奏でろ怒涛のギャグ!
お待たせしました♪
読み終わったら必ず、あとがきを読んでください♪
薄暗い公園、それもそのはず現在午前二時。
僕はそんな夜の公園でテディコを連れてジャングルジムまでやってきた。
「ずいぶん早かったですねぇ、というか、まさか本当に来るとは思わなかった」
奏は、ジャングルジムのてっぺんから、まるで奴隷を見るかのように見下して、不敵な笑みを浮かべる。
「黙れ、しっかり来たんだから約束を守れ」
お互いの声ははっきりと聞き取れる。時間帯のせいもあるかもしれないが公園の周りには人っ子一人、車一台見受けられないからだ。
「まぁまぁ、そんな怒らないで、あの子ならあそこにいるから」
彼女は公園の片隅、ブランコを指さした。その言葉には今までの奏さん欠片も感じられない。
奏が指さした方向には、表現が悪いがまるでロリッ子キャリポンに出てくるかの様にチェーンに絡まったアイシャがいた。
「おい、アイシャ! 大丈夫か!」
「…………」
その場から叫んでみたが返事はない。きっと気絶しているのだろう。いや、最悪――
僕は奏のことを睨みつけた。
「大丈夫よ、殺してしまったら取引にならないでしょ?」
彼女は、馬鹿ねとでもいいたげそうな顔する。
「うるさい、それでお前の望みはなんなんだ」
「だからぁ、それが欲しいの」
彼女は一瞬で僕の前までやってきてそっと僕の右手の薬指を撫でた。
なにを言ってやがる。これは魔法少女の命とも言える代物なんだぞ。
奏の手を振り払おうとして、そこで初めて気づいた。彼女の指にも僕と同じデザインの指輪がはめられていることに。
「なんで、お前がその指輪を……」
「ふふ」
彼女はさきほどと同じように一瞬でジャングルジムのてっぺんに移動する。
「そう、その通り。私たちがなぜ魔女狩りや悪魔って言われているか知ってる?」
「それは、本当に悪魔だからじゃないのか?」
考える余地もない、と思い即答する。
だが、奏からは意外な答えが帰ってきた。
「違うよ。それはね、私たちがこの指輪を求めて誰人構わず殺してきたからよ」
なんだって? じゃあ本当は悪魔じゃないのか?
暗闇の中から彼女の赤い下がチロッと見える。それは昼間よく僕にしてくれたのと同じだ。
僕は一歩ジャングルジムに歩み拳を握りしめた。
「なぜ、そんなことをする?」
「だから言っているでしょう? 指輪が欲しいから」
「そんな理由で、いままで何人もの魔法少女を殺してきたのか……?」
「そうよ」
にっこりと奏は答える。
くそ、僕はなんでこんな奴のことを好きだなんて……。向こうで締め付けられているアイシャを窺う。アイシャは時折苦しそうに声を漏らしていた。本当に殺してはいないようだ。
「最低だな」
「あら、何をいっているのかしら? あなた達だって金や銀のために人を殺したでしょう? 一緒じゃな
い」
ラナは不思議そうな顔で、今も僕らのことを見下している。
「あぁ、たしかにそうだ。だが、その人達はしっかりと報いを受けた」
「けれど、逃げ切れた人はいた。それに逃亡を試みる人もいた」
「つまり、なにが言いたいんだ?」
「私も報いを受けなくていい? ってこと」
彼女はクスッと笑う。
そんな戯言聞いていられるか。こっちはお前のせいで皆勤賞も逃し学校では変な噂を立てられてファーストキスも奪われているんだぞ。無期懲役もんだ。
僕はもう一歩ジャングルジムに近づき、ゆっくりと口を開く。
「苦心の屈伸」
その言葉と同時に後ろで構えていたテディコは、ボウリングの球の十倍はあろうかと思う氷結弾を奏へ放った。
放たれた氷結弾は奏へとまっすぐに飛んでいき、直撃し氷は砕け散った。
やったのか?
