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ヒロイン奪還作戦

 

 「・・・ていうか腕どうしたの?」

ここまで色々あり過ぎてスルーしていたが、よく見ると鴎さんの左腕が無い。

彼女はそんな私の言葉に振り向いて、

「捨ててきました」

と素っ気なく答えた。

「・・・へぇ」

よく分らない。

そんな簡単に捨てれるもんなのか?

「なんて言うか、まぁ・・・すげーな」

どこでとか、何でとかは聞くだけ野暮なんだろう。

傍から見れば片腕を失い満身創痍の鴎の姿。

しかし彼女は腕の事など意に介さず、力強く前に進んでいる。

「問題ありません。参りましょう」

暗がりの中に居ても分かるくらい、凄まじい粉塵が辺りに舞っている最中、彼女は平然と敷地内に侵入していく。


ビィィィイイイイ・・・


彼女が門扉を破ったと同時に鳴り始めたサイレンが耳にうるさかったが、まぁ気にする事では無いな。

どの道私達が来ることは想定されているようだったから。

研究所の中庭を突っ切り、一番手前の施設に辿り着こうかという所で、


「お待ちしておりました。コマンドリーダー」


予想通り。

突然、襲われた。




やたらと造りの物々しい研究所の手前、入口までおよそ十メートルも無いくらいの所で、突然、研究所の窓ガラスが吹っ飛んだ。

「・・・ッ!」

しかしそれは私の前を走る鴎の施設への攻撃では無い。

何故なら窓ガラスはこちらに向けて、つまり室内から外に向けて吹き飛んだのだ。

そして飛び散るガラスと一緒に何かが窓から飛び出してくる。

一つ・・・三つ・・・四つ・・・

何故かこの研究所には照明が少なく全体的に暗い状況なのだが、地面に着地したそれらの姿は辛うじて確認する事が出来た。

無論、彼女の目にはもっとはっきりと、それが何なのか見えているのだろうけど。

「・・・勃起丸さん、下がってください」

彼女が静かに手を引いた。

言われる前に、私は身の危険を感じ物陰に潜んでいた。

チキンの誹りなら甘んじて受けよう。


地面に落ちたその四つの物体が同時に立ち上がった。

四つ同時。

どうやら、それは人の形をしていた。

ただまぁ人の形をしているから人間だとは到底思えないんだけどね。

・・・だってあの割れた窓、結構な高さの階にあるんだよ。

普通骨折とか打撲とか、下手すりゃ死ぬよね。

そんな高さから落ちたにも拘らず、そいつらは気持ち悪いくらいに統率の取れた動きで平然と立ち上がり、前へ、一歩踏み出した。

そしてその中のどれかが、


「お待ちしておりました。コマンドリーダー。所長がお待ちです」


何とも可愛らしい女の子の声で鴎に話しだした。




 しかしその言葉に鴎が応じる事は無かった。


ふらっ・・・


鴎の体がいきなり前のめりに倒れかけた、と思った。

次の瞬間。


ガシュッ!


