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ダイヤモンドを探せ

作者: 結 励琉
掲載日:2026/06/24

「ほんとだってば、この松山のどこかに宝物が埋まってるんだってば」

「そんなこと信じられないよ。誰が言ったんだよ」

「学校に来る途中、前を歩いていた大人たちがそう話していたんだ。この街にあるからそこを探しに行くとかなんとか。ダイヤモンドって言ってたような気がするぞ」

 またいつものユウの調子のいい話が始まった。私たち三人、つまりユウとショウと私は小学校からずっとクラスが同じで、いつもこんな調子でおしゃべりをしている。


「ねえ、ユウ、中学生になったのだから、そろそろいい加減な話に飛びつくのはやめたらどう?」

「そうだぞ。ダイヤモンドなんて埋まってたら、とっくに見つけられているはずだぞ」

「サクラもショウも夢がないな。中学生になったからこそ、新しい何かに挑戦したくないか? それにこれは確かな話なんだ」

「どう確かなの?」

「その大人たちは『日本に三つしかない』って言ってたんだよ」


「世界にひとつとかじゃなくて? スケール小さくない?」

 思わずそう突っ込んでしまったわ。

「そこがポイントなんだよ」

「つまりユウは、それがかえってリアルだって言いたいんだな」

「さすがショウ、成績がいいだけあるな。世界にひとつなんて言ってたら、さすがの俺も信じやしないさ。日本に三つ、ありそうな話じゃないか」

「うん。俺もそんな気がしてきた。他に何かヒントはないかい?」

 ショウまで話に乗ってきちゃったわ。


「そうだな……いよてつとか市電とか言ってたぞ」

 いよてつとは伊予鉄道。市電とは伊予鉄道の市内電車のこと。

「そうすると、市電に乗って行くところで宝物がありそうなところ……そしたら松山城じゃないかな! 宝物と言ったらお殿様のところだろ」

「ショウ、きっとそうだ! じゃあ、明日から夏休みだから、さっそくお城探検だ!」

「よし、行こう! サクラも来るよね」

 ユウとショウは大盛り上がりだ。男の子って宝探しが大好きなんだから。

「私はパス。暑いのにお城なんて行ってられないわ」


 なんて言ったのに来てしまう私はお人好しだわ。

「ねえ、なんでロープウェイもリフトも使わないの?」

 松山城へはふつうはロープウェイかリフトで登る。なのに私たちは黒門口から夏の日差しに照りつけられながら登城道を登っている。日焼けしたらどうするのよ。

「俺たちはもう中学生だから、大人料金になっちゃうからね」

 ユウはそんなところはシビアなのね。宝物が手に入れば大金持ちになれるんだからそれくらいの投資は……大金持ち、なれるのかな。それにしても暑い。


「やっと着いたわね」

 ようやく本丸広場に辿りついた。さすがに入場料を払って天守には入るわよね。

「いや、天守には宝物はないんじゃないかな。天守の中は研究し尽くされているはずだ。ここはありそうもないところを探すべきだろう」

「やっぱりショウはさすがだな。そうしたらどこを探したらいい?」

「あんまり人目につかないところ、例えば石垣の根元の部分なんてどうかな」

 半日かけて石垣の根元の部分をじっくり見て回ったけど、宝物が埋まっている気配はなかった。これで諦めてくれるかな。


「もう気が済んだでしょ。宝探しはおしまいね」

「いや、サクラ、やっぱりお城なんていうわかりやすい場所にはないんだよ。別のところを探した方がいいんじゃないかな」

「ユウ、そうとは限らないぞ。お城はお城でも、松山城じゃなくて湯築城じゃないかな。あそこも市電で行けるからな」

「道後公園にあるやつか。やっぱりショウは頭がいいな。よし、明日は湯築城探検だ!」

「あそこは城跡だけだからどこを探すのよ。私は行かないからね」


 そう言ったのにまた来てしまったのはなんでだろう。

「サクラは何やかんや言っても付き合いがいいんだよな」

「あんたたちふたりじゃ何やらかすかわからないから、監視役で来ただけよ。それより、どこをどう探すの?」

 私たちは「道後公園 国指定 湯築城跡」という大きな看板の前に立っている。というか、立ちすくんでいる。

「それは……ショウ、どこだと思う」

「俺に振るのか?」

「だって湯築城って言ったのはショウだぜ」

「うーん。とにかく歩いてみようか」


 私たちはあてもなく湯築城跡を歩き回った。そしてもちろん、宝物なんて見つからなかった。もうクタクタ。

「今度こそもういいでしょ」

「もう一度、もう一度だけチャンスをくれないか」

「じゃあ、今度はどこを探すのよ?」

「それは……ショウ、どこかないかな?」

「また俺に振るのかよ。言い出したのはユウなんだから、ユウも自分で考えてみたらどうだい?」

「つれないこと言うなよ。うーん、何かイメージが湧かないかな。そうだ、明日は街のことがよくわかる場所で考えさせてくれないか」


 ということで、今日は大観覧車「くるりん」に三人で乗っている。どうして今日も付き合ってるかって? ここまで来たら最後まで付き合うわよ。何やかんや言ってもユウもショウも大切な幼馴染だからね。

