イタリアン料理とポニーテール
お待たせしました♪
評価ポイントをつけてくださった方ありがとうございます。
読みおわったらでいいので他の人もつけてください♪
それから、次話は月曜か火曜日になります。
外は思った以上に暑く、僕の日頃外に行かない肌をじりじりと焼いていた。だが、外へ行くと、さっきまでもの憂鬱になりそうな出来事などひゅっと記憶から消え飛んで、今は、アルプスの草原をスキップでもしたいぐらいだ。だが、そんなことをしたら痛い目で見られてしまうので、僕達は昼ご飯を求めて駅周辺の大通りを歩いていた。
「ねえねえ、翼くん。なに食べましょうか?」
隣で一緒に歩いている奏ちゃんが笑顔で僕に訊いてきた。
今日の奏ちゃんの服は、フリフリの付いた白いワンピースに、小さなハンドバックと実に大人しめで清楚感の溢れる服だ。
それに比べて僕は、どこにでも売っているようなTシャツに短パンといった、実に大人しめで服のセンスの無さを感じられる服だ。そんな不釣りな僕達を通り過ぎ際にチラチラと人は見て行ったが、そんなの僕は気にしない。別に僕と奏ちゃんは付き合っているわけでもないし、どっちかというと一緒に住んでいるぐらいなので兄妹感覚だ。今、兄と妹できょうだいって読ませたのは決して僕がロリコンとかそういうことじゃなく、身長的に僕の方が大きいから――
「翼くん、訊いてます?」
「あ、う、うん!」
要するに僕は緊張していた。
だって、いくら一緒に住んでいるとはいえ、僕の隣を一緒に歩いているのは美少女だ。
しかも、その容姿は可愛いとかじゃなく綺麗とかの方の分類なので余計他人の眼を気にしてしまう。
そんな僕の繊細な心など知って由もなく奏ちゃんは僕に声をかけてくる。
「それで、何がいいか決まりましたかー?」
うっ、そんな顔で僕のことを見つめないでくれ。
「え、えーとパスタとかどうかなー?」
咄嗟のあまり、奥の方で目に映った『イタリアン料理――パ・スタ』を声に出してしまったが奏ちゃんは、いいですね。と笑って答えてくれた。言うまでもないが、もちろん手などは繋いでいない。繋げるわけがないじゃないか。
「それじゃあ、あそこなんてどう?」
もちろん『イタリアン料理――パ・スタ』を指さす。
「いいですね。私、あそこ一度行ってみたかったんですよー!」
「あ、実は僕も一度入ってみたかったんだよね」
これは決して嘘じゃないぞ? だって僕みたいな奴が一人でイタリアン料理店なんかに入れるわけがないじゃないか。それに僕、学校以外の日は極力外には出ないし……。
「じゃあ、早く行きましょう!」
そう言うと奏ちゃんは僕の手を握った。奏ちゃんの手は冷たく、決して生きている人の様な体温じゃなかった。これは悪魔だった頃の名残――影響なのだろうか?
