだろうか? 僕がモモの旦那様だから? 自分が人間になったせいで食費などにお金が掛かるようになったから? それとも自分が人間になったことさえ多大な迷惑だと思っているから?

 モモは僕の手を握ったまま、僕が歩き出すのを待っている。


「モモ、お前はなにか勘違いしていないか?」


「んにゃ?」


「モモ、お前はなんにも迷惑じゃないぞ?」


 モモはその言葉を言われて、図星だったかのように体をビクつかせ顔を俯かせた。そしてモモは小さな声で囁く。


「……それじゃあ、モモは迷惑じゃない?」


 その声は今にも消え入りそうな声で、決してまわりの人にはわからないような囁く声。

 だから僕は胸を張って言う。


「ああ、もちろん。むしろ、今日この場で服を買ってくれない方が迷惑だ」


 モモはそのセリフを聞くと驚いたように顔を上げた。

 その顔を涙で一杯で、目も充血して鼻水を垂らし、非常に汚い顔だ。けれどそれは今までの中で一番輝いた心の底からの笑顔だった。

 やっぱり自分が人間になったことをどこかで迷惑だと思っていたんだろう。それに僕はもっと早く気づいてやれなかった。気づくことができなかった。

 後悔と罪悪感で心が痛たまれる。

しかし、過ぎてしまったことはもうどうにもできない。だから、今日からでも自分は皆と一緒にいて迷惑じゃないと思わせなきゃ。でも、


「二つ条件がある」


 涙でぐしゃぐしゃにした顔で「なんニャ?」とモモは訊いてくる。


「一つは、ここでは彼氏彼女のデートのふりをすること。そしてもう一つは、このこと奏ちゃんには絶対に秘密にすること」


 最後にいいね? と念を押してモモに言いつける。

 だって、こんなこと奏ちゃんに知られたら憤慨するに決まっているじゃないか。

 モモは袖で涙を拭うと大きく頷いた。


「よし、それじゃあなにから見に行こうか?」


「う~んとニャ、それじゃあモモは向こうのコーナー行きたいニャ。 それから向こうとその向こうも、あー、あとそっちも行きたいニャ!」


 モモはまるでなにかの糸が切れたみたいに、四方八方指を差し、握っている手から、僕の腕へと移し、今度は僕が引っ張られるようにお店の中を走りまわされた。



「……なあ、もう……よくないか」


 あれから一時間半、上に行ったり下に行ったり、右に行ったり左に行ったり、はたまた隣接している別店舗に行ったりと、これほどかってぐらい猫の体力と女の子のショッピングの長さを経験させられた。

 正直、普段ですらあまり動かない僕はもうすでに体力の限界と飽きがきていた。なぜならさっきから似たような服を着ては脱いでとモモはずっと迷っているからだ。


「なあ……」


 モモは僕の話すら聞いていない。それどころか姿すら見せないのだ。なんだか、もう後悔してきたぞ。なんであんなことを言ってしまったのだろう。お腹は空いたし絶対奏ちゃん怒っているし、外は暗いし。

 そんなことを考えていると突然試着室のカーテンが開かれ、春の衣装に身を包んだモモが現れた。

……うっ!

 と初見なら言ってしまったぐらい可愛いのだが、その服を着るモモの姿はもう何度目だろうか? もう腐るほど見てきたのでどの服をきても普通に可愛いとしか思えなくなってしまった。


「うん、いいじゃないかな。それじゃあ帰ろう」


 そう言って背を向けレジに向かおうとするが、モモが試着室から手を伸ばし、逃さまい、と言った感じで僕の腕を掴む。


「旦那様、さっきモモが服を買わなきゃ迷惑っていったじゃないですかニャ。ほら、どっちが合うか決めてニャ」


 モモは嬉しそうに笑い、僕の目の前に二つの服を見せてくる。

 ああ、お腹空いたよぉ。



 あれからまた三十分。計二時間掛けてモモはやっと一つの服を決めた。

 上は七分丈の夏――とも春――とも捉えることのできる水玉が目立たない程度に散りばめられた大人しいイメージを与える服に、下はもう出せるラインまで全部出してますよーみたいな太ももをギリギリまで見せたジーパン生地のパンツになった。(詳しい名前はよく知らない)それと普通のスニーカーだ。