「あらー酷い。痛いじゃない。でも交渉決裂ね」
ワンピースにくっついた氷の結晶を手で払い、ジャングルジムっから下りてゆっくりとこちらへ近づいてくる。
まぁ、ボスがこんな簡単に勝てるわけがないよな。
「テディコいくぞ!」
「……うん」
気を入れ直して、再度奏に標準を定める。
「お金はおっかねぇ! 内臓がないぞー! 電話にでんわ! 猫が寝込んだ! ヘビーな蛇! 仏はほっとけ!」
僕の叫びと共にテディコの両手から無数の氷結弾が放たれ龍の形となり奏を飲み込んで
空へと消えて行った。
「やったのか?」
空から氷の結晶が落ちてきて、一時的に視界を悪くさせる。
「残念でした」
刹那――背後から奏の声がして、振り向いて見るとテディコの首にナイフを突き付けた奏がいた。
「昨日今日なったばかりのマスターにしてはよく頑張ったほうね」
奏はそう言ってほほ笑み、テディコの首にナイフを刺した。
――ガッ。
鈍い音と共にテディコの頭が地面へと転がり僕の足元に落ちた。しかし、その首から見える物は血ではなくキラキラと光る氷だ。
「残念、ハズレ。本物は向こう」
ブランコの方を指さし、奏に笑いを向ける。
ブランコの方ではテディコがアイシャを担ぎ片手をこちらに向けていた。
「カーテンには勝てーん」
「――――っ!」
テディコの足元から氷の道がひかれ、奏の足を捕らえた。そして奏は全身氷漬けにされた。
僕もその隙を見計らって急いでアイシャの元へ駆け寄る。
「おい、大丈夫か。しっかりしろ」
テディコからアイシャを奪い地面に寝かせて意識があるかを確認する。
「……うるさい……わねぇ……」
ほんのわずかだが、アイシャは反応してにっこりと僕を見て笑ってくれた。
よかった……本当によかった。感動のあまり、アイシャの体を起こし思いっきり抱きしめる。
「ちょっと……野外でやめてくれる? 苦しいよ」
その言葉で即座に我に返り抱きしめていた手を離す。急に離したせいで、アイシャが後ろに倒れて「いたっ」と声を出した。
「あ、ごめん」
もう一度、アイシャの体を起こそうとしたら、テディコが僕の手を引っ張ってそれを止めさせた。
「……あれ……見て」
氷漬けになった奏をテディコは指さす。
そこには、奏を覆っている氷の塊がキシキシと音を立てて徐々にひびが入っていた。
そろそろ、壊れるか。
その光景を見たまま足元で寝ているアイシャに手を差し伸べてあげる。
「いけそうか?」
「大丈夫っ!」
アイシャは大きく背伸びをして軽く準備運動にかかった。
よし、第一任務アイシャ救出作戦は成功した。これで戦力は同じ――とまではいかないが上がったことだろう。
テディコとハイタッチを交わしこれからの作戦に入る。
「よし、これからだが、相手は思った以上に強かった。まるで歯が立たない感じだ」
「わかってるわよ!」
準備運動を終えたアイシャは、いつも通りに戻っていた。
「そこでだ――」
ポケットの中からある物を二つ取り出し二人に一つずつ渡す。
「これは?」
アイシャが当然、怪訝な顔をしてもらった物を訊いてきた。
「まぁ、その使い方はテディコの真似をしろ。それよりあれ」
奏を覆ってた氷の塊は、いつ砕けてもおかしくないほどひびが入っていた。
そして、僕らは戦隊ものや魔法少女ものでは絶対タブーな行為、相手の変身中にやっつける。それに近いことをやろうとしていた。
「よし! まだ氷は砕けてない! 今がチャンスだ。命が欲しいやつは構えろ!」
アイシャとテディコが僕の両際に立って片手を突き出す。
「いくぞ。たいした鯛だ!」
テディコの左手から氷結弾が放たれる。
「地球が丸い理由は人間を隅っこで一人にさせないためだ!」
アイシャの右手から火炎弾が放たれる。
まだまだ!
「レストランは決めとらん! バスケがしたいです! 近所の金魚! 松岡○造!」
奏にめがけて容赦なく氷と炎が降り注いだ。その氷と炎は全て、固まっている奏に命中し、そこに深い穴をあけた。
「はぁ……はぁ……」
仕留めたか?