一瞬暗い顔をしてしまったがすぐに笑顔を見せて、奏ちゃんの手を握りイタリアン料理店に向かった。
「いらっしゃいませー!」
店の中に入ると金髪に染めたポニーテールの女性が笑顔で出迎えてくれた。僕はいままでツインテール派だったのだがポニーテールも結構いいかも知れない。進一はポンパテールとかいう謎の髪型好きだとだが、正直ポンパテールは小学生まで限定の髪型なので、僕はそこまで好きではない。
「ちょっと、神和住くんっ」
僕が料理店の女性に見惚れていると奏ちゃんが肘で僕の脇腹を小突いてきた。
「あ、え、えーと二名で」
「はい、二名様ですね! それではこちらへどうぞ」
ポニーテールの女性はそう言うと、僕達の先導してくれる。席に着く間、僕の眼の前で馬の尻尾がふらりふらりと誘惑でもするかのように揺れていたが、なんとか奏ちゃんの肘小突きで我に帰ることができた。
「それでは、メニューがお決まりになったらお呼びください」
そう言ってポニーテールの人は僕達から離れて行く。
改めて店内を見渡すと、木で作られた一面窓ガラスの部屋に、天井から吊るされたランプ。そしてテーブルは丸い形の上に赤い布を敷いた、イタリアン風テーブルだ。
実にここが、高校生が来るような場所じゃないと物語っている。
「ちょっと、大人っぽい雰囲気ですね」
「そうだね」
奏ちゃんも僕と同じことを思っているみたいだ。まだ、赤ワインでも握っていれば、マシになるかもしれないが、僕達は高校生だ。
まあ、周りは気になるものの、お腹も限界がきているのでメニュー表をとってさっさと決まる。
メニュー表には、パスタ以外にもピッツァやリゾットが載っていた。だが、ここの店名だけあってパスタの種類が圧倒的に多い。
僕はその中から『店長のおススメ』と書かれた。三種キノコのホワイトソースクリームスパゲティというのにした。
「奏ちゃんは決まった?」
「あ、はい。私はこの梅のジェノベーゼスパゲティというのに」
うん、実においしそうだ。
奏ちゃんは期間限定と書かれた練り梅がパスタの上に散りばめられているスパゲティを指さす。
「じゃあ呼ぶね」
「はい」
そしてメニュー表の近くに置いてあったベルを鳴らす。また、呼びだすのがベルってのもこだわりがあるのか、こっち側からするとちょっと小恥ずかし。
店内に軽快なベルの音が響くとすぐにさきほどのポニーテールの女性がやってきた。
「ご注文はお決まりになられたでしょうか?」
「はい、えーとこの三種キノコのホワイトソースと梅のジャエノベーゼ。それとウーロン茶を二つ」
女性はそれを聞きとると注文を繰り返して、奥へ戻って行く。それもまたポニーテールを揺らして。
「翼くん?」
「うん? なあに奏ちゃん」
女性がいなくなると奏ちゃんが声をかけてきた。別にそれだけなら、全然変なことじゃないんだが、なんだかいつもより声が怒っている感じで、若干頬が膨らんでいるように見える。もしかしてなにか僕はまずことでもやってしまっただろうか?
「そんなに……そんなにポニーテールが好きなんですか! あのちょっと髪をあげて元気ですよーアピールのある髪型がそんなに好きなんですか!」
普段の様子からは想像できない声で奏ちゃんは叫ぶ。そのせいで周りにいたお客さんも何があったの? という感じでこっちを振り向いた。
「ど、どうしたの、急に? も、もしかして三種キノコが食べたかったとか?」
「そんなんじゃありません」
「じゃ、じゃあ何?」
奏ちゃんの眼には少し水分的な物が見て窺える。顔も少し赤いし、そんなに僕は悪いことでもしたのだろうか?
と、ここで空気も読まずにポニーテールの女性がウーロン茶を置きに僕達のところにやってきた。
「つ、つばさくんが、さっきからその女性のポニーテールばっか見惚れているんだもん。せ、せっかくの二人のデートなのに……」
奏ちゃんはそう言うと、どこからかヘアゴムを取り出して綺麗な黒髪ストレートを後ろで一本に結びにする。
僕はというと、隣でウーロン茶を震えながら置こうとしている女性を恐る恐る見てみた。
「こ、こ、これ、ウーロン茶ですっ!」
女性は僕と目が合うと顔を赤くして小走りで店の奥へと行ってしまった。もちろん、その際にポニーテールをぶんぶんと揺らして。
あぁ、もう絶対このお店に入れなくなっちゃったよ。
周りのお客さんは、僕達のことをまるで青春中の学生を見る様な目で見て、何事もなかったかのように戻った。
「その……奏ちゃんは、なにもしない方が一番可愛いよ……」
気まずくなった空気の中、なんとかしぼりだして目の前でポニーテールにしている奏ちゃんに話しかける。
「そ、そうですか?」
「う、うん。奏ちゃんはストレートが一番可愛いよ。それに僕はポニーテールよりツインテールが好きだからね」
