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空の器を満たすもの

 

 「なぁ、一つ聞いても良いか」

「何でしょう?」

背を向けたまま、彼女は歩みを止めない。

「いや、怖くないのかなって」

「怖い?」

ちら、その時だけ彼女は私に目を向けた。

また前を向く。

「私にそんな感情は在りません。元より私に在るのは目的を実行する為の意思と行動です」

強い言葉ではっきりとそう応えた。

「・・・そうか」

別に何を期待してそんな事を訊いた訳でもないけど、何となく寂しかった。

分かりきった解答だ。

「貴方がどうしてそういう事を訊いたのか、おおよその見当は付きます。しかし私は機械。何をどうした所で揺らぐモノが在りません。それに・・・」

「・・・ん?」

「私は最悪を想定しても、決して想像したりはしません。何故なら私が機械だからです」

そう言って、彼女は歩むスピードを上げた。

一瞬笑っているように見えたのは、多分この建物が薄暗かったからだろう。

見間違いさ。

「気・・・遣ってくれたのかな」

分からない。

だって彼女は機械だから。



 その部屋は案外あっさりと見つかった。

私と鴎はただ闇雲に部屋という部屋を手当たり次第ブチ破ってきたのだ。

その何個目かで、彼女を見つけた。

「すずめちゃん!」

「雀様ッ」

彼女は部屋の中央、何故か不自然な位置に置いてあるソファの上に横たわっていた。

その直ぐ傍らには、

「ん、もう見つかってしまった」

へらへらと笑う、見た事のない青年が立っていた。

「・・・・・・」

すずめちゃんはピクリともしない。

かなり派手な音を立てて壁から部屋に侵入したのに、全く反応すらない。

不安が一気に大きくなる。

「ん?あぁ、心配しないでいいよ。多分死んでは無いと思う」

そいつは何でもないような顔で、そう言った。

「君たちを待ってる間にね、ついついお喋りに熱が入ってしまったようだ。今は疲れて眠ってるよ。うん、多分ね」

・・・・・・あぁ、ダメだ。

他人事のように喋るそいつの顔を見た途端、私の中の何かが切れた。

「ぅ、おぉおおおおッ!」


ここまでの道中、あまり考えないようにしてきた事だ。

せろりが死んだ事。

惨く、殺されてしまった事。

すごく悲しくて、辛くて、殺した奴をとにかく殺したかった。

・・・・・・・・・

けど、それは私じゃない気がした。

復讐に燃えるのは嫌いじゃない。むしろ仇は討つべきだというのが信条だ。

今も、喉の奥に耐えがたい黒くてドロッとしたものがあるんだ。

それが全身に廻って、嫌な感情を抑えきれなくなる。

もう死んでしまいたい。

楽になりたい。

けどすずめちゃんも大事。

辛い。

憎い。

憎い。

・・・・・・・・・

しかし、何故かそんな時、せろりのあの優しい笑顔が浮かんでくる。

都合のいい俺の解釈なんだろう。

死んだせろりは辛かったはずだ。

もう笑顔なんて出来はしないのだ。

だけどそれでも脳裏に浮かぶあいつの顔。

楽しかった思い出とか。

・・・もう嫌になる。

だから人間は辛いんだろう。


けど、

「・・・・・・しねぇえええッ」

やっぱり一発くらいぶん殴っとかないとどうにも収まらないらしい。

笑える。

私はやはりまだ未熟なのだろう。

死んでもせろりが愛おしくてたまらないのだ。

私は全力でそいつ目がけて拳を突き出した。


ベキョッ・・・


・・・してたら、既に鴎が一撃を彼の横っ面に入れていた。

「・・・え」

私のフルバーストは凄まじい勢いで空振った。

「・・・・・・」

彼女は躊躇い無く彼の体を突き飛ばし、間髪入れずによろめく彼の胸倉を掴んで、

「貴様はもう喋るな」

ゴス。

また一発殴った。

凄く鈍い音がしたので、多分何か骨とか折れたんじゃないかな。

凄く痛そうな音だったよ。

・・・ていうかすごい殴り方。

片腕だから、必然、胸倉を掴んだまま殴る事は出来ないから、一度自身に頭を引き寄せて手を離し、浮いた頭を床に叩きつけている。

ゴスッ!!

