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妄想の時間2

 トントン・・・

まどろみの中、部屋のドアを叩く音が聞こえる。

「旦那様、お食事の用意が出来ました」

ドアの向こうのくぐもった声。

その声で目が覚めた。

「・・・ぅん・・・あぁ、すぐ行くよ」

暖かな布団に包まれたまま、気だるくそう応える。

「お待ちしております」

彼女はそう言い残してドアの前から遠ざかっていった。

シンとした朝の静けさの中、彼女の足音が小さくなっていく。

そしてまた静寂。

私は体を起こして時計を確認した。

六時半・・・

カーテンから漏れる朝日が、まだほの暗い時間帯。窓の外は朝なのだろうが、締め切った部屋の中はまだ夜と変わりない。

それなのに、起きろと言うのだろうか?

いやはや・・・仕事熱心なのは良いが、もう少しゆとりが欲しいかな。

毎回の事とはいえ、あまり早起きは得意じゃないんだよね。

つーか嫌い。

死ぬまで眠っていたい。

「・・・・・・・・・」

眠い。

体は起こしたが、頭はまだ寝ている。

そのぼんやりとした頭がふらっと、後ろの方に落ちていく。

ばふっ・・・と音を立てて、ふかふかの枕が私の頭を受け止めてくれた。

至極心地が良い。

自然に、布団を手繰り寄せていた。

頭まですっぽりと覆い被せる頃には、既にまぶたが重くなっていた。

うん。

「二度寝しよう」

決定。

せろりには悪いが、本能には逆らえない。

朝飯も、冷めたので良いや。

作る側から見れば不本意この上ない態度だけど、せろりの飯は冷めても美味いからな。まぁ、それも勝手な言い分だけどね。

「・・・うん・・・うまい、うまい・・・」

寝言のようにそう繰り返していた。

意識が遠のく。

再眠も時間の問題だ。

昼に起きてゆっくり飯を食おう・・・なんて、堕落しきった事を考えていた。

あと三十秒で夢の中。

その筈だった。

「きゃあっ・・・!」

悲鳴。

次いで、

ガシャンッ。

何かの割れる音。

どちらも、今の私には耳に痛い。

寝起きでなくとも心地良い音ではないけどね。

それで今度ばっかりは完全に目が覚めた。

「・・・・・・またか」

はぁ。

溜め息が出る。

しぶしぶ布団から出る事にした。


 布団から出る際、ぶるっと体が震えた。

今朝は特に冷え込みが激しいようだ。

寝巻き一枚じゃ心許ないと言うか寒すぎる。

「・・・寒い」

腕を組んだまま椅子に掛けてあったローブを手に取った。

それを肩に羽織って部屋のドアに手を掛けた。

 さっきの悲鳴が誰のもので、どういう状況なのか大方予想は出来ていた。

だからすぐに駆けつける訳でもなく、無視しない程度に様子を見に行くだけだ。

様子を見に行ったついでに朝飯を済ませたら、また部屋で寝るつもりだった。

 ガチャリ・・・

ドアを開けるとヒヤッとした空気が顔を撫でた。

その冷えた空気が、服の隙間という隙間から入ってきて私の体温を奪っていく。

それが至極不快でした。

その寒い廊下をとぼとぼと歩いていく。

寝起きだからか、寒いからだろうか、居間までの道のりが少し遠く感じる。

まぁそれも、ものの十秒ほどの距離だけどね。

 居間の前に立つ。

すぐにドアを開けようとしたけど、私はその手を止めた。

部屋の中に入る前に少しだけ気を引き締めようかと思ったんだ。

別に深い意味はない。

ただ、この屋敷の主人として少しばっかり威厳を見せたいじゃない。

威厳、と言うか余裕かな。

だって寝起きの顔じゃだらしないし、緊急事態に慌てふためいて駆けつけるのもカッコ悪いじゃん。

ま、そんな事ははっきり言っちゃえば、至極どうでも良いんだけどね。

そんな事を考えながらドアを開ける。

「せろり・・・すずめちゃん、何が・・・」

ドアを開けた瞬間、ハッと息を呑んでしまう。

すぐさま、部屋の中の光景が私の目に飛び込んできた。

果たして、その光景は私の心を深く揺さぶった。

「・・・・・・神よ」

感謝いたします。

思わず、神に感謝してしまった。


 ドアの前で立ち尽くしたまま、私はその光景を目に焼き付けていた。

否!

