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三匹の小鳥

『 三匹の小鳥 』


 「旦那様・・・本当にあれで良かったのでしょうか・・・」

隣のせろりが、心配そうな瞳を私に向ける。

「う~ん・・・どうだろうね」

ハンドルを切りながら、曖昧な返事で答えた。

「何も出来なかったんじゃないかな・・・私達には」

多分、せろりも分かっているはずだ。

どんなに慰めても、彼女の痛みは癒せない事など。

「そう・・・でしょうか・・・」

せろりはまだ納得していないようだ。やるせない顔を窓の外へ向けている。

二人の間に、重苦しい空気が流れていた。


 私達は今、帰宅途中の車の中。


 あの後、泣いているすずめちゃんをどうしようかとおろおろしていたら、突然会場の扉が開いたのだ。その中から、うじゃうじゃと人の群れが流れ込んできて、私達のいた廊下は多くの人で埋め尽くされてしまった。

おそらく、パーティーが終わったのだろう。

列席者たちがみんな、満面の笑みで会場を後にしていた。

そんな中で泣いている訳にもいかなかったのか、すずめちゃんは、さっと体を起こし涙を拭いていた。

「すみません・・・今日はもう、お引取り願います」

そう言って、頭を下げた。

「え・・・でも」

「お引取り下さい・・・」

反論の余地は無かった。

彼女は、私達にもう一度お辞儀をした後、人の群れの中に消えていった。

「旦那様・・・」

せろりが私の顔を見上げる。

私はそんなせろりの頭を撫でてやった。

「・・・・・・帰ろうか」

そうするしかなかった。

何も解決しない。

話を聞かされるだけ聞いて、それで終わり。

どうすればよかったのか・・・なんてことは、考えない事にした。

・・・どうにも、出来なかったに違いない。

あの子の希望通り父親を殺しても、多分、あの子は幸せにはならない。

無論、私にそのつもりが無いのが一番だが。

 どちらにしたって・・・ひとまずこれで、今回の依頼については一区切りだ。

まだ腑に落ちない部分が山積みだが、報酬を貰えれば、それで終わりだ。

・・・まぁ、今回の報酬は、美味しい料理と楽しい機械ショーだった訳だが。

たまにはそういう仕事もあっていいだろう。

実際、とても美味しかったしね。


 「あ、そうだ、せろり・・・」

運転しながら、隣の少女に声をかける。

「はい、なんでしょう?」

その口調から、先ほどのような心配は窺えなかった。

もう、割り切ったのだろう。随分とまぁ・・・大人な対応だ。

「・・・買い物して帰らないか?」

「買い物・・・ですか?」

「うん」

私は・・・やっぱり子供だ。

「羊の肉を買って帰ろうよ」

何か他の事を考えないと、気が紛れない。

「羊・・・?・・・あぁ、はい・・・分かりました」

少女に私の意図が伝わったようだ。

「明日にでも作ってくれよ、あの料理・・・名前、何ていったっけ・・・」

何だっけ・・・

なんか強そうな名前だったような・・・

「・・・・・・ふふ」

せろりが口に手を当て笑った。

「なんだよ・・・笑うなよ」

恥ずかしくなり、私は顔を逸らした。

それでもせろりは、何が可笑しいのか、クスクス笑っている。

「旦那様・・・あれは、ジンギスカン・・・という料理ですよ」

「あぁ、それそれ」

そうそう、そんな感じの名前だった。

やっぱり、なんか強そうだった。

 そんな・・・他愛ない話をしている私達の車の横を、パトカーが通り過ぎた。

私の車が走っている車線とは逆車線。

私達の帰り道とは、反対方向へ走っていく。

それに・・・私は気付かなかった。

せろりとの会話が楽しすぎて・・・気付けなかった。



 ・・・勃起丸さんはああ言っていたけど・・・

と、私は人ごみの中佇んでいた。

周りはがやがやと、人の声で溢れかえっている。

・・・うるさい。

その中には自分に向けられた声もあったが、当然、無視した。

何もかもが煩わしい。

何も・・・もう、どうでも良くなった。

どんなに頑張ったって、この胸に渦巻く感情は無くならないし、どんなに忘れようとしても、あの子の笑顔を思い浮かべてしまう。

そして・・・