「いてて・・・ひどいなぁ」

「何のつもりだ。なぜ雀様をさらった」

ゴス。

何度も。

「せっかく久しぶりに君に会えたというのに、君って人は、まったく」

「雀様は無事なのか、答えろ」

バキ。

何度も。

「・・・君はいつもそうだ。すずめの事となると顔色を変えてさ」

「答えろ」

ゴス。

何度も。

「ぁ、そうやって周りの人を巻き込んで…ぶッ」

ドゴッ。

何度でも。

「・・・・・・私はそういうモノだから、だ」

ゴス。

壊れるまで止めない。

・・・・・・・・・

そうやって顔を見合わせるなり激しい会話?をしている二人を私はただボー然と眺めていた。

ていうか、スゲー殴ってる。

喋る度に、まるで返事のように殴ってる。

スゲー音。

部屋の隅の方でもみくちゃになってて良く分んないけど、彼、死ぬんじゃないかな。

「ぅごッ・・・」

白衣を着たその青年は、しかし何故か抵抗をする気配が無い。

こちらも殴られながら平然と会話を続けようとする。

「い、いやね・・・俺はさ、分かんないんだ」

「・・・」

ゴッ。

「君らが何で、すずめをそんなに大事に思うのかがね・・・」

「・・・」

「ぅ俺はさ、旧型だから。今でこそココの研究設備でバージョンアップしたとはいえ、元はタダのおもちゃだ。・・・こいつの父親のちょっとしたイタズラ心で色んなマイナーチェンジをしたけどね、はは、今では立派な研究員だ」

「・・・それがどうした」

ギュウッ・・・

胸倉を掴む力がさらに強くなる。

その手が小刻みに揺れ、今にも彼の首根を折ってしまいそうな勢いだった。

「・・・だからね、分からないんだ。その気持ちが」

「・・・・・・」

「どれだけ賢くなっても、どれだけ人間の姿に近付いても、それだけが、ね」

「・・・」

「だから君に会いたかった」

ボス。

力の無い音が聞こえた。

「俺はね・・・いてて。機械なんだ。だからこの〟いたい〝ってのも実はウソなんだ。本当は痛くない、ぜんぜん。機械だから」

「・・・雀様は」

最早会話にはなっていなかった。

ただ一方的に彼の口から音声が流れ出ているかのようだ。

「機械だから、分からない。こいつや・・・」

彼は首根を掴まれたまま、

「あいつの気持ちが」

私の顔を見ていた。

「でも君ならどう・・・ぅだろう」

彼は鴎の顔をじっと見つめ・・・

「半分人間である君なら分かるのかな?かもめさん」

薄く笑った。

「・・・なにを」

ピク。

鴎の体が小さく硬直した。

「いやね、俺・・・知ってるんだ。君が何なのか。紛い物でもここの研究員だからな。自社の製品の事なら何でも知ってる」

ニヤニヤ。

感情の無い口元が薄気味悪く歪んでいる。

「俺や他のヒューマノイド達は元が機械で、それを生体樹皮と呼ばれるいわゆる人工皮膚を取り付ける事によって、より人間らしく作られた人形だ。・・・しかし、どれだけ人間に近付けようが、中身が鉄クズで出来た演算装置だからな。どう転んでも機械だ。でも君は違う。根本が違う」