釘付けだったよ。

だってさ・・

二人が・・・

二人の少女が・・・

居間のソファの上で絡み合っているんだぜ?

絡み合っている!

絡み合ってるんだよっ!

「・・・ぅう」

「・・・・・・いてて」

絡み合った二人の少女が苦悶の表情を浮かべている。

形としては、すずめちゃんがせろりを押し倒している状態だ。

傍から見れば、ソファの上で二人の少女が抱き合っているようにしか見えない。

しかも、彼女らの服は何やら液体のようなもので濡れていた。

髪に、顔に、控えめな胸の上にも。

つぅ・・・とせろりの頬からその液体が滴っている。

それが、なんか・・・エロい。


 ドクンッ・・・


あぁ。

やばい。

何か興奮してきた。


ドクンッ・・・ドクンッ・・・


あ、あれが・・・来る!

ここ最近は何とか理性で抑えていたアレが。


ドクンドクンッ・・・ドクドク・・・ッ!


み、淫らな・・・アレが。

私の心の奥底と言うかもうかなり表層部分まで出てきちゃっているアレが。

性欲という・・・獣が。

妄想という牙をむき出しにして、現実の扉を破って来る!

ダ、ダメだ!

使用人と居候に欲情なんかしてたらキリが無いぞ。

早い時期に見切りをつけるべきだったんだ。

彼女達はそういう対象じゃないって事を。

じゃ、ないって・・・事を。

「・・・ひゃっ」

突然、せろりが声を上げる。

「す、すずめさん・・・足が・・・」

なんだかその声は、変な調子。

と、言うより、なんだろう・・・色を帯びたような?

声?

え?

何?足がどうしたの?

