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かわいそうな鳥

『 かわいそうな鳥 』


 「・・・ですから・・・・・・だったとしても・・・・・・すずめさんが・・・」

何かどこからか、声が響いている。

「・・・と、いうわけ・・・・・・」

あぁ、何だか気持ちがいいなぁ・・・

「・・・なんです。・・・ん?・・・・・・ちょっと!勃起丸さん」

「・・・え?あ、はい?」

突然の大きな声に、私のまどろみは一瞬でかき消されてしまった。

「今の話、お分かりいただけましたか?」

「あ?あぁ・・・はい」

全然分かりません。

笑。

先程の綺麗なお姉さん、もとい、先生が私の前で怒った顔をしている。

いや・・・しているんじゃない。

怒ってらっしゃる。

けれども、そこはさすが龍精根。

綺麗な人は怒っていても綺麗なままなんだなぁ・・・とか、そういう事しか頭に浮かんでこない。

不謹慎。

怒った顔も、またキュートだね。

「と、に、か、く!早急に保護者である貴方の身分証明が必要なんです!」

キィーッ!

と、彼女はヒステリーを起こしているようだった。

若い女性はこれだから怖い。

「はぁ、私の身分証明ですか・・・」

寝起きの頭で先生の言葉を繰り返す。

どうにもまだ頭が寝ているようだ。

・・・・・・・・・

冷静に考えると、私は凄いな。

 少し話を戻そう。

今私達が居るのは、かの明峰園という学校の一室。俗に言う応接室だ。

部屋に入る前にチラッと見たが、隣の部屋は校長室だった。

ん、まぁどうでもいい情報だったかな。

とにかくその部屋に入って、私は先生が淹れてくれたお茶を飲んでいたんです。

あぁ、綺麗な人が淹れると、お茶はこんなにも美味しくなるのか・・・とか。

やべぇ、このソファ気持ち良すぎだろ・・・とか。

盛大にくつろいで居ました。

両手を広げて足を組んで、気分はゴッドファーザーでした。

しかし、そのあまりの居心地の良さが、逆にあだとなったのです。

数分後、先生との話もそこそこに、いつの間にか私は寝ていました。

居眠りってやつですね。

爆睡。

とても気持ちがよかったです。

だから、先生が怒るのも無理はない。

話半分夢半分で渡って行けるほど、世間は甘くはありませんよ、と。

・・・・・・・・・

少し疑問だが・・・

なんで私はこんなに上から目線なのだろうか?

居眠りをしていて、非があるのは完全に私の方なのに・・・

怒っている先生を見ても、

まあまあ落ちつけよ・・・そうかっかしなさんな。

とか、心の中で思っている始末。

あまりのくつろぎ気分で、心まで緩んでしまったのだろうか?

