鍛錬
木の棒が床に落ちた。
ラピスの手から離れ、乾いた音を立てる。
黒鉄一心は動かない。
ただ言う。
「拾え」
ラピスは歯を食いしばる。
棒を拾う。
構える。
父に教わった剣士の構え。
力を込める。
一心は一歩だけ動いた。
カン。
棒が弾かれる。
ラピスの手からまた離れる。
「……」
ラピスは黙る。
一心は言う。
「拾え」
ラピスは棒を拾う。
また構える。
「力を抜け」
ラピスは睨む。
「無理」
一心は答えない。
ただ棒を構える。
ラピスは振る。
カン。
また弾かれる。
床。
木の棒。
乾いた音。
「拾え」
ラピスは拾う。
振る。
弾かれる。
拾う。
振る。
弾かれる。
何度も。
何度も。
何度も。
鍛冶場の床には、木の棒が落ちる音が響いた。
炉の火が揺れる。
汗が落ちる。
腕が震える。
それでもラピスは構える。
一心は同じ言葉を言う。
「力を抜け」
ラピスは怒鳴る。
「抜いたら!」
そこで言葉が止まる。
次の瞬間。
カン。
棒が弾かれる。
床。
ラピスは動かない。
呼吸が荒い。
腕が痛い。
一心は言う。
「力で戦うから折れる」
ラピスは棒を拾う。
もう怒鳴らない。
ただ構える。
深く息を吐く。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
力を抜く。
一心が動く。
ラピスも動く。
カン。
棒が触れる。
ラピスの腕が自然に流れる。
一心の棒が逸れる。
一瞬。
ラピスは目を見開く。
「……」
一心は言う。
「今のだ」
ラピスは何も言わない。
棒を握る。
構える。
「もう一回だ」
そしてまた。
棒がぶつかる音が鍛冶場に響いた。
その日。
ラピスは何度も打たれた。
何十回も。
何十回も。
そしてそのたびに。
一心は同じ言葉を言った。
「力を抜け」
その言葉は。
槌の音のように。
ラピスの中で、何度も響いていた。
ラピス
「私、何回打たれたと思う?」
一心
「数えてない」
ラピス
「私は数えてる」