その言葉通り、私はせろりに覆いかぶさっているすずめの足に目をやった。

「・・・・・・・・・」

何か・・・うん、刺激している。

すずめの膝が、せろりのスカートの上に置かれている。

位置的には、そうだな・・・ちょうど股の間かな。

すずめはそのせろりの言葉に気付いたのか、慌てて、

「あ・・・ご、ごめんなさい!」

と、すぐさま立ち上がろうとしていた。

それが、私の獣を解き放つきっかけになるとも知らずに。

「・・・あ・・・んッ」

すずめが立ち上がる瞬間、またせろりが声を上げた。

今度ははっきりと、それと分かる嬌声で。

 相当慌てていたのだろうか。

見れば、すずめの右手がせろりの胸を掴んでいた。

ふにふにと、それは何とも心地よさそうで・・・


プツン・・・


何かの切れる音。

あぁ、やっぱダメだったみたいだね。

もう限界。

ちょっと私は出かけてきます。

夢の国、妄想ハイランドへ。

ちょっと行ってきます。



 「せろりさん・・・わたしは、その・・・」

頬を赤らめながら、彼女は伏し目がちにそう呟いた。

そんな彼女を不思議そうな目で少女は見つめていた。

「・・・どうかなさいましたか?」

不思議そうではあるが怪訝ではない。

純粋な瞳。

大きく、そして潤んだその瞳に射抜かれた彼女は、どうしようもない気持ちに駆られてしまう。

向かい合う二人の少女。

沈黙が、二人の間を流れていく。

その沈黙に耐え切れなくなったのか、

「せろりさんっ・・・わたしは・・・」

どんっと彼女は少女の体をソファへ押し倒した。

そしてそのまま少女の上に覆いかぶさり、極限まで顔と顔を近づけて、

「あなたを見ていると、自分が抑え切れません!」

そう叫んでいた。

そしてそのまま、

「・・・・・・好きです」

キスをした。

「・・・・・・ッ!」

突然の事に目をぱちくりさせてしまう少女。

訳も分からないまま、唇を奪われている。

「ん・・・ふぅ・・・・・・ちゅ・・・ぱ」

目を閉じて最愛の人と口付け合う、すずめ。

「んー・・・!んー・・・!」

目を白黒させながらじたばたしている、せろり。

 お互いの気持ちにズレがあるのは事実だ。

これはすずめの一方的な気持ちの押し付け。せろりの気持ちは何処にも無い。

何処にも無い筈なのだけれども・・・

「ん・・・はぁ・・・ぁ」

すずめが唇を離す。

その甘い吐息がせろりの顔にかかる。

よほど必死でキスしていたのか、彼女の肩が上下に揺れていた。

そんなすずめの体の下でせろりも小さく震えていた。

目を瞑ってすずめと同じように荒い息を吐いている。

無理やり唇を奪われた事が、そんなに怖かったのだろうか?

あるいは怒り?悲しみ?