だとしたら大変だ。

いつまでもゴッドファーザー気分だと周りに敵を作ってしまう。

見ろ。

先生なんか、もう既に私の事をダメな大人だと思い始めているぞ。

今後、この先生と会う度に、冷たく白い目で、

「貴方が保護者?ハッ笑わせないでくれる?」

とか言われるに違いない。

あぁ、そうなったらもう、お終いだ。

もう二度と、この綺麗な先生とのラブイベントは怒らないだろう。

消滅。

そうなる前に、このゴッドファーザー気分をどうにかせねば。

せめて、ゴッドファーマー辺りにしとこう。

うん。

農家。

ゴッドファーマー。

凄い農民。

・・・・・・・・・

笑。


「えぇ、そこです。そこに名前と住所を記入して下さい」

「はい」

従順に。

「書き終えたら校長の方へ持っていきますので、それで手続きは完了です」

「はい」

さながら機械のように先生の言葉に従う。

「・・・・・・・・・」

「・・・はい?」

学校が用意した紙から目線を上げる。

見れば、先生が私の顔を見つめていた。

目が合うと、先生はすいっと横を向き、そして一つ。

「・・・はぁ」

溜息を吐いた。

「・・・いえ、何でもありません。とにかくそれを記入して頂ければそれで結構です。後は校長の話が少し・・・」

と、そこまで言って先生は口を閉じた。

同時に、

ガチャ・・・

と、応接室のドアが開いた。

「失礼・・・っと話の途中だったかな?」

言いながら、

「ま、いいや」

そいつは何の躊躇いも無く部屋に入ってきた。

突然の来訪者に、一瞬、私とすずめは身構えた。

若い、スーツ姿の男だった。

しかしそいつは、そんな私たちの事など気にする様子も無く、つかつかと、目の前の先生の隣に歩みより、

「桐島先生、後は僕がやるんで先生はホームルームに行って下さい」

そんな風な事を伝えていた。

その言葉に、目の前の先生は素直に頷いた。

「わかりました。それでは後の事はお任せします」

そう言って、先程記入した用紙をその男に手渡した。

「はい、確かに」

受け取った男はニコニコしながら、その桐島と呼んだ教師をこの部屋から出した。

部屋から出て行く際、ちらり、と桐島先生が私の方を見たような気がした。

が、多分それは私の自意識過剰だろう。

ガチャリ。

と、その後すぐにドアが閉まった。

再び、部屋が密閉される。

あっという間に、対応していた先生が入れ替わった。

綺麗な女性から、

・・・・・・・・・

何だか軽薄そうな若い男に。

桐島先生が出て行ったのを見届けた後、そいつは初めて私達の方に目を向けた。

「すみません、お騒がせしてしまって。ここからは彼女に代って、僕がこの学校について説明させて頂きます」

そう言って、そいつは私達の対面のソファに腰を下ろした。

そして一礼。

何とも軽い一礼だった。

しかしそこは大人。

私もその軽い一礼に対し、深々と頭を下げた。

隣のすずめも私に倣う。

お願いしますって感じでさ。

そんな風に私達が礼儀を通したにも拘らず、私が顔を上げる頃には既に、そいつは手に取った資料に目を通していた。

「ふーん、龍精根さんに芹沢すずめさん・・・ね、はいはい、お話は伺っておりますよ、と・・・」

顔も上げずに一人頷いている。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

その様子を私達は黙って見ていた。

・・・ん?

と、そこで急に何かが引っ掛かった。

あれ、何だ?

なんか少し違和感が・・・

不意に、私は自分の腕時計を見た。

時計は午後一時ちょっと過ぎを指していた。

別に時計は変じゃない。

確認する必要も無かったが、私は応接室の壁に掛けてあった時計も見た。

若干の誤差はあるが、やはり午後一時くらいを指していた。

窓の無い建物だからか、室内に居ると時間の感覚が麻痺してしまうが、それでも外が一番お日様が照るお昼時だという事が分かる。

そこに、何の違和感があるのだろうか・・・?

うーん・・・

分からない。

確かにさっき、この男が部屋に入ってきた時、何か変だと思ったんだけどなぁ。

何だったけなぁ。

忘れた。

と、諦めた時だった。

「あの・・・」

すずめが口を開いた。

その声に、ん?と目の前の男が顔を上げた。

「どうかしたの?芹沢さん」

「あ、いえ・・・」

予想以上に早い返答にすずめは少し戸惑ったようだった。

口ごもりながらも、小さな声で続けた。

「先程ホームルームがあると仰っていましたが、この学校はこんな時間にホームルームをするんですか?」

そう男に尋ねた。

その瞬間、私の中の何かがとれた。

あ。

それだ。

ホームルームだ。

なんか変だと思ったが、確かにこんな時間にするもんじゃない。

朝と、下校前にする先生の連絡通達の時間じゃ無かったかな?

私の記憶も曖昧だし、この時間にする学校もあるかもしれないが、やっぱり、違和感があるのは拭えない。

そのすずめの質問に、

「ん?あぁ」

と、男は壁の時計をちらっと見て、

「今日は特別さ。・・・というかしばらくはこの時間かな」

手に持った書類をテーブルに置き、私とすずめの顔を一瞥した。

そして少しだけ声のトーンを落としながら、

「・・・例の通り魔事件のせいで下校時間を早めにしているんです」

そう言った。

「・・・え?」

何だって?