「そ、それはどうかと思いますがありがとうございます!」
奏ちゃんはそう言うと、結んでいたゴムをとり、いつものストレートでお礼を言った。まあ、なんとか空気も元通りになったことだし、さっき届いたばかりのウーロン茶を飲みながら奏ちゃんに質問をする。
「奏ちゃんってさ、少し天然だよねぇ」
「そ、そうですか~?」
奏ちゃんも同じ様にウーロン茶を飲みながら答える。
このあいだも、自分でペンをもっていながらペンはどこ~? って捜しまわっていたし、その前も相撲をみながら、この人って何ゴル人? って質問をしてきた。
そこまで答えが出ていながらわからないとは、どういうことであろう。
とにかく彼女はそういうちょっと抜けた少女なのである。
と、そんな他愛もない会話をしてスパゲティが来るのを待っていると、スパゲティの変わりに意外な人物が声をかけてきた。
「お! や、やっぱり翼じゃん! それに奏ちゃん! どうしてここ!」
声をかけてきた人物は、髪を校則ギリギリまで明るく染めた、ちょっとチャラいイメージのある七瀬進
一ことニュースキャスターであった。そして、その横には三つ網を二本両肩に垂らした女の子の姿が。
「おお、進一! そうか、お前初デートだって言ってたもんな。僕達はお昼を食べにきたんだよ」
そう言うと、奏ちゃんは少し肩を落とした。
「そうか。あ、紹介してなかったな。これが俺の彼女の平野唯」
そう言うと進一の隣にいた平野さんは僕達に一歩近づいて丁寧挨拶をしてきた。
「わ、え、えと、私、平野唯と言います。その一応進一くんとは彼女です」
そう言うと彼女は後ろに一歩戻った。
実に清楚な感じで、進一にはもったいないような感じの子だ。進一もこんな彼女を連れてこのお店にくるなんて結構シャレてやがるぜ。
進一は「一応っ!」とショックを受けていたが僕達も席から立ち挨拶をする。
「僕の名前は神和住翼ね。そしてこっちが――」
「赤羽奏です。えーと、たしか同じクラスだよね?」
「はい、そうです。赤羽さんとは何度か話したこともあります」
そういえば、奏ちゃんと教室で会話している姿をなんどか見たことがある。でも、その時は髪など結んでいなかったから気付かなかった。
少女は進一の腕を引っ張り店員さんが案内していると進一の耳元で囁いた。
僕もそっちを向くと、あろうごとかポニーテールの女性で、目があってしまい、向こうは顔を背けてしまった。
「お、それじゃあ、俺達は行くわ。またな~」
「おう、それじゃあ学校で」
「またね、唯ちゃん」
「はい、また学校で」
それぞれがぞれぞれに挨拶をして進一たちはポ二女性の案内した方に行く。
「あ、か、奏ちゃんはそのまんまが一番可愛いからね」
「はい……」
なんだか僕があの女性と目が合うと怒るみたいだ。これからは気を付けよう。
そんなこんなをしているうちに、料理が運ばれてきた。メニューで見るよりも量があって僕達は思った以上のおいしさに満足をして今は休憩中だ。
途中、料理を運んできたあの女性がポニーテールを崩しているのにはショックを受けたが、また奏ちゃんが暴れ出したら困るのでなんとか受け流した。
「それじゃあこれからどうする?」
スパゲティでお腹をパンパンにした僕が奏ちゃんに質問をする。
本当に今日はいい天気だし、しかも店内全面がガラス張りだから余計に食べている最中も日の光が入り、このまま帰るのはもったいない気がした。
「そうですね、せっかく二人っきりなのですし、お買いものなどしたいですね」
奏ちゃんは笑顔でこっちを向いて答える。
「買い物かぁ、たしかにそろそろ新しい夏服が欲しいかも」
と、自分の着ている服を見て言う。僕の着ているシャツには前には「ノストラダムスの大予言」と書かれて、後ろには「予言ハズレ」と書いてある。いくら、今まで服などに興味がなかったからとはいえ、ちょっとこれは恥ずかしい。
お金の方もこのあいだ、親から仕送りが来たので余裕があった。
「じゃあ、私がコーディネイトしてあげます! ここからちょっと歩きますが、一○九があるので」
一○九って男の物は売っていたっけ? と疑問が残るもののせっかく奏ちゃんが服を見繕ってくれると言うので、お礼を言ってトイレに行く。
「……はあぁ」
トイレに入り、自分一人になるとすぐに溜息を吐いてしまった。その原因はわかっていた。
僕はなにモモのフラグを立てたまま他の人と楽しんでいるのだろう。と簡単で複雑なことだった。
普通なら、一切気にならないまま奏ちゃんとデートを楽しめるのだけど、まるで僕はギャルゲーの主人公になってしまったように、一人攻略中のキャラがいるときは、他の女性陣に手が出せなくなってしまったようだ。
一途と言えば一途だけど、仮にも奏ちゃんは前回攻略をしたのだから、ちょっとはなにかあってもいいのではいないのだろうか?