「・・・・・・」

せろりが目を開ける。

「・・・すずめさん」

とろん・・・とした甘い瞳。

その瞳からは、怒りや悲しみなど微塵も感じられない。

むしろその逆。

どこか焦点の合わないその瞳の中には、すずめの姿が映っていた。

「私は・・・その・・・女、ですよ・・・?」

極限の密着状態の中、せろりは遠慮がちにそう尋ねた。

その言葉に、すずめはふっと笑みを零した。

「そんなの関係ありません。私は、あなたが好きなのです」

言いながら、彼女はせろりの体を抱きしめた。

その細い腕でぎゅっと少女の体を抱きしめ、顔をせろりの耳元に埋めた。

「男とか女じゃなく、あなたという一人の人間を好きになってしまったのです」

せろりの耳元でそう囁いた。

「ぁぅ・・・」

すずめの囁きに、せろりが声を漏らした。

耳元にかかる息が熱い。

熱くて、甘くて、頭の中が痺れてしまう。

「わ、私は・・・」

何かを言おうとしたが、せろりの言葉はすずめの行動に遮られてしまった。

突然、せろりの手がすずめに掴まれる。

「・・・・・・?」

驚いている間もないほど自然な流れで、彼女の手がすずめの胸に押し当てられた。

ふくよかな感触が少女の手のひらに広がっていく。

自分のものとは比べ物にならないほど、豊かな乳房だった。

「聞こえますか?」

「・・・え?」

「私の心臓の音・・・・・・ドキドキしているでしょう?」

「ドキドキ・・・?」

彼女の言葉に、せろりは少しだけ神経を集中させた。

・・・・・・・・・

はっきり言えば、何も聞こえないし、感じない。

すずめの胸が大きいのもそうだが、何しろ自分自身がドキドキしているのだから。

どれが誰の心臓の音か分からない。

「せろりさんも、私とおんなじですか?」

と、すずめがせろりの胸に顔を寄せた。

耳をピタッとつけて、目を閉じながら真剣に少女の鼓動を感じ取っている。

「ひゃ・・・す、すずめさん・・・」

顔を押し当てているからか、無性に胸の辺りがこそばゆい。

「くすぐったい・・・です」

顔を真っ赤にしながらせろりが悶えている。

「ごめんなさい。・・・でも、やっぱり服の上からじゃ分かりませんでした」

「・・・え?」

「あなたの事をもっと見たいんです」

「・・・・・・それは・・・」

それははっきりと肯定出来るものではなかった。

せろり自身、今自分達がやっている事がどういう事なのか、よく分からない状態だったのだから。

女同士で口付け合い、体を抱きしめ合う。

それがどういう事なのか。

背徳感があるのは事実だ。イケない事をしているという自覚もある。

だけど・・・

嫌な気分じゃない。

この気持ちが何なのか、それこそまだはっきりとはしないが、不思議と気持ちが良い。

誰かと触れあい、お互いを感じ合う。

少女にとってそれは何もかもが初めての体験だったが、こんな気分になるなんて予想もしなかった。

こんな・・・

こんなに熱くなるなんて。

 「私も・・・」

自然と、

「私もすずめさんを・・・もっと・・・・・・感じたい」

言葉が出ていた。

「せろりさん・・・」

その言葉に、彼女の瞳がわずかに潤んだ。

「んちゅ・・・」

「・・・ん」

またキス。

でも今度のはどちらとも無く、お互い引き寄せられるように。

「ん・・・・・・くぅ・・・」

声が色を帯びていく。

キスをしながら、自然と互いの体に腕を回す。

さっきよりもより近く。さっきよりもより濃密なキス。

そしてすずめは、回したその腕をせろりの服の下へと滑り込ませていった。

その手のひらが少女の背中を撫で始める。

その感触に、せろりの体がぴくんと跳ねる。

「・・・ぅ・・・ちゅ・・・・・・ぁ・・・すずめさん・・・」

せろりの悩ましげな瞳。

見上げてくるその表情は、迷子の子犬のようだった。

その愛くるしい瞳に、すずめの中の何かが堰を切った。

「・・・大丈夫です」

優しく、語り掛ける。

「優しく・・・しますから」

その言葉に安心したのか、せろりの顔がふっと綻んだ。

「・・・はい」

笑顔で、精一杯虚勢を張っているであろう笑顔で、彼女は応えた。


 するすると、すずめが少女の服を脱がしにかかる。

すずめは既に身に着けていた服をほとんど脱ぎ掃い、下着一枚というあられもない姿になっていた。

そんな姿で少女の服を脱がせていた。

だがせろりの服は使用人用の服であったため、脱がせるのに手間取ってしまう。

しかしそれも時間の問題。

お互いに体を撫であっている内に、せろりもほぼ下着姿になっていた。

すずめの下着姿とは対照的な、ガーターベルト。

細くまだ幼い体にはあまり似つかわしくないそのアイテムが、無性に扇情的だった。

「ふふ・・・かわいい」

すずめはせろりの後ろに回りこみ、肩から覆い被さるように彼女の体を抱きしめた。

そして首筋に顔を当てて、目の前にあった可愛らしい耳たぶを、

「ぁふ・・・」

甘噛みした。

「・・・んぁっ・・・!」

少女が初々しい声を上げる。

白い首筋を仰け反らせながら、ぴくぴくと体を震わせている。

「・・・・・・す、すずめ・・・さん・・・・・・そこ、は・・・」

「気持ち良いですか?」

その言葉と同時に、彼女はせろりの耳を舌で舐めた。

「やぁ・・・ぅ・・・」

少女はその愛撫に体中の力が抜けていくのを感じた。

先ほどとは比べ物にならないほどの熱さと、快感。

それが少女の小さな体一杯に広がっていく。

肌が触れ合っているせいだろうか、その快感が相手の体に触れた瞬間、何倍にも膨れ上がった。

「せろり・・・さん・・・わたしの、ここ・・・・・・触ってください」

突然、耳元でそう囁かれる。

「わたしのここ・・・もう・・・・・・」

そう言って、すずめがせろりの手を取った。

「え・・・」

困惑する暇も無く、せろりの手がすずめのそこにあてがわれる。

すずめの、熱く・・・敏感になった、ソコに・・・

せろりの細い指が・・・



・・・・・・・・・


ーって、うわぁーッ!

アーッ!も、もう、らめーぇええッ!

これ以上は、ヤバイって!

何か、色んな人に怒られるって。マジで。

もう、じゅ十分ですから。

しっかりと満喫しましたから。変態アイランド。

・・・・・・・・・

ん?

そんな名前だったっけ?

ん、まぁ、いいや。

とにかく、もう満足です。

これ以上彼女らを汚す事は出来ませんとも。

これ以上彼女らに淫らな姿は晒させませんとも。

・・・・・・・・・

いやぁ、それにしても。

なかなかにドキドキするシュチュエーションでしたな。

あの後、愛し合っている彼女達を偶然にも目撃してしまった私が、そこに加わって三人で・・・という・・・

・・・・・・・・・

妄想など用意していませんとも。

そんな考え微塵もござらん。

という、真っ赤な嘘を付くくらいなら私は、とことん堕ちようと思います。

・・・・・・・・・

二人の少女と私が、あの後、何をしたかって?

決まっているじゃない。

愛し合う少女達を、私は影からこっそり覗いてたさッ!


だって私、真性の変態でチキンですから。

ヘンチキンタイ。

合体させても、やっぱり気持ち悪い名前だよ。まったく。


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