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折りたたみ式フラグっ!?  作者:
第一章、双子の魔法少女
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フラグ本との出会い

寝坊だ。完璧に寝坊した。生まれてこの方、無遅刻無欠席だけが取り柄だった僕が、ついに取り柄のない人になってしまう時が来た。

 一人用シングルベットの上で目を覚まして、頭の方に置いといた携電話を開いて時間を確認する。

 午前八時三十分。


「あー、無理だ……」


 僕の通っている学校は八時四十分が完全登校時間で僕の家から学校まで徒歩十分はかかる。まぁ、このまま学校に行くのだったら、ギリギリ間に合うかもしれないのだが、着替えて、朝食を取ると考えると到底間に合わない。

ぼさぼさの寝癖を手で整えながら、ベッドから体を起こしてポストを確認しに行く。

 現在、僕は親の仕事事情で高校二年生ながら一軒家で一人暮らしをさせられている。

しているのではなく、させられている。なのだ。そのため洗濯や掃除はもちろんご飯まで自分がしなくてはならない。

なので、朝ポストを確認するのも習慣になってしまって、この作業をやらないと朝がきたって感じがしないのだ。


「えーとっ」


 塾の勧誘、新聞紙、そして大量のチラシ。特に大事なものは来てないな。

それらの荷物を持って部屋に戻り、キッチンから食パンを一枚手に取って自分の部屋に戻る。

ベッドに腰掛け、そして今日なぜ寝坊したのかを考えた。

 考えるまでもないんだけど、そう、この一冊の本が僕を寝坊させたのだ。

 ベッドの下からあらゆる本と一緒に一冊の本を手に取った。



 それは昨日のことだった。

その日発売の探偵小説が僕は欲しくて、僕は本屋さんに買いに行ったのだ。

店内に入り小説コーナーに向かう。この時までは、まだなんの異常もない。しかし、小説コーナーへあと一歩、あと一歩ってところで異常発生、僕の心のサイレンが鳴り響いたのだ。

 僕が目指した探偵小説の一歩手前、そこに警告音の原因があった。

 それは本の形をしていて、いや、それは本でタイトルは『フラグの立て方、ガンガン立てて、ハーレム状態!』という、いかにも怪しいタイトルだった。

本の表紙もバックが青と白の縞々で、萌えキャラ達がたくさん描かれた本だ。

しかも、その中の一人の金髪ツインテールが「べっ、べつに、見て欲しいなんて思ってないんだからねっ!」と頬を染めて自分の制服のスカートを見えるか見えないかのギリギリのラインで言っていた。

 この時点で僕はこの本に魅かれていた。しかも丁度今日は持ち合わせがあったので、懐にも余裕がある。『フラグ本(長いから略す)』を持って後ろの価額表示のところをみる。

千二百円。

多少高いけど買える値段だ。そこの探偵小説と買っても二千円以下。うーん、どうしたものか。と考えたが、よく見ると『フラグ本』は僕の持っている本がラストみたいだ。それに、下校途中で寄っていたから他の生徒たちにでもこんな本を持っている姿を見られたら……と、そんなことを考えて気付いた頃にはこの本を買っていた。

 そして、その晩。家に帰宅し今日買った本、二冊取り出して探偵小説はその日の内に読み終えた。

ちなみにだが、犯人は波沢竜彦(三十歳、住所不定無職)動機は面接に受からない。と、実に個人的な問題だったが、気分もすっきりして、さぁ次を読もうとして、フラグ本を開いた瞬間、頭に謎の効果音が流れて眠くなってしまった。

