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嫌なひと

 「『あぁ・・・もう来たみたいだよ』」

ひばりの声で、そいつは囀るように笑った。

「『ねぇ、嬉しい?』」

「・・・・・・・・・」

まだ動揺し切っている私の頭にその声が反射する。

私は何も言えないまま、そいつから顔を背けた。

そんな私を嘲るように、彼が私の顔を覗きこんでくる。

「『嬉しいんだ?ふふ・・・かもめちゃんが助けに来てくれて・・・』」

ふふふ。

気味の悪い笑い声が耳の奥へと這入り込んでくる。

「やめてよ・・・もぅ」

やっとのことで私の口から出たその言葉は、ただただ弱弱しいだけだった。

妹と同じ声。

あの日のひばりの笑い声。

それが、どこの誰とも分からない奴の口から垂れ流されている。

そこにあるのは私に対する悪意だけ。

それが本当に気持ち悪かった。

「・・・まぁ君がそんな顔をするのは当然なんだろうけどさ」

「・・・!」

また声が切り替わる。

正確には、彼の元々の声に。

「俺としてもこんな再会、望んじゃいないんだ。・・・本来なら俺も・・・」

スッと彼の表情から色が消えた。

「俺も・・・君の弟になる筈だった」

ひばりと同様に。

彼はそう言った。

「・・・え」

一瞬何を言っているのか分からなかった。

ただ先程までの悪意は既にそこには無かった。

代わりにあるのは薄ら寒い空気のようなもの。

無表情の空っぽがそこにあった。

「君は憶えているかな?中学に上がるまで君のおもちゃだったあの醜い機械をさ」

「・・・・・・・・・」

憶えている。

忘れる筈が無い。

幼少期を共に過ごした彼女こそ、私のたった一人の妹・・・ひばり。

中学に上がる直前の春休み、父によってその姿をより人間に近付けられた、機械の妹。

人では無い。

だからこそ、本当の姉妹になろうとした。

「あの子は、ひばり」

私の中の真実。

しかし。


「ごめん。それ俺だ」


彼の真実がそれを真っ向から否定しようとする。

「幼かった君は、突然現れた少女がまるでそれまで遊んできたおもちゃの生まれ変わりか何かだと思い込んでしまったようだけど・・・真実は違うよ」

冷めた言葉が突き刺さる。

「ぅ・・・そ」

必死で堪えても声が漏れる。

「そもそもあの頃の君の遊び相手はひばりじゃなくて、この俺だったんだ」

「やめ・・・て」

壊さないで。

何もかもを。

「あの日、新型の生体ヒューマノイドが完成した春先に俺はお払い箱。君の元に新しいおもちゃが届いたんだ。それがひばり。どう納得した?」

「・・・ぃ」

混乱する。

気持ち悪い。

息が漏れる。

声が出ない。

どうしよう。どうしよう。どうしよう・・・

「いやぁ怖かったよ。いつスクラップされるかと思うと・・・旧型の機械なりにね、感じる所は在ったなぁ・・・生きるってこういう事なのかって」

・・・まぁ心なんて何処にもなかったけどさ。

彼の呟きが遠く聞こえる。

「・・・で・・・・・・そ、と・・・ か   た・・・だ」

もう意識が保てない。

「・・・・・・・・・」

そうだ。

もう目を閉じよう。

嫌な事はもう。


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