一見ふざけているように見えるかもしれないが、頭ではおやじギャグを考えてアイシャの技を使う時は気持ちを熱くするので、精神的にかなり疲れる。
「くそっ!」
しかし、その考えは一瞬でぶち壊された。
地面にあけられた穴から傷一つついていない奏が姿を現す。
「酷いじゃない、神和住くん。あれは無いでしょ?」
あれだけの攻撃を当てたにも関わらず奏は全然平気の様子だ。
せめて。傷でもついていれば、儲けもんだったのだが。
「まあね、こっちも命掛ってるもんで」
「ぞうね。それにしてもホントここまでやるとは思っていなかったわ」
「そりゃどうも」
「ご褒美にいいことを一つ教えてあげるわ」
彼女はそういって自分の左手を空にかざして、自分の指にはめられている指輪をみせつけるように語りだした。
「この指輪の持ち主は、若い女性の人だったわ。その子のパートナーは電気を操る魔法だった。そこで私
は、そのパートナーの命が欲しければ指輪を渡しなさいって持ちかけたの。どうなったと思う?」
そんな質問の仕方、進一じゃあるまいし、めんどくさいんだよ。
僕はイライラ気味で答える。
「なにが言いたい?」
「その子は自分のパートナーの命のために契約の指輪を渡したわ。もちろん私は約束を守って殺さなかっ
た。その代わりこの指輪(電気の力)を手に入れた。そして向こうは光の力を失ったわ。つまり――」
そこまで言うと奏は上に向けていた左手を僕達に向けた。
「こういうことよ!」
突如彼女の左手の指輪が白光り電気を帯びた光が放たれた。まるでレールガンみたいに真っ暗だった公園もその光だけで十分な程に明るくなり、放たれた電気は途中で分裂をして無数の光となって僕達に飛んできた。
「テディコ!」
「……うん」
テディコは飛んでくる電撃の前に立ち地面から氷の壁を結成する。飛んできた電気はバチバチッと氷とぶつかると音を立てて公園がまた暗闇へと戻っていく。
「まだまだ、えい、えい、えい!」
今度は氷の壁程度では防げないほどの雷が三つこっちに向かって走ってきた。
「二人とも構えろ!」
僕の指示で両手を胸の前に構える。実際に魔法を使って戦い気付いたことがある。初めて出会った時は、この二人の魔法は同時に強化ができない。そう思っていたが実際ぞんなことない。熱い気持ちで冷たいギャグを言えばよかったんだ。
構えている二人の目の前にはもうすぐそばに雷が迫っている。僕はギリギリまで待ちここぞというタイミングで叫ぶ。
「――石の意志はつぐっ!」
そこまで迫っていた雷はいとも簡単に二人から放たれた攻撃に打ち消され、まっすぐと目にも止まらぬ速さで奏に向かう。
「――っ」
ギリギリのところで奏は攻撃をかわして後ろのあったベンチに攻撃が当たり粉々になって吹き飛んでいく。ちっ、おしい。
「テディコいけ!」
「うん!」
左の手を氷の剣に変えて奏へと遠距離から接近戦へと変える。
「アイシャ、正直に言うがこのままでは勝てない。だからテディコが時間を稼いでいる今の内に勝てるぐらい熱い気持ちになれる言葉を思いつくんだ」
自分で言っていながら無茶なことだってわかっている。だけどこれぐらいしか勝てる方法はないんだ。魔法の相性的にも威力的にもアイシャは強いし、ただ僕の気持が足りないだけなんだ。
アイシャも僕の気持を察したのか反論することなく考だす。
「こんなのはどう? 中学最後の体育祭」
「おぉいいぞ! けど、体育祭は毎回サボっていて感情移入しにくい」
「なにやってんのよ! じゃあ部活動最後の大会!」
「部活やってない!」
「うー! じゃあ必ず一人学校にいた体育の熱い教師!」
「学校からは離れてくれ!」
中学時代にいろいろとあったんだよ。
そんな馬鹿なやりとりをしているすぐ向こうではテディコが火花散らしながら死闘の戦いを繰り広げているというのに。
「じゃあ、あんた自分で考えなさいよ! わたしもう知らない」
「しょうがないだろ! 中学時代は両親がな――」
「きゃあぁぁぁぁ!」
突如少し離れたところから叫び声が聞こえた。まさか――と思い瞬発的に叫び声にした方を向くと首を絞めつけられ持ち上げられているテディコがそこにはいた。
「あらあら、神和住君たちが仲間割れするからこの子が心配して注意力落としちゃったじゃない」
「うるせぇ」
奏はテディコの首を絞めて、首の頸動脈あたりに刃を当てる。
彼女は苦しそうに息を漏らす。
「さぁて、どうしようかなー」
首筋に当てた刃を少し引いて血が出たのを確認すると嬉しそうに刃についた血を舐めた。
くそ、どうすりゃいいんだ! ここまでなんとかやってこれたがここまでなのか! くそっ! くそっ! くそっ!