あいつの、憎たらしい顔も。

近くのテーブルに置いてあったフォークを手にする。

それを握り締め、じっと見つめた。

勃起丸さんがやらないなら・・・

あいつは・・・

歩き出す。

私が・・・

遠くにそいつの姿を見つけた。

・・・殺す。

もう、迷いは無かった。



 屋敷に着くとすぐに、私は風呂に入る準備をした。

今日は一段と・・・疲れた。

色々な事があり過ぎて、少々混乱している。

でも、これ以上考えたってしょうがない。

忘れてしまおう。

お湯に流そう。

「せろり、風呂を入れてくれ」

と、台所にいる少女へ声をかける。

せろりは帰ってからすぐに、冷蔵庫の整理をしていた。

たくさん買い込んだ食品類を、一生懸命冷蔵庫に詰め込んでいる。

でも私が呼びかけると直ぐに、

「かしこまりましたー」

いい返事だった。

せろりはパーティードレスのまま、風呂場に向かおうとしている。

でも、さすがにその格好じゃ動き難いだろう。

「いや・・・着替えてからでいいよ」

私は、手に持っていた買い物袋をテーブルに置いた。

 時間も時間だったのか、色々な物をお手ごろ価格で買い求められた。

せろりとの買い物は、とても楽しかった。

買い物自体久しぶりだったけど、せろりとああして過ごす時間も、また久しいものだった。買い物中、せろりは本当に楽しそうに笑っていた。

あれが欲しい、これが食べたい、と次から次に。

・・・多分。

せろりが、最近あまり笑わなくなったのは、彼女が大人になったからではない。

あの子は本来、とても明るい子だ。

笑わなくなっていたのは、多分、私のせいだろう。

あんまり、構ってやらなかったし。

寂しかったのかもね。


 ・・・ザブン

一気に湯船に浸かった。

「・・・ふぅ」

気持ちいい。

すごく、気持ちがいい。

いい・・・

両手でお湯をすくい、顔をばしゃばしゃと洗った。

「せろりが入れてくれる風呂は、いつも適温だなぁ・・・」

ふぅ・・・と息をつき天井を見上げる。

「あぁ・・・疲れた」

私の息子もお疲れのようで、へにゃん・・・となっている。

これじゃあ私の名が廃る・・・が、まぁ良いか。

今だけは、龍精根ふにゃチン丸とでも名乗っておこう。

「ふふ・・・」

自分で、

「・・・ふははっ」

笑ってしまった。

何だその名前は!

・・・カチャン・・・

「・・・・・・ん?」

何だ、今の音。

戸の方を振り返る。

無論、誰も居ない。

「・・・気のせいか」

何かが落ちたのだろう・・・多分、歯ブラシか何かが。

それか、ラッピング現象だ。

・・・それも、十分怖いけどね。

そう思いながら、湯船に浸かり直す。

顔の半分をお湯に沈め、ぶくぶくと泡を出して楽しんでいた。

風呂場には、そのぶくぶくという音が鳴り響いている。

フフフ・・・カワイイ泡たちだ・・・

しかし息が持たず、顔を上げてしまう。

すると、シン・・・とした静寂が訪れた。

「・・・・・・・・・はぁ・・・はぁ」

風呂場を見回す。

シーン・・・

風呂場はもちろん、屋敷の中からも、何の物音もしない。

「・・・・・・・・・」

急に不安になった。

せろりは、今何をしているんだろう・・・?

・・・と、何となく・・・ほんと、何気なくだよ。

窓の方に目を向けたらさ、

「・・・・・・・・・ん?」

何かと、目が合った。

・・・ような気がした。

ちょっとだけ開けてある窓の隙間から、何かがこっちを・・・

「・・・・・・・・・」

いやいや・・・見間違いでしょ。

私は洗面所への扉とは逆の、風呂場の窓の方を見ているのだけれど・・・

いやいや、見間違いですって。

だって、そっち山だよ。

その窓の向こうには山しかないよ。

そこに人は・・・居ない・・・よね?

分からない。

居るかもしれない。

「・・・・・・・・・」

もし居たとしたら・・・そいつは、鵺だ。

間違いなく・・・鵺だ。

子供の頃よく聞かされていた、山に潜む妖怪。

悪い事をしたら、山からさらいに来るという・・・恐怖の魔獣・・・鵺。

まさか・・・ね。

と思っていたら・・・

ひゅう・・・っと何かが窓の端で動いた。

「・・・・・・ヒィッ!」

い、今なんか動いた!