 モモはその三つを持ってレジへと向かう。


「あ、モモ、ついでだからこれも一つ買っとけ」


 ちょうどたまたますれ違ったコーナーから水色の左右に膨らみのある物を手にとりモモに渡す。ああ、言うところのブラだ。

 今朝これがないだけでどれほど困ったことか。

 モモはそのブラを怪訝な顔で受け取ると、品を一旦戻しそのブラと自分の胸を見比べた。


「なぁ、旦那様。モモってもうちょっと胸あると思うんだけど、気のせいかニャ?」


 モモは自分の胸を見ながらそんなことを訊いてくる。

 これは余談というか豆知識なのだが、よく学校とかにある非常用ボタンの上にとり付けられた赤いランプはサイズで言うとAカップらしい。だから、世の中の男性はもし胸のことで困ったら非常用ボタンのランプを基準にして考えてほしい。

 そして、モモはそのランプとちょうど同じぐらいの大きさをしていた。

 ここは下手に素直な感想を言ったらまたブラ選びに時間が掛るだろう。もう僕にはそんな精神力は残っていない。中学生用のブラからとったのは失敗であって真実なのだが、ここはちょっとモモに譲歩してもらおう。


「う~ん、まぁ、胸無いっちゃないね。けど、僕は小さいモモの方が好きだぞ? それこそモモ~って感じがしててすごく良い」


 ――っ! なに言ってんだ僕は。ほら、やっと周りにも変な目で見られなくなったのに、また汚物を見る様な目で回りから見られているじゃないか。

言葉の選択にミスがあったか。

だが、僕の言葉に納得が言ったのか、モモはニマーと笑ってさっき返したブラの隣の同じ色でも違うデザインのブラを取った。


「でもモモは、こっちの方がいいニャ」


 そう言って取ったブラには、タグに『A→B、寄せて上げるタイプ』と書かれている。

 正直寄せる物が無ければ意味が無いのではないだろうか? と思ったけれど、きっとこれは男性達の暗黙了解というやつで、決して口には出してはいけないのだろう。


「よし、それじゃあレジへ行くニャー! オーっ!」



『二万八千円になります』


 うっ……! さすがはブランドの名前だけあって値段が少々ばかし高いこと。

 若い黒髪の女性は男子高校生の平然とした顔でこんな高額を要求してくる。これがまさに重要と供給か。ちょうど授業で習っているところだぜ。

 財布からお札三枚をレジに出し、帰ってきたお釣りを財布にしまった。


「あ、値札取っちゃってください。すぐに切るので」


『かしこまいりました』


 僕のそんなちょっと言い遅れた言葉にも笑顔で了解して、わざわざ入れかけた服を全て出し一個一個ハサミで値札を取ってくれる。

 それからすぐに品物を受け取ると、もう一度試着室に戻ってモモを現在の服から新品の買ったばかりの服に着替えさせる。


「モモーいいかー? 開けるぞー?」


「うん、いいニャー」


 試着室の中から鈴の音と一緒にモモの返事が聞こえたので、カーテンをそっと開き中を確認する。ちなみに脱いだ服とかは僕が店員さんからもう一つ服を貰って持っている。


「どうだー? 着た感じは? よく似合って――ってまだじゃねーかっ!」


 試着室の中ではパンツに買ったばかりの水色ブラだけをしたモモが立っていた。

 すぐにカーテンを閉めたため、はっきりと確認はできなかったが寄せて上げることは残念ながらできていなかった。


「どうだったニャー? モモのお色気サービスは、もう旦那様も脳みそクラリクラリ途中鼻血の旅だったかニャ?」


 なんだその、聞き覚えのある番組名みたいな嫌な旅は。

 そんな声と共に笑い声が試着室からきこえてくる。


「ああ、僕の頭はクラリ途鼻血の旅だから、馬鹿やってないで早く出て来いよ」


「はーい」


 それからすぐにモモは着替えて出てきて、僕と一緒に店を出た。

 着替えたモモの姿はさっきまで単純に可愛いとしか思わなかったが、いざ自分の物になってそれをモモが着るとより一層素敵に見えた。

 店内を出る時も、あれほど僕のことを悪く言っていた女性たちも「え? なにあの服? 私もあれ買わなきゃ」などという言葉が飛び交い、なぜか僕が優越感を感じて胸を張りながら歩いた。