奏に傷つけられた首筋から血が地面へと一滴落ちる。
考えるんだ。今この状況で考えられる全てのことを! テディコは奏に捕まっている。そしてこっちには何も考えついてない僕達がいる。
「さぁて、じゃあまずはここを――」
「きゃあああああああ!」
奏はテディコを持ち上げたままテディコの右手を後ろに回して腕の骨を――
「やめろおぉぉぉぉぉお!」
「こないでくれる?」
無我夢中で我を忘れてテディコの元へ駆け寄る。が、しかしあともう一歩というところで奏は僕にめがけて電気を放った。
「痛ってっぇー! くそ痛ぇ! 焼ける。熱い!」
電撃は見事に直撃しその勢いは衰えずもといた場所まで吹っ飛ばされ頭を強打する。
なんだってんだよ……こいつ等はこんな奴とやりあってきたのかよ。くそ痛ぇ。
「大丈夫、翼!」
アイシャが心配して僕のところまで駆け寄ってきて服に引火した火を消しくれる。
「ああ、大丈夫だ」
くっそぉ、こっちはまだこの間の後頭部のたんこぶ治ってないんだぞ。服にくっついた砂をはたき立ち直す。
「じゃあ。次はここ」
「いやあぁぁぁぁぁ!」
奏は反対側の腕も後ろに回すと思いっきり引っ張り――
「だからやめろって言ってんだろおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
後頭部のことなんか忘れ、今にも折られそうなテディコの元へ走り寄る。
「だからこないで、って言ってるでしょ?」
奏は一回地面にテディコを落とし両手を僕に向け電撃を放った。
だめだ。この大きさはくらったら死ぬ。今までのことが走馬灯のように駆け巡る。
「そうわさせないわよ!」
僕が目を閉じて覚悟をしているとアイシャは後方から蛇の様な炎を出現させ奏――ではなくて僕にめがけて飛んできた。
なんでっ!
その炎は横からグルっと回り僕の脇腹に直撃して僕を砂場に向かって吹っ飛ばす。
「いってぇじゃねぇか! どこ狙ってんだ!」
「電気と炎どっちがマシよ!」
砂場に吹っ飛ばされた僕は慌てて服に燃えさかる火を――そうか、この指輪があるからアイシャの攻撃は勢いだけで魔法本来のダメージは無いのか。だけどそのダメージも十分痛いのだがナイス。
黙ってアイシャに親指を立てて向ける。
「いい加減あなた達の茶番には飽きたわ」
奏は大きくあくびをすると、この公園で最初にやった瞬間移動のようなものをしてアイシャの後ろに現れた。
「アイシャっ! 後ろ!」
「えっ?」
僕の叫びを聞いて後ろを振り向く。
「遅いわ」
アイシャの顔面の前に手を持っていき手から強い電気が放たれる。
「きゃあぁぁぁぁ!」
頭から吹っ飛ばされたアイシャは地面を転がり地面で寝ているテディコに激突してやっと止まった。
「さぁて、これで私の勝ちね」
奏はゆっくりと歩いて寝ているアイシャ達の前までいき両手で二人の首を掴んで持ち上げる。二人は奏の手を掴みなんとか逃げようとしている。
「じゃあバイバイ」
奏はにっこりと笑いを浮かべ両手に力を込め指輪がひかり――
「ちょっと待て! 待ってくれ!」
「な・あ・に?」
まるでこうなることがわかっていたかの様に光が止まりこっちに振り向く。
はぁー、僕もやきが回っちゃったみたいだ。たった少しの間だけどコイツらといた時間は楽しかったし一般市民だった僕には刺激的で彼女らは魅力的だった。そんな彼女らがいなくなるにはもったいなさ過ぎる。
ならこの指輪を渡して彼女たちの魔法はなくなっちゃうけど、命だけでも――
そこで初めて気づいた。自分が泣いていることに。拳には力が込められて手から血が滴る。
悔しい、悔しい、悔しい! 自分の力で守れなかったことが悔しすぎる! なんなんだこの気持ちは――
胸が痛い。
胸が苦しい。
そして熱い。
熱い? 胸が熱い。そうか。そういうことか。なんだ難しいことじゃないじゃないか。
「な・あ・にぃ~?」
奏は嬉しそうに僕に訊いてくる。
それに対して僕はほくそ笑みながら告げた。
「くたばれ、悪魔が!」
奏は驚いたみたいで、口をポカーンと開けて目を丸くし数秒間固まった。
まあ、まさかこんなこと言われるとも思ってやいなかっただろう。
「い、いいわ。殺す。殺してあげるわ!」
ハッと奏は我に返って二人の首を力いっぱい握りしめ手に力を込める。奏の左手の指輪が強い光を放ち公園全体が輝き強い光りによってなにも見えなくなってしまった。
「あばよっ!」
光の中奏の声だけが聞こえ、直後に大きな爆発音と爆風が襲ってきた。
次第に公園全体を覆っていた光は収まり視界が元に戻っていく。
くっ、ここが山場だ。なんとか耐えてくれ!