窓の・・・すきっ、隙間を、すぅう・・・て。

鵺だ・・・

絶対に鵺だ!

ふにゃチンが縮み上がる。

私の普段の行いが悪いせいなのだろうか・・・

そんな私をさらいに来たんだ。

私は恐怖で震え上がり、湯船の中で小さくなっていた。

そして、恐る恐る・・・

窓の隙間を閉じようとした。

「・・・・・・・・・あ」

また目が合った。

今度はばっちり、目が合っちゃった。

こんばんわって感じでこちらを覗いている。

はい、こんばんわ。そして、さようなら。

・・・・・・・・・

もう、おしまいだ・・・

鵺は、目が合った子供を美味しそうに食べるらしい。

私はもう子供ではないが・・・それでも、多分食べられちゃうんだろうな・・・

龍精根勃起丸もここで潰える・・・か。

次回からは、龍精根パイプカットマン~炎の去勢手術~をお送りいたします。

それでは、皆さん、さようなら。



 私は覚悟を決め、鵺にその体をサクリファイスしようとしていた。

私を生贄にして・・・パイプカットマンを召喚!

・・・とか意味不明なことを考えていた。

相当に錯乱していたよ。

「・・・・・・勃起丸様・・・」

突然、鵺が人の言葉を喋った。

「・・・・・・ッ!」

しかも私の名前まで知っている。

なるほど・・・初めから私狙いだった訳だ。

わざわざ入浴中を狙うあたり、こいつは本気で私を食いに来たらしい。

服を脱がせ、体を洗う手間を省いたのだ。

何とも・・・狡猾なり。

「・・・勃起丸様・・・まずい事になりました・・・」

鵺は声を潜めてそう言った。

「・・・・・・?」

何が・・・?

今の私の状況がか?

すると、

カラカラ・・・

と、音をたてて窓が開いた。

ついに、その時が来たのだ。

ジ・エンド。

覚悟を決める。

「・・・さぁ、どこからでもかぶり付くが良い!」

私は、湯船一杯に体を大の字に広げ、その時を迎えようとしていた。

目を瞑り、安らかな気分で。

「・・・・・・・・・」

そいつが私を見下ろしている。

「どうした・・・早く食わねば、湯冷めしてしまうぞ!」

「・・・・・・あ、あの」

・・・ん?

何だろう、この声、聞き覚えがあるなぁ。

恐る恐る、片目を開ける。

「あ」

不知火だ。

私の嫌いな、不知火少年。奴がそこに立っている。

窓の外、その隙間からこちらを覗く形で。

鵺の正体は、不知火君だった。

「なに・・・やってるんですか?」

不知火が苦笑しながら、私を見下ろしている。

「・・・・・・・・・」

何か・・・言いようの無い怒りがこみ上げてきた。

鵺だと思っていたのは不知火で、私はそれに・・・まるで子供のように怯えていた。

それを・・・

笑うな!笑うんじゃない!そして、私を見下してくれるな!

