はちみつパン
通りを曲がると、甘い匂いがした。
焼いた小麦と、蜂蜜の匂い。
一心の足が止まる。
店の前に木の看板。
小さなパン屋。
一心が扉を押す。
「おう」
奥から声がする。
「誰だい……ああ」
丸い顔の女が笑う。
「一心じゃないか」
ラピスは少し驚く。
一心が私以外の人間と会話している!
女はカウンターに腕をつく。
「久しぶりだね」
一心
「そうか」
女はラピスを見る。
じっと。
それから笑う。
「なんだいその子」
一心
「知らん」
ラピス
「知らんって何」
女は声を上げて笑う。
「娘じゃないのかい?」
一心
「違う」
ラピス
「違う」
二人同時だった。
女はさらに笑う。
「面白いねあんたら」
ラピスは店の中を見る。
棚。
焼きたてのパン。
丸いパン。
細長いパン。
そして。
蜂蜜が塗られたパン。
ラピスの目が止まる。
女がそれに気づく。
「食べるかい?」
ラピスはすぐ言う。
「いらない」
でも目は離れない。
女はパンを紙に包む。
ラピスの手に置く。
「ほら」
ラピス
「だからいらな…」
パンの匂い。
少し黙る。
一口かじる。
甘い。
「……」
一心が横で言う。
「顔」
ラピス
「うるさい」
女はニヤニヤしている。
「いい顔してるよ」
ラピス
「してない」
女は一心に言う。
「で?」
「この子どうしたの」
一心は短く答える。
「うちに居る」
女は頷く。
「そうかい」
それ以上聞かない。
ただ言う。
「ならまた連れてきな」
ラピスは蜂蜜パンをもう一口かじる。
甘い。
少しだけ。
本当に少しだけ。
笑っていた。
パン屋のおばちゃん
「銅貨三枚だよ」
ラピス
「いっしん〜」
一心
「代金は必ず払うんだろ」