 いつもは何となく松山の街並みを眺めているけど、今日は違う。いや、私はいつも通りと言えばいつも通りだけど、ユウは必死になって景色を眺めている。

「どう? 宝物が埋まっていそうな場所ってひらめいた?」

 ゴンドラが元の場所に戻ろうというときに、私はちょっと意地悪な質問をした。意地悪というのは、私もユウが本気で宝物を探しているのではないことはわかってきたから。

 ユウもショウも、そして私も、探しているのはいつもの日常、いつもの景色ではない「何か」。


「いや、やっぱり無理かな。ショウ、松山市の人口ってどれくらいだっけ?」

「だいたい50万人くらいだったかな」

「そんな大きな街を眺めても、どこに宝物が埋まっているかなんてわかるはずないよな。ふたりとも、付き合ってくれてありがとうな」

「じゃあ、最後に街を歩いてみない。ちょっと違った視点で街を見るのもいいかもしれないわよ」

「サクラ、いいのか? 宝物の場所なんてわかんないんだよ」

「で、どこを歩くんだい?」

「ここからJRの駅まで市電に沿ってなんてどう?」


 大観覧車はいよてつの郊外電車松山市駅の上に建つデパートの、さらに屋上にある。市電、つまり市内電車の松山市駅はデパートの目の前。JRの松山駅まで市電の電停で四つ。街歩きにはちょうどよい距離だ。

 市電に沿って北へ向かって歩き、おととい歩いた松山城のお堀に突き当たったところで西に方向を変える。今年は梅雨が短く暑い日が続いているけど、お堀沿いに歩くのは風がちょっと気持ちいい。


 私たちの横をみかん色の市電が行き交う。

 お堀の角を右に曲がり、さらに左に曲がる。ここからJRの駅まではまっすぐだ。

「そういえば、この辺って歩いた記憶があんまりないな」

「そうだね。普段は市電に乗っちゃうからね」

「私は歩いたことあるわ。ここのラーメン屋さんに家族で入ったことあるもの」

「あ、新聞社ってここにあるんだ」

「小学校のときに社会見学で来なかったっけ?」

 そんなとりとめもない話をしながら、のんびりと歩く。宝物の話なんていつの間にか忘れていた。


 やがて目の前に踏切が見えた。いよてつの郊外電車の踏切だ。カンカンカンと警報音が鳴って遮断機が下りる。車が停まり、私たちも足を止める。市電も停まる。

 普段あんまり歩くことがない場所だけど、市電に乗れば踏切で止ることはよくあるし、郊外電車に乗れば踏切で止っている市電もよく見掛ける。

 私たちにとってはよく見る景色。


 だけど、そんな景色にカメラを向ける人たちがいる。旅行で来た人かな? 電車の写真を撮るって、あれが撮り鉄っていう人なのかな?

「やっとダイヤモンドクロスに来れたな」

「電車が電車を踏切で待つって珍しいもんな。さすがダイヤモンドクロス!」

 そんな会話が聞える。

 えっ?


「今、あの人たちダイヤモンドって言ってなかった?」

「うん、確かに言った!」

「俺にもそう聞えたよ!」

「ねえ、どういうこと? どこにダイヤモンドがあるの?」

「ショウなら知ってるんじゃないか?」

「知らないよ。知ってたら最初っから言ってるよ」

「ねえ、どういうことか聞いてみようよ」

「ユウが宝物探しを言い出したんだから聞いてみてよ」

「俺が? 仕方ないなあ。あのう、ちょっといいですか?」


 カメラを構えていた人が振り向く。

「はい。何ですか?」

「今、ダイヤモンドって言いませんでしたか?」

「ダイヤモンド? ああ、このダイヤモンドクロスのことね」

「ダイヤモンドクロスって何ですか?」

「鉄道の線路と線路が十字に交差しているところのこと。ダイヤモンド・クロッシングの略だよ」

「そんなのどこにでもありそうですけど、日本に三つしかないって本当ですか?」


「なんだ、知ってるじゃないか。君たち地元の子?」

「はい、そうです」

「ここと、高知と、名古屋の三つ。もうすぐ広島も加わるけど、ここのは日本でひとつだけって言ってもいいんだよ」

「日本でひとつだけ?」

「そうだよ。普通の鉄道と路面電車が交差しているのは、日本でひとつだけ、ここだけだよ」

 そんなにすごいところなんだ!


 その人たちが立ち去ってからも、私たちはびっくりしたままだった。

「ダイヤモンドってここにあったのね」

「それも、日本で三つどころじゃなくて、日本でひとつだけなんてね」

「ここがそんなに珍しいところなんて、知らなかったなあ」

 宝物って、案外自分の足元に埋まっているんだね。

 私ももっとこの街、松山のことを知ろうと思った。

 もしかしたら、それがこの三日間の宝探しで私たちが得たものかもしれない。 

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