刀
目を覚ましたとき、最初に聞こえたのは槌の音だった。
カン。
カン。
規則正しい音。
ラピスはゆっくり目を開けた。
見知らぬ天井。
藁の匂い。
体を動かそうとして、腕に痛みが走る。
包帯が巻かれていた。
「……」
昨日のことを思い出す。
火のある場所。
大きな男。
槌の音。
そして自分の言葉。
絶対に折れない刃を。
ラピスは体を起こす。
ふらつく。
だが昨日よりはましだった。
鍛冶場の方から音がする。
カン。
カン。
ラピスはゆっくり歩いた。
戸口から鍛冶場を覗く。
黒鉄一心が鉄を打っていた。
巨大な炉。
赤い火。
その前で男は黙々と槌を振っている。
ラピスはしばらくその音を聞いていた。
カン。
カン。
剣を打つ音だ。
鍛冶屋の音。
どこの町にもある。
だが――
何かが違う。
一心が鉄を持ち上げる。
細い。
剣にしては細すぎる。
そして長い。
ラピスは言った。
「……それ」
一心は槌を止めずに返す。
「何だ」
ラピスは鉄を見る。
「剣?」
一心は短く答える。
「違う」
槌が振り下ろされる。
カン。
「刀だ」
ラピスは眉をひそめた。
「……カタナ?」
聞いたことがない言葉。
一心の説明はない。
ただ鉄を打つ。
カン。
カン。
ラピスは近づく。
鉄を見る。
片側だけが伸びている。
奇妙な形。
「剣じゃないの?」
一心は短く言う。
「剣は重い」
槌が振り下ろされる。
カン。
「力で叩き割る武器だ」
火花が散る。
一心は続ける。
「刀は違う」
ラピスは黙る。
一心は鉄を炉に戻す。
火が強くなる。
「斬る」
それだけ言った。
ラピスは少し考える。
剣は斬るものだ。
だが、一心の言い方は違った。
まるで――
まったく別の武器みたいだった。
ラピスは聞く。
「それで」
一心は槌を持つ。
「私の武器を作ってくれるの?」
一心は答えない。
槌を振る。
カン。
しばらくしてから言う。
「お前」
ラピスを見る。
「剣は使えるか」
ラピスは頷く。
「父に教わった」
一心はまた鉄を打つ。
カン。
「そうか」
ラピスは剣の腕に少しだけ自信があった。
だが次の言葉で思考が止まる。
「剣は忘れろ」
ラピスは目を見開いた。
「……え?」
一心は鉄を持ち上げる。
細い刃。
まだ形になっていない。
だがそれは確かに
剣とは違う武器だった。
一心は言う。
「今日から」
炉の火が揺れる。
「刀を覚えろ」
一心
「これは刀だ」
ラピス
「すぐ折れそう」
一心
「折れないっ!!」