こいつ今、通り魔とか何とか言わなかったか?

その男の一言に、私とすずめは互いに顔を合わせた。

知ってる?

私の疑問視線。

いえ、知りませんでした。

ふるふると首を振るすずめ。

こんな感じのやり取りを無言のまま行う。

そんな私たちの反応を見て、

「・・・あれ?ご存じない?」

と、若い男はテーブルに身を乗り出して、私達の顔を覗き込んだ。

「昨日の事ですよ。この辺りで人が襲われたんです」

新聞にも出てましたよ。と男は付け加えた。

新聞?

何それ?

・・・・・・・・・

自慢じゃないが私には新聞を読む習慣が無い。

何故なら世捨てニートだから。

ひきこもり。

世の中の情報とか必要ないじゃん。

ちなみに、私は新聞を読みはしないが、購買はしている。

無論、何となくで。

勧誘に来たおじさんが鬱陶しかったからさらっと契約してしまった次第です。

結果、五年にわたる長期間どこぞの新聞屋さんから紙屑を購入している訳だが。

もっぱら、それを読んでいるのはせろりだ。

まぁ、彼女にしたって、その紙媒体から世の中の動きや情報を読み取ろうなんてつもりは、毛頭無いに違いない。

暇な時に四コマ漫画をチラ見するか、丸めて剣にしてチャンバラをするくらいにしか用途は無いと思っていた。

子供の頃なんかはよくそれで遊んだよ。

新聞紙ブレードッ!

討ちとったりッ!

とか一人で叫びながらね。

そう一人で。

独りチャンバラさ。

・・・・・・・・・

あぁ、何か吐き気がしてきた。

何だろう。嫌な気分だ。

こいつが新聞がどうとか言うからだ。

くそ。嫌な記憶を思い出させやがって。

・・・・・・・・・

「そのせいで、近隣の学校は大騒ぎさ。勿論、うちもね」

溜め息交じりに彼はそう嘯いた。

しかし、口では、困っているよ、みたいな事を言っておきながらも、彼の態度はその事態をあまり重く受け止めていないようにも見えた。

というか、面倒だとしか思っていないんじゃないだろうか。

人が襲われておきながら。

まったく、これが教育者の態度だろうか。

と、私は柄にもなく、目の前の男を批難めいた視線で見ていた。

「ただでさえ通り魔とか不審者がらみの事件は、たとえ小さくても学校側はきちんとした対応を迫られるっていうのに・・・」

ぶつぶつと。

彼は言いながら、視線を床に落としている。

はぁ、とまた溜息を吐き、右手で頭を掻いていた。

「被害者が近所の学生だっていうからタチが悪い。本当はこの明峰園だけでも休校にしてしまいたい所なんだけど、あっちが休校にしないんじゃここだけお休みにする訳にも行かないんですよ・・・」

あっち、とはこの明峰園という学校を取り囲んでいる学校の事だろうか?

とするとやはり、ここは完全に独立した学校という訳でもなさそうだ。

まぁ、同じ敷地内に二つの学校を併設させているのだから、恐らく二つの学校を取り仕切っている経営者か何かが、学校とは別に居るのだろう。

「・・・しかし、通り魔なんて初めて聞きました」

私はそこで初めて口を開いた。

「私もここに住むようになってから、かなりの時間が経ちますけど・・・そんな話を聞いたのは初めてです・・・」

極めてそれらしい雰囲気で、私は言った。

そう、それらしい口調で。

今までこんなに平和な町だったのに・・・みたいな空気を纏わせながら。

・・・・・・・・・

うん。

だって、あんまり世間知らずなのもみっともないじゃん。

なのである程度のハッタリ。

いや、完全無欠の見切り発車かな。

言うまでも無いが、詳細は知らん。

つーか、この町に住むようになってから今まで、私はこの街に関するイベント的な情報を一切持ち合わせていないんだ。

だから、もしかすると過去にそういった事件があったかもしれないが、そこは私の預かり知らぬ所だ。

「で、被害者の方たちは今、どんな状況なんですか?」

真面目に。

真剣に被害者の身を案じるように、私は訊いた。

その私の問いに、目の前の男は軽く、

「あぁ、死んだらしい」

軽く答えた。

何とも軽い受け答え。


 あいつの具合はどうよ?

