雑用
朝の鍛冶場は静かだった。
炉の火だけが赤く揺れている。
ラピスは水桶を運んでいた。
重い。
井戸から鍛冶場まで三往復目。
腕が痛い。
それでも運ぶ。
やれと言われたわけじゃない。
ただ、じっとしていられなかった。
水を置く。
一心は炉の前にいた。
槌を振っている。
カン。
カン。
ラピスはその音を聞く。
昨日からずっと同じ音だ。
休まない。
迷わない。
ただ打つ。
ラピスは炭を運ぶ。
薪を割る。
床を掃く。
一心は何も言わない。
止めもしない。
ただ鉄を打っている。
昼頃になって、ようやく槌が止まった。
一心は水を飲む。
ラピスは聞いた。
「……働いたら」
一心はラピスを見る。
「刀の代金になる?」
一心は答えない。
ただ水を飲む。
それから炉を見る。
ラピスはそれ以上聞かなかった。
少しして、ラピスは鍛冶場の棚を見ていた。
武器が並んでいる。
剣。
短剣。
槍の穂先。
斧。
町で見たことがある武器ばかりだ。
だが。
ラピスは眉をひそめた。
「ねえ」
一心は炭を足している。
ラピスは言う。
「刀ってどれ?」
一心の手が止まる。
一瞬だけ。
それから言う。
「そこにはない」
ラピスは棚を見る。
確かにない。
「作ってるんじゃないの?」
一心は炉を見る。
そして言う。
「まだだ」
ラピスは首を傾げる。
「じゃあ、どんな武器?」
一心は鉄を持ち上げる。
まだ形になっていない鉄。
細い。
長い。
剣より軽そうだ。
ラピスは言う。
「それ?」
一心は頷く。
「これが刀だ」
ラピスは鉄を見る。
片側だけが伸びている。
奇妙な形。
「剣じゃないの?」
一心は短く言う。
「違う」
炉の火が揺れる。
ラピスは聞く。
「どう違うの?」
一心は少し考えた。
それから言う。
「剣は」
鉄を炉に入れる。
「力で叩き割る武器だ」
この世界の剣での戦いは、
刃を打ち合い相手の刃を叩き割る。
ぼうっ、と火が強くなる。
一心は続ける。
「刀は違う」
ラピスは黙る。
一心は鉄を取り出す。
赤い。
槌を持つ。
カン。
火花が散る。
一心は言う。
「斬る」
それだけだった。
ラピスは鉄を見ていた。
剣とは違う。
でもまだそれがどんな物か分からない。
ただ。
この武器は。
この鍛冶場と同じ匂いがした。
どこか。
この世界のものじゃないような匂い。
ラピスはまだ知らない。
この刀が。
ラピスの人生そのものを
変えてしまうということを。
ラピス
「刀って何?」
一心
「斬る」
ラピス
「それ二話でも聞いた」