立て続けに喋る彼はまるで息をしていない。

言語の羅列がただ流れていく。

「そもそも君は機械じゃ無い。人間だ」

「・・・な」

「・・・ッ」

鴎が明らかに動揺した表情を浮かべる。

私も素で驚く。

有り得ないだろ。

普通の人間に岩が潰せるのかよ。

「君が驚くのは当然。君は人間を機械のように強化しただけ。・・・あくまで人間だ」

「・・・馬鹿な」

彼女は掴んでいた拳をギリギリと締め上げ、青年の体を軽々と持ち上げた。

宙で首を絞められているはずの彼は、それでもまだ喋ろうとする。

「ぅぐ・・・、まぁ詳しい話をすればキリが無いんでね、そこは俺が死んだあとにでも調べてくれ」

と、突然そんな事を言った。

「え」

今度は私が驚いた。

「どうせ俺を殺しに来たんだろう?そっちの人もそのつもりだろ?」

グギギと。

見ているこっちが痛くなりそうな角度で、自由の利かない首を無理に曲げて私の方を見ている。

「・・・・・・」

当然、私にその気持ちが無いと言えば嘘になる。

最愛を失ったのだ。

「でもその前に・・・教えて欲しい」

今にも千切れてしまいそうな顔をゆらゆらと上に向けながら、

「お、お・・・れの目的は、それだけだ」

彼の口から、

「俺は・・・人間の、人を・・・他人を、自分や他の人間に関わること、全ての・・・その感情が何なのか・・・それが、ぃぎ、ただ知りたい」

初めて言葉を聞いた気がした。


・・・ドサ。


鴎が彼の拘束を解いた。

しかし彼の姿は満身創痍。

会話のドッジボールの最中、彼女は常に彼を痛めつけていた。

顔からは血とも汗とも言えない何か良く分らない液体が所々から流れている。

白衣も襟の部分がかなりヨレヨレになっていた。

「ぅ・・・」

「・・・・・・・・・」

それでも彼女は、その無機質な眼差しを彼に向け続けていた。

「君も知ってるんだろう。俺らの寿命」

「・・・鎮静剤の事か」

ようやく鴎が口を開いた。

しかし、寿命・・・?

機械に寿命なんてあるんだろうか。

死なないからこそ、機械じゃないのかな。

「そうそう・・・それ。あぁ、君らはそう呼んでるんだ。鎮静剤ね、確かに」

くすくすと。

歪んだ唇が奇妙に笑った。

「そのね、鎮静剤。それが無いと、俺ら生体ヒューマノイドは正常に機能しないんだ。命令とは全然違った事をしたり、意義の無い行動を取ったり・・・まぁ君らでいう所の、すずめちゃんをちゃんと守れなくなったりね」

「・・・・・・何が言いたい」

「この前も見た筈だ。あの学校でさ、暴れたじゃないか彼女・・・つばめだったかな」

「・・・」

「彼女が暴れた原因・・・は、この際関係無い。もしかしたら、その鎮静剤の効果が切れたのかもしれないし、別の原因かもしれない。・・・けど一つだけハッキリしている事があるだろう?」

何の話をしているのか、この時点で私にはもうサッパリだったよ。

しょうがないから、寝ているすずめちゃんの横でふつうに座ってたよ。

ここでもやっぱり私は部外者っぽいな。

もはや黙っとこう。

「・・・」

そこで鴎は初めて、負の感情をあらわにした。

唇を一文字に結んで、滔々と喋る青年を強く睨みつけている。

「君らと一緒に脱走したあの愛玩用。アレはかなり小さい身体だったよね。・・・この鎮静剤ってのが厄介で、個体の小さな奴ほどその処置の期間が短いんだ。・・・加えて愛玩用ってその材質もかなり特殊でさ、柔らかくてぷにぷにの皮膚は・・・長持ちしないんだよね」

嫌な言い方だった。

記憶にわずかに残っているあの小さな女の子。

わたし好みの小さな・・・

彼女の事を言っているんだろう。

「アレ、直ぐ死んだだろ」

「・・・ッ!」

何の迷いも無く、鴎は彼の体を蹴り飛ばした。

「ごふっ」

彼の体が壁に叩きつけられる。

常人なら死んでそうなレベルの衝撃だった。

「ひゅ、・・・ぃ、いや、だからさ、聞けって。・・・なぁ、もう、どうせ俺死ぬんだし・・・殺すんだし・・・なぁ、良いだろ?・・・すずめだってこうして無事なんだし・・・頼むよ」

とぎれとぎれの曖昧な言葉。

しかし聞き捨てならない。

死んだ?