鴎の手が一番手前の奴の頭を掴んでいた。

「・・・え」

あまりにも一瞬過ぎて、私は瞬きをしたのかと思った。

が実際に瞬きをしていたとしても驚異的な速さだった。

一瞬。

まさに刹那でおよそ十メートルの距離を詰めたのだ。

そのエネルギーを物語るように、彼女が先程まで立っていた場所がボゴッと音を立ててひび割れた。

そして、その破壊的な握力で有無を言わさず、


「邪魔をするな」


ミヂィッ・・・


・・・グシャ。


そいつの頭を握り潰した。

潰された頭から眼球や顔の骨片、良く分らない金属片や液体などが飛び出し彼女の顔に降りかかったが、それを気にする様子も無い。

顔の上半分を無残にも潰されたその機械は、そのまま力なく崩れ落ちた。

「・・・・・・」

何を思っているのか、鴎は無表情で手にまとわり付くそいつの残滓を振り払って他の奴らを一瞥した。

残り三体。

彼女はそのどれを見る訳でもなく、こう言い放った。

「お前達の装備で私を破壊する事は出来ません。戻って所長に伝えてください。貴様は殺すと」

それまで聞いた事が無いような、あまりに無機質で冷たい声。

そして無感情な言葉だった。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

三体が硬直する。

「・・・」

鴎は無言で威圧していた。

嫌な沈黙。


「・・・・・・」


というかこれ、私がまるっきり部外者じゃねーか。

いや、部外者というか・・・傍観者?え、一緒?

こうして物陰から見ていると、何だか別の世界みたいだ。

腰の刀もこうなると最早飾りだな。端午の節句のおもちゃみたいだ。

笑える。

本当にここはどんな世界だよ。

まったく。

とかそんな自暴自棄に陥りかけていた私をよそに、


バッ・・・ババッ


三体が視界から消えた。

残されたのは仁王立ちする鴎とその傍らに崩れた機械。

あとチキンで傍観者の私。

「おい、今のなんだよ・・・」

物陰からそろそろと出てきた私は何となくさっきの奴らの事を聞いてみた。

とは言っても、あまりに一瞬の出来事過ぎてほとんど印象に残っていないが。

「彼女達は鴉、以前貴方が対峙した燕と同系統の戦略兵器です」

「へぇ・・・」

何か名前が格好良いな。

「主に施設内の警護を担当していますが、実戦では哨兵、斥候、暗殺、残党処理など手広く使用されます」

別にそこまで知りたい訳でもないのだが、鴎が丁寧に説明してくれた。

「つまり雑魚です問題ありません。先を急ぎましょう」

あくまで解説はお前が訊いたから説明してやった、と言わんばかりにさっと踵を返し歩き出す鴎。

足元の機械の残骸が気になったが、あまり見ないでおくとしよう。

非常に惨い状態だ。

恐らく元は可愛い少女の顔で設計されていたのだろうが、こうなるともうただの肉塊だ。

元の顔がどんなであれ、潰されれば皆等しく気味の悪い物体になるんだろう。

「・・・うわ」

やべ、つい見ちゃった。

こりゃひでー。

完全に潰されているのならまだしも、所々に原形を留めているあたり、余計に質が悪い。

二、三日は夢でうなされそうな光景だった。

取り敢えず先を急ごう。

見れば鴎は、既に施設の入口を壊しにかかっていた。

勿論、普通に開ける筈も無く普通にむしり取った。


ヒュン・・・


「・・・・・・」

私の顔のすぐ横を鉄製の扉が横切った。

危なっ!

遅れて身体がガクガクと反応する。

冷や汗というより失禁モノだったが、何とか微量で済んだ。

「お気を付け下さい。ここから先は法律が適応されません。貴方の命は書類上で処理されます」

むしり取られた扉の向こうで、顔だけこちらに向けて彼女はそう告げた。

「・・・紙切れ以下か」

「そういう事です」

笑っ・・・たのかそうでないのか、良く分らない表情で彼女は建物のへと進んで行く。

・・・・・・・・・

まぁ、私の人生なんて誰の記憶にも残らない瑣末なモノだし。

別にどう処理されても良いけど、まだ死ぬ訳にはいけないよな。

せろりの事もそう。

すずめちゃんの事も。

いろいろ。

色々あり過ぎてこのままではちゃんと死ねない。

ちゃんとけじめを付けた上で、ちゃんと死のう。

そう。

私はずっと前から決めているのだ。

私が死ぬ時は必ず。

せろりの胸に抱かれて死にたい、と。

・・・・・・・・・

フフフ。

何故だろうな。

こんな時でさえ、笑ってしまう。

不謹慎にも程がある妄想だけど、でもね。

やっぱり期待しちゃうんだ。

最低の結末を。


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