私の品位が問われている。真っ裸で大の字になったまま、私は思考を巡らせた。

この後の発言、重要なり。

「・・・ふ、見られてしまったようだね・・・」

堂々としている。

あえて体勢を変えるなど、女々しい事はしない。

堂々と、見せ付けてやれ。

「・・・・・・・・・」

不知火は黙って見ている。

「これは、あれだ・・・」

何だろう・・・あれって。

よく考えもせずに喋っている気がする。

口が勝手に喋っちゃってるよ。

「新手の・・・そう、自慰行為だ」

あぁ、言っちゃった。

「へぇ・・・」

魂の感じられない返事。

不知火の顔が冷めていく。

「だからお前は、そこから立ち去れ・・・人の自慰行為など・・・見たくはあるまい?」

何か、偉そうな口調になっていた。

体勢は変わらない。

湯船に、手足を思う存分広げた開放的なスタイル。

その格好のまま、出来うる限りの虚勢を張る。

不知火は、もう・・・何とも言えない顔をしていた。

「わか・・・りました」

そう言い残し、その場から消えた。

「・・・・・・ふぅ」

・・・ザブン、とお湯に浸かり直す。

これで・・・龍精根の品位は・・・

「・・・地に堕ちた・・・か」

ため息が出る。

・・・はあ。

何をやっているんだろうか・・・私は。


 風呂から上がる。

何とも冴えない顔で。重い体を引きずりながら、洗面所へ出た。

するとそこで、

「・・・あ」

せろりに出くわした。

彼女は、洗面所の前の廊下を横切っている所だった。

「・・・・・・・・・」

せろりと見つめあい、お互いに沈黙する。

せろりは、何とも言えない顔をしていた。

ばつの悪そうな・・・それでいて、どことなく紅潮している様な・・・そんな顔。

おっと、危ない。

ふにゃチン丸が顔を出す所だった。

すかさずタオルを手に取る。

別に見られて困るものじゃないけど、見せるものでもない。

濡れた体を拭きながら、

「せろり・・・今までどこで何やってたんだよ・・・」

物音一つ立てずにさ・・・

心配しちゃったじゃない。

「あ、えっと・・・それは・・・」

もじもじ。

何だよ、可愛いな。

「・・・トイレに」

恥じらいながら、そう呟く。

「トイレ?」

・・・あぁ、なるほど。先ほど洗面所の方でしたの物音は、せろりちゃんだったのか。

しかし、トイレと言ったって・・・

「それにしちゃ、長いトイレだったね」

時間にして、およそ十分。私が男だからかな、えらく長い気がするけど。

それとも、聞いちゃまずい事だったかな。

デリケートな部分?

「いえ・・・旦那様を見ておりました・・・」

何事も無いかのように、さらっと、そう口にした。

「・・・へぇ、そうか」

バスローブを羽織り、髪を拭く。

そうか・・・私を見ていたのか・・・

そう・・・ん?

「とても・・・その・・・刺激的でした」

せろりは顔を赤らめながら、呟いた。

赤くなった顔を両手で覆い、キャーって感じでさ。

「え、ちょ・・・」

がばっと、せろりの肩を掴んだ。

「おい、せろり・・・!おまえ、まさか・・・」

肩を掴んだ手が、ぷるぷると震える。

「はい・・・全部・・・・・・見ちゃいました」

エヘッ・・・と微笑んだ。

見ちゃいました・・・エヘヘ・・・じゃねーよっ!

「新手の・・・その、何でしたっけ・・・」

せろりはニヤついた顔をそのままに、私の傷口に塩を塗り始めた。

「とても・・・凛々しいお姿でしたよ」

「・・・・・・・・・!」

もう、取り返しが付かない。

取り戻しようが無い、私の権威。

誰でもいい、これが夢だと・・・言ってくれ。


 少しだけ落ち着こう。

私は服を着替えながら、せろりに説教をしていた。

場所は私の寝室。

ベッドの上にせろりを正座させ、事の事情を聞きだしていた。

「・・・まず最初に言っておくが・・・せろり・・・お前の最近の行動は、目に余るものばかりだ・・・」

「・・・承知しております」

んな!・・・承知しやがった。

開き直りか・・・肝の据わった変態め・・・

「・・・そうか。・・・では、聞こう。お前はどこから私を覗いていた・・・?」

「・・・初めからです」

「・・・と言うと?」

「お風呂場に入られた所から、ずっと・・・」

と言う事は、私の至高の自慰行為もばっちり・・・か。

違うけどね。

あれは、その・・・何と言うか、苦し紛れの言い訳だ。

あんなアグレッシブな自慰行為なんて、聞いた事も、実践した事も無い。

あ、いや・・・実践は・・・さっきしたのか。

「あぁ・・・あれも見ておりました。あの・・・ぶくぶく~ってしていらっしゃる所も」

そう言うと、セロリは正座をしたまま、その時の様子を再現し始めた。

にっこりと微笑んで、口を膨らませている。

「とても、可愛らしかったですよ」

「・・・・・・・・・」

よもや、あの行為までも晒してしまったと言うのか・・・

「まぁ・・・いい」

もう、見られてしまったものは、しょうがない。

「それより・・・お前は、どこで私を覗いていたんだ?」

「あ・・・それは・・・」

そこで初めて、せろりが戸惑いを見せた。

何か言いにくい事でもあるんだろうか・・・口に手を当て、言い淀んでいる。

 ちなみに、洗面所からは無理だ。

あそこは風呂場から丸見えだし。誰かが居たら直ぐ分かる。

そして、風呂場の窓から・・・つまり外からも、多分無いだろう。

そこには、あの少年が居た訳だし。

そう言えば・・・不知火は何処に行ったんだろう?

