街
昼の街は騒がしかった。
市場。
肉の匂い。
パンの匂い。
人の声。
ラピスは荷車を引いていた。
前には黒鉄一心。
武器を卸し終えた帰りだ。
ラピスは少し不機嫌だった。
「重い」
一心は言う。
「そうか」
それだけ。
ラピスは舌打ちする。
そのとき。
前の路地から怒鳴り声がした。
「邪魔だおら!」
酒臭い男が三人。
こっちに向かって来ている。
一人が一心の肩にぶつかった。
「どこ見て歩いてやがる」
一心は止まる。
男は続ける。
「おい、謝れよ」
一心は言う。
「邪魔だった」
男の顔が歪む。
拳が振り上がる。
ラピスは思った。
あ、殴られる。
次の瞬間。
男が地面に倒れていた。
ラピスは瞬きする。
何が起きたのか分からない。
男が呻く。
腕が変な方向に曲がっている。
残りの二人が怒鳴る。
「てめぇ!」
一人が殴りかかる。
一心は一歩だけ動く。
拳が空を切る。
その瞬間。
男の膝が崩れた。
地面。
もう一人。
ナイフを抜く。
ラピスの体が強張る。
でも。
一心は動かない。
男が踏み込む。
一心が半歩ずれる。
次の瞬間。
ナイフが地面に落ちる。
男も倒れている。
静か。
通りの人がざわつく。
ラピスは動けない。
何が起きたのか分からない。
一心は言う。
「行くぞ」
何事もなかったように歩き出す。
ラピスは慌てて追う。
しばらく歩いてから聞く。
「……今の」
一心は歩いたまま。
「何?」
ラピスは言う。
「剣術?」
一心は答える。
「違う」
ラピスは聞く。
「じゃあ何」
一心は言う。
「喧嘩だ」
ラピスは黙る。
さっきの光景を思い出す。
男が倒れる瞬間。
一心の目。
冷たい。
怒りもない。
恐怖もない。
ただ
終わっていた。
ラピスは初めて思った。
この人。
強いとか。
そういう問題じゃない。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
怖い。
前を歩く背中を見る。
でも同時に思う。
この人の作る剣なら。
折れない。
ラピス
「いっしんて強いの?」
一心
「普通だ」
ラピス
「普通こわい」