おっ、なんだ、どうした。と一瞬疑問を持ったが、やばい、一応誰もいないけど、こんな本を開きっぱなしで寝るわけにはいかない。と思いベッドの下で眠ってしまったんだ。



 食パンを食べ終え、学校に行く準備をしようと窓に掛けてある制服に手を伸ばす。途端、ベッドの頭に置いてある携帯が鳴った。

液晶画面には七瀬進一と表示されていた。

なんだ、進一か。

寝坊もするし、その理由が不明だし、電話の相手も相手なので気だるそうにでる。


「……もしもし」


「おうおうおう、おはよー! どうしたんだいこの時間帯に学校に来てないなんて、もう登校時間ギリギリですよー? むしろ下校時間?」


 相変わらずテンションの高いマシンガントークで意味不明なことを言ってきた。

 てか、まだぜんぜん下校時間じゃねーよ、それどころか外では小鳥のさえずりすら聞こえてくるし。


「まあ、なんだ、ちょっと寝坊しちゃってさ。もういいかなーって諦めていたところ」


「そうか、翼はなんて運のいい奴なんだ。この私、七瀬進一ことビッグニュースキャスターがビッグニュースをお知らせしよう」

 

どうせくだらないことだろう。いつもこんなことを言ってくるが、このビッグニュースキャスターの言うことはどうも信憑性がない。けれど、進一が電話越しで小さく「訊いてくれ、訊いてくれ、訊いてくれ」と連呼しているので、仕方なく訊いてやる。


「で、なんなんだよ?」

 

進一は一泊時間を置いて、

「今日転校生がやってきます! うふっ、内のクラスです! うふふっ しかも女の子です! キャッハー! きっと美少女です! いや美少女じゃなきゃ受け付けません!」


「…………」

 

 彼は一仕事終えたかの様にふぅーと一息ついて興奮状態を治める。

 その、進一の途中途中の笑い声や叫び声で上手く聞こえなかったけど、要するに内のクラスに美少女がやってくるわけか? あ、いや、美少女とは限らないか。

 僕はどうせ、こんなことだとはじめから思っていたので今さら驚いたりはしない。

進一は口を開くと女の子のことしか言わないし、昨日のビッグニュースなんて『スクール水着の日焼けラインは男のハートを鷲掴みにします! うっひっひっ』と、もはやニュースでもなんでもなくなっていた。

 僕が呆れ半分で黙っているとビッグキャスターは携帯越しで溜息を吐いて、「まだまだ、だねぇ」と言って話を続けた。


「これだから君は一生平社員と呼ばれているのですよ? この転校がどれだけ君に影響してくることか」


 んー、いつものことだが、今日は寝坊した上にこの言い方。かなり腹立つな。てか、僕は誰に一生平社員って呼ばれているんだよ。


「で、何が言いたいんだよ。それと言っとくが美少女がくる確率なんて地球に巨大隕石が落ちてくる確率より少ないと思うよ」


 失礼だと思うが、実際みんなも経験していることだろう。

 転校生紹介でうきうき、ワクワクしてもいざお披露目になると「う、うーん」ってことが多い。え? 美少女だった? それは地球に巨大隕石が落ちたと思え。


「これだから君は一生ニートって呼ばれるんですよ? もっと頭を使ってくれよ、転入生がやってくる! 俺達のクラスに! しかも今日!」


 進一はそう言うと僕に考える時間を与えるためか黙ってしまった。

 なんか、しかも僕、平社員からニートに落ちなかったか? しかも、僕の美少女論はスルーしたし。

 朝の脳の運動も重ねて、しかたなく七瀬が言っていたことを頭の中で何度も繰り返す。

 転入生がやってくる……それも僕達のクラス……そして今日……今日、僕達のクラスに転入生がやってくる。今日やってくる、転入生が……。


「そうか!」


 七瀬は待ってましたと言わんばかりに「いかにも!」と言い返して口を揃えて言う。


「「先生が遅れてやってくる!」」


 そうだ、なぜ気付かなかったんだ。転入生がやってくるということは転入生手続きとまではいかないが、事前に話し合いみたいなのがあって遅れるはず。もし遅刻しそうな人はそこを狙って登校すればギリギリセーフ。そして僕は遅刻しそうな人。となればこうはしていられない!


「タイムリミットまでは残り三十分だ。翼……幸運を祈る」


 僕のことを気遣ってくれたのか、ビッグニュースキャスターは残り時間まで教えてから携帯を切ってくれた。

 残り時間三十分ということは、ちょうど九時が僕のタイムリミットか。急がなくてはっ!

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