「――て、今奏ちゃんとデートできてるじゃん! 素直に楽しめてないけど……」
トイレの鏡で自分の顔を見ながら呟く。
だからそのためにも、僕はモモのフラグを攻略しなくてはいけない。そうじゃなきゃ、一生恋ができないのだから。
蛇口から水を出し、顔を洗って気合いを入れる。
「奏ちゃん、お待たせ。それじゃあ行こうか」
僕は財布しか持ってきていないので、トイレから帰ってくるとそのまま座らずに外へ出ようと奏ちゃんを促した。
「翼くん、ちょっと待ってください」
が、逆に背を向けて会計を済ませようとした僕が呼び止められた。
「うん? どうしたの?」
レジへ向かいかけた足を止め、奏ちゃんの場所まで戻る。
「それが、そのあれ見てください」
「うん? どれどれ?」
奏ちゃんはそう言うと、僕達から見て一番右のガラス壁を指さした。
僕は奏ちゃんの指さしたガラス壁を見る。ガラスには至って問題はない。だが、その先の道でスキップをしながら歩行している人に問題があった。
その人が着ている服には「アウストラピテクス」と後ろに書いてあって、時々見える前には「人類の進化」と筆書きされていた。
「うわぁ……センスないね」
僕は奏ちゃんの横でぼそっと呟く。
「なに言ってるんですか! あれ翼くんのですよ。そしてあれはモモじゃないですか」
「モモ……?」
言われてみれば、シャツに書かれている文字に気をとられてしまっているが、よく見たら頭の上には二つの大きな耳、それも白と黒柄の。短パンからスラリと伸びている美脚にはもう一本、地面には着かないぐらいの長さの、ころもまた白と黒のストライプ柄の尻尾が。そして極めつけは、大型犬の首輪を首にしているというところだ。
「あれ、モモじゃん!」
「だから、言ってるじゃないですか」
と奏ちゃんに言われてやっと気づく。
僕は傍から見たら、あそこまでセンスの無い服を着ていたのか……。なんだかこれはショックだ。でもこれはチャンス!
「奏ちゃん、悪いけど買い物はまた今度。ちょっと僕はモモをストーキングしてくる!」
急いでお会計レジへ向かう。
「はい、あり――」
そこまで言ってお会計の子の言葉が途絶える。
ちょっと、何やってんだ。早くしないと見失っちゃうじゃないか!
「あのー、急いでもらって――」
「はうぁっ……」
顔をあげて、レジの子を見てみると、まさかのポニーテールの女性で、生憎目があってしまった。
ポニーテールの女性はまた、ポニーテールにしていて、僕と目が合うと顔を真っ赤にして俯いてしまった。耳まで真っ赤だ。
「そ、その、いろいろ誤解しているようだけど、今はちょっと急いでいるからまた暇な時弁解しに行きます! それじゃあこれ!」
そう言って伝票に書かれた数字とは余分に置いて、お店を後にする。
お店を出る際に、奏ちゃんがいてもよかったということに気付いたが、彼女はなんだかんだで、とろいところがあるので置いてきて正解と言えば正解だったか。まあ、帰ったあとすごい怒ってくるだろうけど、その時は全力で謝ればいいか。
そんなことを考えながら、ノストラダムスの大予言がアウストラピテクスを尾行するのであった。