視界が完全に回復して二人の確認ができる。
――っ!
そこには口から真っ赤な血を大量に流した二人の姿があった。
「あーあ、神和住くんが馬鹿なことを言うからいけないのですよ?」
奏は二人を持ち上げたまま残念そうに喋る。
「なんで……なんで……なんで……」
「神和住くんの敗因の理由は、馬鹿な回答をしたことです。もし、あそこで指輪を渡すと言っていれば助かったのに」
僕はなんて……なんて!
膝を地面にくっつけて手を地面につけ顔を下に向ける――笑顔を見せないように。
下唇を思いっきり噛みしめる――笑い声を漏らさないように。
「ど……どっちが……馬鹿なんだよ!」
体を一気に起こし顔を上げ堂々と告げる。そのセリフで首を絞められ持ち上げられていたアイシャとテディコは絞められている奏の手と肩を掴みニィっと笑う。テディコの笑顔なんてめずらしい。
「なっ、なんで!」
奏はパニック状態になり地面に落ちている物に目がついた。それは、コーヒー缶ぐらいの大きさで『インクお得用パック レッド』と書かれたインクの漏れている捨てがらだ。
「まっ、まさか」
そう、それはいつか僕がやった単純明快、誰でも思いつく様な技だ。
奏は慌てて逃げようとするが、二人にがっちりと掴まれていて逃げることができない。
ここまでくれば――
僕はゆっくりと余裕を見せつけるように奏に近づく。
「奏ちゃん、奏ちゃんの敗因の理由を教えてあげようか?」
馬鹿にするように奏に訊ねる。もちろん、奏は「教えて」など言える余裕はなくただただ僕のことを睨みつけるだけ。
それはね――
「あくまで、悪魔だからだよ!」
奏を押さえつけているアイシャとテディコの手が赤く、青くひかり、僕のはめられている指輪も強い光りを放った。
「な――――っ!」
爆発音と共に光が強くなり、視界が回復した頃には地面で三人の女の子だけが倒れていた。
「大丈夫か!」
急いでその場から走りアイシャ達の無事を確認しに行く。
「おい、テディコ! 大丈夫か、テディコ! しっかりしろ!」
地面に倒れているテディコを抱きかかえ心臓が動いているか確認する。
よかった、心臓はしっかり動いているみたいだ。
次に近くにいるアイシャを確認する。
「おい、生きてんだろ? しっかり起きろよ」
地面に横たわっているアイシャを軽く揺さぶる。
「……ゲホッ……私の扱い……酷くない?」
アイシャは意識があるようでむせながらも返事を返してくれた。
「嘘だよ」
アイシャのこともしっかり抱きかかえ心臓が正常か確認する。
「あれ? ちょっとお前心臓早くない? 心なしか顔が赤いし」
「な、なに言ってんの! い、インクよ!」
僕のことを突き飛ばし口元のインクを袖で拭いとる。
まあ、いつもどおり元気でよかった。
二人の無事を確認したあと、もう一か所少し離れた奏の元へ向かい、同じ様に抱きかかえ確認する。
「ちょ、ちょっとぉ、なにやってんのよ?」
アイシャが不思議そうに僕のそばまでやってきた。
「なにって、もし死んでたら人殺しになっちゃうだろ? そんなのごめんだ」
奏さんから引き剥がそうとするアイシャはほっといて心臓の確認をする。