何の事だ。

「いやいや言い方が悪かった・・・ごめん。壊れたの間違いだったか」

その言葉を聞いた瞬間、彼女の顔から色が消えた。

「・・・死ね」

ブチィッ!

「・・・ッ」

首を、

「・・・ぅ、ぁは!ははははッ」

捻じ切った。

ごろん・・・と首の無い身体が床に倒れる。

倒れた後の身体が小刻みに震えていた。

「・・・・・・・・・」

鴎はその千切り取った首を眼前に掲げ、ただ黙って顔を覗き込んでいる。

「おいおい・・・まじかよ。止めてくれよ」

と、何事も無かったかのように首だけの青年は言う。

首の断面からぽたぽたと何かが滴っている。

痛々しい光景なのに、そいつはさして困った様子でも無い。

「ただでさえ短い命なんだ・・・もう」

「だからなんだ」

その声にもはや何の感情も窺えない。

やはり彼女は機械なのだと実感せずにはいられなかった。

「あとちょっとだけ喋らせてよ。そうそう、なんだっけ?・・・ぇあ?あ、あぁそうそう、あの子の話。小さい女の子と中くらいの子の話。あの子は何であんな事をしたのかな?人間を殺し、友達を殺し、自分も殺したあの話さ」

例の学校襲撃事件の事を言っているのだろうか。

あのつばめって女の子が起こした連続殺人。及びすずめちゃんの学校を崩壊させた事。

確かに人が沢山死んだ。

けど、今になって何でその話を?

「・・・・・・」

彼女は黙っている。

彼から目を逸らさない。

ただ睨みつけるだけ。

聞いているのか、聞こえているのかさえ分からない。

「アレは俺も驚いた・・・はぁ、はは。あの小さな子がそろそろ切れる事は把握していたけど、まさか同時に中くらいの子もぶっ壊れるんだから!」

「・・・」

「軍事用のヒューマノイドはね・・・思考能力のほとんとが兵装の制御にしか回されてないんだ。だから、鎮静剤とかメンテナンスの必要が非常に少ないんだよ。馬鹿だから、はは・・・なのにだッ!」

急に声のテンションが高まった。

「なのにあいつは暴走した!何でだッ!分からない・・・」

と思ったらまた急にテンションが下がる。

「実験段階でああいった誤作動はちょくちょくあるけどね・・・けど、それもかなりの長期間放置した際、正常に機能しなくなる程度だ。あんな風に、人を殺す為に動いたりはしない。もっと滅茶苦茶な、それこそ意味の無い行為を繰り返すだけだ。兵器を運用し人間を襲撃するなど全く報告されていない・・・しかし、アレは何だッ!アレは・・・ぁはは」

心なしか、彼の顔は非常に物憂げだった。

それから。

首だけの機械の最後の言葉を聞いた


「連れのおもちゃが死んで、そいつが暴走した。起こる筈の無い誤作動を起こしてね。それも明確に、他者を傷付けるように彼女は暴走した・・・これはさ、一体なんだろうな」


「・・・・・・」

鴎はもう黙っている。

・・・多分、こいつの話を聞いているんだろう。

俺も・・・何となく、こいつの言葉を聞く事にした。

何か、とても大事な事を聞けそうな気がした。

「こいつの妹にしたってそうだ・・・まぁ妹なんかじゃ無く、俺の代替品なんだけどな」

薄く、多分、笑った。

「あいつは自ら死を願った。死ぬことの無い身体で、ただ朽ちて機能が停止するのを待つのではなく、ただただ死にたいと言ったのだ。機械なのに」

そして。

そいつはついに本音を出した。

「人間みたいにさ!死にたいなんて!わかんねぇよッ・・・分からないんだよ!」

すがるように、

「分からないってこと自体は理解してるのに、分からないってことなのにまだ考えてんだよ、この頭がさぁ」

首だけの彼が、無い腕で彼女の体を強く握っているように見えた。

「っていうか俺もさぁ、何回かあるんだよ・・・その訳わかんねぇ事がさ。こいつがまだ小さかった頃何度かスクラップされかかった時とか、あいつが俺の代わりに来た時とかね・・・あの時はずっと考えてた、これは一体何なのかって・・・けど分からなかった。ただただ漠然としたものを思考して何の意図も無く思考して、与えられた知識を思考して、思考して思考して・・・分からないって事を思考したんだよ」