 ああ、あいつ死んだ。


そんな感じ。

私も大概そうだが、この男に至っては事実を知っていながらも、だからどうした、みたいな感じでしかない。

「・・・・・・!」

その言葉にいち早く反応したのはすずめだった。

「被害者はどちらも遺体で見つかった」

「・・・どちらも?」

その言い方からすると被害者は複数人いるようだ。

「ああ、うん。被害者は二人だ。一人はご近所さんとこの生徒で、もう一人はその辺の会社員らしい」

・・・・・・・・・

不穏な空気が流れてくる。

今更ながらにその気配を肌に感じるようになってきた。

通り魔。

人死に。

そしてその事実を知らずにのほほんとしていた自分自身の危機感の無さ。

加えて・・・

「・・・・・・・・・」

隣の少女を窺う。

目の前の男の話を聞いてからというもの、実に不安そうな表情を浮かべていた。

先月の出来事から彼女はずっと情緒不安定気味だったが、ここまで深刻な顔を見るのは初めてだった。

恐怖や嫌悪とも違う。

複雑な表情。

そんな彼女の様子に思考を巡らせたとしても、今感じている不快な空気を解消する事はできないだろう。

「ま、そういう訳でここの生徒たちは、今から仲良く皆でお家に帰るのさ」

パン、と彼は軽く手を叩くと、

「それじゃ暗い話はここまでにして、少しだけこの学校を案内しましょうか」

そう言って立ち上がった。



 「 飛燕のさえずり 」



 その時、私は誰かの声を聞いた。

いや、やめて、こないで。

誰の声なのかは識別できない。

だって私の記録にその声は入っていないから。

知らない声。

つまり知らない人の声。

・・・・・・・・・

それから声は聞こえなくなった。

それまで幾度となく叫ばれてきたその『声』は、その瞬間、ピタリと止んだ。

いつの間にか映像が戻っていた。

それまで漆黒の暗闇の中に居るような感覚だったのに、気付いたら目の前が開けていた。

外は夜だった。

今まで感じていた暗闇とそんなに変わらない、陽の射さない夜の街路だった。

そこに。

それは在った。

夜の闇に溶け出すような、どす黒い液体にまみれて、『彼女』は在った。

在るのではなく在った。

つまり。

死んでいた。

・・・・・・・・・

不意に両の手を目の前まで上げてみた。

予想通りの映像がそこに在った。

赤い・・・とはもう言えないただただ黒い液体。

血にまみれたあたしの手。

・・・・・・・・・

自分の手と、目の前に倒れている『それ』とを交互に見比べてみる。

不思議な感覚だった。

状況的に見て、ほぼ間違いなくこれを殺したのはあたしなのだろうが、不思議とその記憶があまりない。

あたし達に限って、記憶が曖昧とは何とも笑える話だが、現実にこの状況を細かく反芻するには大部分の映像と音が欠落している。

だけど、まぁ。

「・・・どーでもいい」

何があったのかは知らないし興味も無い。

あたしが何を起こしてどうなったのかも、もうどうでもいい。

今はただ、この薄暗い気分をどうにかして欲しかった。

ただそれだけ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 その男の案内は実に簡素なものだった。

いや、適当なものだったと言うべきかな。

相当適当。


ここ、トイレね。

あそこ美術室。

ああ、ここ保健室。

あ、ここ君のクラスの教室。

ここから屋上、たまに生徒たちがいらん事をやってる所。

食堂。音楽室。喫煙所。自販機。ロッカー。

・・・・・・・・・

歩きながら、指差すだけの案内。