よかったぁ、僕は人殺しにならなくて済むようだ。
全ての確認をしたあと公園を見渡す。凍りついたジャングルジムに燃え盛る砂場、そして粉々になったベンチ。すごい戦いだったんだな。
「よし、まあ一見落着! 家に帰るか」
奏とテディコを背負ってこの公園を出る。出る際には全て魔法によって破壊したものだったので振り向くといつも通りの公園にもどっていた。
もちろん、アイシャは「なんで、コイツも連れて帰るのよ! しかも抱っこで!」と反対をしてきたが
「なんだ? 抱っこしてほしいのか?」と茶化し半分で言ったらよくわからないけど黙ったので今はのんびりと家に向かっている。
「それにしても、翼ねぇ、話が長いのよ。もう少しで私窒息死するところだったのよ?」
「いやぁ、ごめん。ごめん」
まさか、あそこまで作戦思った通りになるとは思っていなくって。実際最後の攻撃とかもアイシャ達が耐えてくれなきゃ成功はしなかったし、ほんと賭けだったんだよな。だからつい、話も長くなっちゃった。
その後はどうでもいいような特に話しをして気付いた頃には空が明けて自宅の前まできていた。
「よっしゃぁ! ただいま!」
「ただいまー」
玄関の扉を開けて大きく挨拶をする。
またこの家に帰って来られるなんてなんて嬉しいんだ。
靴を脱ぎ捨てリビングに行きひとまずテディコと奏ちゃんをソファに座らせて、一息つく。
「おい、アイシャ。俺ちょっとお風呂入ってくるけど二人を見ていてくれるか?」
さっきの戦いで服は燃えて砂まみれになったので着心地の悪いこと、悪いこと。
「え、なら私も……入りたい……」
キッチンからアイシャの声が聞こえてきた。
アイツも結構汚れていたからな。
「じゃあ先に入るか? 僕は別に後でも構わないけど」
「もういい! 先に入って!」
え? なんで僕怒られたの? てか、なんでアイツなんで怒ってるの? いいけど。
アイシャはご機嫌が斜めなご様子なので先にお風呂に入らせてもらうことにした。
「ふぅ~、生き返る~」
湯船に浸かり安堵の息を漏らす。
なんだかんだ解決できたけど、ほんとにこれでよかったのかな? 右手にはめられている指輪を見つめる。
いやぁ、でもまさか奏さんが悪魔だったなんてなぁ。お昼は悪魔外に出れないとかめちゃめちゃ出てるし。奏さんが悪魔――
今さらになってかなりの絶望感が襲ってきた。
「奏さんが悪魔……か」
待てよ、悪魔? 僕は悪魔のフラグを立てたのか? その、あと魔法少女のフラグが立ち――いや、でも魔法少女の敵が悪魔で、魔法少女と出会ったことにより悪魔イベントが発生したはず。いやいや、でも魔法少女に会う前に悪魔に会っているから――いやいやいや、あの奏さんとぶつかった時点では悪魔ではなくて、途中から悪魔になったて可能性もないか。
「もうわからん!」
混乱する頭を抱えてお風呂を出る。
うーん、本は燃えちゃって確認することができないし、あ、そういや奏さんが言ってたけど、本当は悪魔じゃなくてただ悪魔と呼ばれているだけなんだっけ?
バスタオルで体を拭きながら考える。
てことは、奏さんは何者? もしかして同じ魔法少女?