ははは。

乾いた笑い声だった。

「それぅ、が・・・さ」

突然、それまで人間のようだった声が、録音した音声のようになった。

声が劣化していく。

文字は途切れ途切れ、音は絶妙に強弱していた。

彼もどうやら限界のようだ。

恐らく首だけでは機能を維持できないのだろう。

というかこれだけでも凄まじい技術だが。

さすがすずめちゃんのお父さんだ。

素直に驚嘆する。


「・・・お、前たちっがッ・・・なにを考ぇてぃぃたのか・・・・・・」


固唾を、飲んでしまったよ。


「それだけが・・・」


「知りた・・・」


止まった。

言葉の端で、何の脈絡も無く音が止まった。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

静寂。

無音。

遠くでまだサイレンが鳴っているのが聞こえただけ。

それ以外は何も聞こえない。

「・・・終りです」

ドサ。

鴎がそれまで握っていた拳を解放した。

ごろり。

彼の頭部が床に転がる。

その口はまだ微かに動いていた。

目も見開いたまま、しっかりとした視線を虚空に向けている。

けど、彼がもはや何も見ていないのは私にも解った。


「帰りましょう」

と、鴎が口にしたのはそれから五分くらい経ってからだった。

それまで彼女はその場で微動だにせず、首だけの青年をただじっと見つめていた。

私も空気を読んで、じっと口を結んでいた。

「・・・もう十分です」

彼女は言って、動き出した。

部屋の中央のソファに歩み寄り、優しく、眠っているすずめを抱きかかえる。

「・・・君は、」

と言いかけて、やっぱりやめた。

何も言うまい。

「・・・・・・」

そんな腰ぬけの私を、鴎はちょっと悲しそうな目で見ていた。

「雀様が無事なら私はそれで十分です」

それだけ言って、彼女は歩き出した。

私もそれに続く事にした。

何となく足が重い気がしたけど、多分、気のせいだろう。

ただ黙って歩く。


程なくして研究所の外まで来た。

途中、何度か警備の人達(今度は人間だった)に出くわしたが、鴎さんが丁重にあしらって下さった。

今頃、研究所内は混乱しているんだろうな。

そんな事を考えながら、ボーっと先程までいた研究所を眺めていた。

「勃起丸さん」

突然鴎が私の方を向いた。

「私は、あの人が仰っていた意味が解りません」

「うん・・・そうだろうね」

彼女が何を言いたいのかは何となく想像がつく。

「ですが、これだけは言えます。私は雀様が大事だと・・・そう考える何かが、確かに存在します」

「うん」

「あの人にも、そんな何かがあったんでしょうか?」

「・・・うん、分からないな」

そう言うしかない。

だって彼女達は・・・

「そうですね。分からないです」

真顔で彼女はそう応える。

分からない事だらけの会話。

しかしお互いに何が言いたいのかは、多分分かってるんだと思う。

「まぁ、でも」

「・・・」

「そう言う気持ちって、多分だけど、人間だけのものじゃないと思うよ」

あまりにも薄い言葉が自分の口から出て少し驚いた。

同時に非常に恥ずかしくもなる。

詭弁だ。戯言。

分かりきっている事ではあるが、同時にあまりにも幻想的で現実味の無い話だ。

同情のつもりでは無いものの、そういう言葉しか浮かばなかったんだ。

失言だったか。

「・・・・・・・・・」

そんな私を、彼女は少し驚いたような顔で見ている。

「・・・ふ」

そして、

「そうですね。そうだと良いです」

笑ってくれた。

いや、うん・・・機械の彼女が、笑ったように見えたのかな。

多分ね。

「では、帰りましょう」

今度こそ、彼女は振り向かずに歩き出した。


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