 ありがとうございましたー。と店員さん達の声が聞こえて背後の自動ドアが閉まる。モモは店を出た後も僕の腕から手を離さず歩いていた。


「なあ、モモ。もうカップルの真似しなくていいんだぞ? それになんでその首輪しているんだよ?」


 僕はちょっと不思議そうに訊き、夜の駅を歩いた。


「え~いいじゃニャいか。それにこの首輪は家族の証しみたいな物だから絶対外せないニャ。むしろこれが無くなったらモモは死んじゃうニャ」


「そうですか」


 それは過言ではないだろうか。と思ったけれど、本人がいいんだったら別にかまわない。

 モモは相変わらず歩くたびに首につけた――というよりも首に掛けて鈴の音を鳴らして夜の街並みを歩く。

 それからしばらく歩いたところでモモは急に足を止めて立ち止まった。

 そのモモの姿は今までとは違う、俯き加減でカ弱い少女の一部の様に見えた。


「うん、どうしたんだよ?」


 歩くのを止めたモモに僕が訊くと、モモは僕の腕を引っ張り無理やりこっちを向かせた。


「……その、今日はありがとうニャ。……こんなに可愛い服を買ってくださって。だから欲張りかもしれ

ないけど、もう一つ願いお願いきいてくれないかニャ?」


 モモは泣きだしそうな声で、僕を見上げながらそう言うと、目を閉じて顔を近づけてきた。

 その顔はほんのりと桃色に染まって、やわらかく温かさそうな唇が僕に襲ってくる。

 僕はその時妙に冷静で、もしモモとキスをしたらこれは猫とキスをしたことになるのだろうか? などとどうでもいいことを考えていた。

 そんなことを考えているうちに、モモの顔をすぐ目の前までやってきていて、お互いの吐息と吐息がぶつかりあうところまできていた。

 自然に目を閉じて、決意を決める。そして、


「うぉ~、さすがは俺、天才だぜ」


「きゃあー、やめて進一くーん」


 という声に気を取られてしまい右を向いてしまった。その瞬間、右の頬にやわらかい何かが当たり僕の頬を赤く染めた。


「あ、ごめん」


 モモが目を開く前に謝り、モモはゆっくりと離れて目を開ける。

 そして自分がキスをした位置を確認すると、


「もうっ! 酷いニャ! せっかくのモモのファーストキスがこれじゃあ台無しじゃないかニャ! 旦那

様のばかっ!」


 モモは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

 いや、だって知り合いの声が突然聞こえて驚いちゃったんだもん。それにそんな姿を友達に見られたらなんと思われるか。


「じゃあ、もう一回すればいいだろう?」


「もうそんなムードじゃないニャ! なんかギャグみたいになっちゃったし、もうモモは先に帰るニャ!」


 モモは全身を使って僕に言うと、スタスタと先を歩き始めた。こればっかしは僕が悪かったと思い、前を行くモモを引きとめてもう一度向きあう。


「それじゃあ、今度。今度そういう雰囲気になったらしよう。その時は僕からするからそれで許して?」


 モモは腕を組んで考えたあと、嬉しそうに大きく頷き、僕の腕を再び握った。


「じゃあちょっとあっち行ってみない?」


 いつものモモに戻ってくれたあと、僕はモモの頭を撫でながら言う。

 もちろん僕が言う先は、さっき友達の名前まで聞こえてきたその先だ。

 モモは「別にいいニャ」と言って一緒に声が聞こえた方をゆっくりと目指す。二分ほど歩いて出た先は、最初に訪れた寂しい公園だった。別の言い方をするとモモの縄張りだ。

 そしてその中に、声の発信源とも思われるべき二人の姿があった。

 一人は木の板の上に明るい髪で楽しそうにまたがっている男性と、一人は木の板の上に怖そうに乗っている三つ網の少女だ。

 二人は錆びた鉄と鉄が擦れる音を鳴らして上下に動いている。


「にゃあにゃ、あれはなにをしているのかニャ?」


 モモが頭にハテナマークを浮かべて訊いてくる。

 少し遠いからもしかしたら違うかもしれないが、ほとんど正解と言ってもいいだろう。

 僕は何となく声を細めて言った。


「……大人のシーソー」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