何か私に用事があるようだったけど。

まぁ・・・どうでもいいや。あいつ嫌いだし。

「言わなければ・・・ダメ、でしょうか・・・?」

セロリが上目遣いになる。

うるうると・・・その瞳が、可愛いったらありゃしない。

でも・・・ダメだ。甘えた小悪魔フェイスも、今の私には通用しないよ。

覗きは犯罪。だよ、せろりちゃん。

だから、その犯行現場を白状しなさい。

問い詰めるように、彼女の目を見返す。

それにようやく観念したのか、せろりが息をついて、

「わかりました・・・」

白状した。

「・・・トイレから覗いておりました」

「・・・・・・?」

トイ・・・レ?

「え、どうやって?」

だって、あのトイレと、うちの風呂は物理的に隔絶された空間のはずだろ。

確かに、うちのトイレと風呂場は壁一枚を挟んで隣接しているけど、それを越えて覗くなんて・・・

いや、まさか・・・

「・・・穴を・・・開けちゃいました」

やっぱり、悪びれた様子は見えない。

エヘッと笑うだけだ。

「旦那様・・・お風呂場に鏡がありますよね・・・」

そこからせろりは、まるで取調べを受ける容疑者のように何もかもを話し始めた。

「あぁ、あの鏡ね・・・」

確かに、うちの風呂には鏡があるね。

私はあんまり使わないけれど。

「その鏡に、穴が開いているんですけれど・・・その穴が、女子トイレに繋がっているんです」

「・・・・・・・・・」

うちの屋敷にはトイレが二つある。

一つは男子用。そしてもう一つが女子用のトイレ。

そう言えば、女子トイレは風呂側にあるな・・・

それに女子トイレであれば、私が気付かないのも無理は無い。

普通入らないしね。

「そこから、旦那様を観察しておりました」

・・・多分、それが悪い事だなんて、少しも思っちゃいないんだろうな。

本人に自覚が無いのが、一番たちが悪いけどね。

それに、観察という言葉で誤魔化すなよ。明らかに覗きだろ。

「・・・いつから」

半ば、呆れている。

「第二次性徴・・・くらいから・・・ですね」

「・・・変な言葉を使うな」

何が第二次性徴だ・・・エロに目覚めたと言えば分かりやすいだろう。

それに、もう少し恥じらいを持ってよ・・・

頼むから。

「・・・・・・お仕置き・・・ですか?」

また上目遣い。

「・・・いや、もう良いよ」

お仕置きしたって、この子は間違いなく再犯するから。

無駄な事はしたくない。

それよりも・・・

女子トイレに、穴・・・か。

憶えておこう。

「・・・今度、私がお前を覗くから」

それが、お仕置きと言えばお仕置きだった。

「・・・え?・・・私を・・・・・・ですか」

「あぁ・・・お前の裸を・・・だ」

「・・・・・・・・・」

せろりが沈黙する。

何を考えているのか・・・真剣な眼差しを足元に向けている。

「お前が、どれほど成長したのか・・・この眼に刻んでやる!」

そう、強く宣言する。

・・・・・・・・・

パッと見かっこいい台詞だけど・・・何も、かっこよくなんて無いね。

ただ・・・お前の裸を覗いてやるぜっ・・・て宣言しているだけ。

ただの犯罪予告だね。

「わかりました・・・」

・・・わかったらしい。

「・・・自分を磨いて、お待ちしております」

と、正座のまま深くお辞儀をした。

しかし変な言い方だ・・・

その自分磨きの最中を、私に見られる訳なのに。

「あ、あぁ・・・わかったんなら、それでいいよ・・・」

何が良いのか、正直分からない。

この説教で、彼女が何を学んだのかも分からないし、彼女がちゃんと反省したのかも分からない。

分かった事と言えば、隠された覗きスポットが判明したくらいだ。

・・・それが、唯一の収穫か。


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