「つばさー、テディコが目を覚ましたわよ――ってなんで裸でいんのよ!」
「風呂上がりだからだろう!」
反射的にアイシャが放った火炎弾を避けて反論する。そして、顔を赤くしながらその場から立ち去ろうとするアイシャを呼び止めた。
「なぁ、アイシャ。赤羽奏ってなにもんなの? もしかしてなんだけど魔法少女?」
その場から立ち去ろうとしたアイシャは目線を上に向けたまま答える。
「そんなはずないじゃん。でも悪魔じゃないんだってね」
「やっぱそうか、じゃあなんなんだろうな」
「さぁ、あの子が起きてみたら訊けば?」
そう言ってアイシャはリビングに引き返してしまう。そういや微妙にだが燃えた本にパル○ンテタイプ、とか記載されていた気が……まぁいいや、あとで訊けばわかるか。
疑問は置いといてみんなが待っているリビングへと向かった。
「おおテディコ、目を覚ましたか、どれ?」
リビングへ行くと相変わらずアイシャは床でごろごろとテレビを見ている。
テディコもアイシャのつけたテレビをなにげなく見ていた。
いつのまにか、口周りの赤いインクは落とされていていつも通りといったところだ。一部を除いて。
「うわぁー、ヤバいな。めちゃめちゃ痛そうじゃねえか」
先ほどの戦いで折られた右腕は紫色をして二倍ぐらいに膨れていた。触ってみるとかなりの熱もあるし。
左腕はギリギリ阻止することができてなんでもない。
「……大丈夫、気にしないで」
「そんなこと言われてもなぁー」
口では言っていても薄っすらだが本人は気付いてないだろうが額には汗が浮かんでいた。
なんで戦いが終わったのに無理すんだよ。けれど本人が大丈夫って言うならなにかしら理由とかがあるのだろう。
「じゃあこっちに来てみ」
ソファに座りテディコを膝の上に乗せて抱きしめた。
「昔よく、僕が泣いている時に母さんがやってくれたんだ」
「……うん、ありがと」
二人でぼんやりとどうでもいいようなテレビを眺める。
「アイシャ、そんな目で見たってもうプリンはないからな」
「う~……しねっ!」
「なんでっ!」
なぜかこっちを見ていたアイシャに罵倒される。いや、しょうがないだろ。あのプリン食べたかったな
んて知らなかったんだしさ。
テディコを右膝に乗せてアイシャを呼ぶ。
「ほら、アイシャこっち来いよ。空いてるぞ?」
「もういい!」
「あぁそうか、じゃあ奏さんを――」
「いくってば! バカっ!」
奏さんに近づいたところをいきなりアイシャが僕の左膝に乗ってきた。
「お前、思ったより重たいな……」
「くたばれっ!」
「危ないだろ! こっちにはテディコがいるんだぞ!」
アイシャはあと先考えずにものすごい至近距離から魔法を使ってきた。その魔法はなんとか回避してソファの一部を燃やしただけで済んだけど。
「なぁ……二人ともこの後向こうに帰るのか?」
「それは……その……」
向こうとはもちろん元いた場所、魔界やら天界やらよくわからんけど。
「あ、あのさ、ならもう少しこっちで一緒にいた――」
「いいよっ」
「えっ?」
アイシャはこちらを振り向き笑顔で返してくれる。
「だから、いいよ。一緒にいてあげる。ね?」
隣にいるテディコをみて彼女もコクンと頷いた。
「そのかわりもう少しだけ、このままでいさせて」
アイシャは僕の左手を持ってきて自分のことを抱きしめる様に巻く。
くそ、なんなんだよコイツは。
「ふん……べつに、残ってくれって言ったのはテディコと一緒にいたいからだからな! 勘違いすんなよ」
「なによそれ! 私だって残りたくて残る――」
この時素直にありがとうと言えなかったのは妙にコイツに――て、そういえば僕は魔法少女フラグを攻略したのか? まあこの状況をみたら攻略したのだろうな。
アイシャのぎゃあぎゃ叫んでいる声を無視して今はどうでもいいようなテレビを三人そろって眺めた。
はい。というわけで無事に魔法少女編は完結しました。しかし、この章が最後ではありません。次に外伝の話を出すのでそっちにも付き合ってくれたら幸いです。
そして、ここまで付き合ってくださった皆様、ありがとうございます。
どうでしたでしょうか? 魔法少女編は楽しめていただけたでしょうか?
僕は、書いているうちに感動してしまいました(泣笑)
ちなみに外伝は、次に立ててしまうフラグのあらすじみたいなものになっております。
今後もまだ話は続いていきますので、気にいっていただけた方、お気に入り登録してくれると嬉しいです。
そして、魔法少女編という大きなくくりも終わったので、まだ感想は一個しかもらってないので総合的に読んでどうだったか書いてもらえると大いに嬉しいです。
それでは、また新しいフラグでお会いしましょう。
長い間、お付き合いありがとうございました。