しかし意外だったのは、たまに通りがかる生徒たちが、この男に対して嫌に恭しく挨拶をしてくる所だ。

目の前の男を観察する。

見た所ニ十代後半くらいの若い教員に見えるが、それくらいの教師と生徒ってもっとこうフランクなやり取りをするものじゃなかろうか。

「ところで・・・」

と私は、ちょいちょい感じていた疑問をぶつけてみる。

「先生がこの子の担任になるんでしょうか?」

「あぁ、僕?」

足を止めて彼は振り返った。

ちなみに私は、こいつが先生なのか事務員なのかすら知らない。

だいたい、こいつはまだ名乗ってすらいないのだ。

「いや、違いますよ。僕は校長。担任はさっき居た女の先生です」

え?

また何かこいつ、変な事言ったぞ。

その言葉に私だけでなく、すずめまでもが目を丸くする。

「こ、校長?」

「はい」

さも当然のように頷く。

「ああ、自己紹介して無かったかな・・・?まあいいや」

そこで少し間を置いて、一つ咳払い。

「僕はこの明峰園の学校長、永峰務と申します。あぁ、覚えなくて良いです。どうせこっから先、僕は出てきませんから」

と、何やら意味深な事を言って、そいつは自己紹介を終えた。



 時刻は午後三時。

すずめの編入手続きも滞り無く終わり、せろりの待つ屋敷に帰る途中だ。

今歩いている所が通学路だからだろうか、ちらほらと学生の姿があった。

何やら難しそうな参考書を食い入るように見ている生徒や、つるんでダラダラとだべっている生徒。

帰り何食う?

ラーメン。

いや、牛丼でしょ。

パン屋がいい。

・・・・・・アハハハハ!

他愛もない会話に華を咲かせている。

本当に無邪気な笑い声。

そんな彼らを、少し寂しそうな目で彼女は見つめていた。

「・・・大丈夫」

「え?」

突然の私の言葉にすずめは少し驚いたような顔を向けた。

「君もすぐに、ああして誰かと笑い合えるようになるさ」

「・・・・・・・・・」

無言で、彼女が私の目を見据える。

その揺れる瞳からは、半端な希望なら私は要らない、とそういう気持ちが伝わってくるようだった。

けれど私は、その彼女の気持ちを真っ向から受け止めた。

「大丈夫」

もう一度そう言った。

それを聞いて、彼女は一つ溜息を吐いた。

「・・・そう、ですね」

彼女はもう一度、その学生の集団に目を向けた。

「・・・また、戻れますか?」

ポツリ。

誰にでもなく、そう呟いた。

自分自身への問いかけ。答えを求めぬその言葉は、それでもしっかりと私の胸に響いた。

「戻れるさ」

直接、私が助ける事は出来ないけれど、背中を押す事くらいならいくらでもやってやる、とそう彼女に伝えたつもりだ。

それにどう応えるかは彼女次第。

すずめの好きなようにしたらいい。

「・・・ふふ」

突然すずめが笑いだす。

「お腹・・・空きましたね」

ふふふ・・・と笑いながら。

つられて私も笑いだす。

「うん、確かに。学校じゃ何も食べなかったからね。何か食べて行こうか?」

彼女の真意を測る事などしない。

愚行だ。

それよりも、何よりも。彼女の笑顔に応えるのが、今の僕の仕事だ。

「はい。あ、私ラーメンが食べたいです」

「え、ラーメン?う~ん・・・私はカレーが食べたいなぁ・・・」

「じゃあ両方あるお店に行きましょう!」

すずめが笑顔で前を歩く。

その後ろをただゆっくりと歩んでいく。

(あぁ、せろりに言っとかなきゃな。昼飯は要らないって)

そんな事をボーっと考えながら、屋敷への道から少し外れた道を歩いて行く。

何となく幸せな気分に包まれていた。


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