タイトル未定2026/01/26 22:32
あれからずっと、「ピエロ」について考えていた。
いくら考えても、ポジティブな意味で使っているとは到底思えなかった。そして私も「ピエロ」という響きが、どこか腑に落ちる点があったように思えた。私の欠けていた何かが少しだけ埋まったような気がする。
私をピエロと言ったのは、若宮凪。
絵に書いたようなクールキャラで、少女漫画でありがちなヘッドホン常備のワケアリ男子って感じ。
何を考えてるのかが全くわからないから取っ付きづらく、八方美人の私もあまり得意な相手ではない。
しかし、そんな彼が私の痛い核心を突いてきたのだ。何よりも、悔しく感じた。
でもなぜかほんの少しだけ、嬉しいのだ。
さっきまで彼の書いた3文字に落ち込んでいたのに、どうしてか今、彼が座る席へと足を向けて前進している。少しの恐怖と、好奇心を孕んだ瞳で彼に聞いてみる。
「ピエロ、ってどういう意味?」
重くなりすぎず、それでいて真剣な瞳を演出する。彼の言葉を待つ。
彼は億劫そうにヘッドホンを外して、私と目を合わせた。
「そのまんまの意味だよ。あんた、いつも仮面みたいな笑み貼り付けてて気持ち悪いんだ。」
私の背中を彩る真っ青な空と彼の瞳は、同じ色をしていた。でも澄んではいなくて、何かを疑っているような、雨上がりの水たまりに映る青空に似ていた。
彼がいま言ったことは、今までの私なら確実に傷ついていた。でも、なぜだろう。彼が言うと、どうも嬉しいのだ。仮面を被っていない、本当の私を見てくれているような気がするからだろうか。
「そっか...。」
そう言って、初めて人前で不自然な笑みを浮かべずに返した。私の口角は少し、緩んでいた。
立ち去ろうとした瞬間、ためらうような力で腕を引っ張られた。
「別に、嫌いってわけじゃない。ただ....、」
「おーい、間宮!3組の人が委員会の用事あるって!」
急に現実に引き戻されたような気がした。すぐに口角を上げる。
彼は、少し不機嫌そうな瞳をしていた。
その日の授業は、あまり頭に入ってこなかった。
若宮くんが気になって仕方ないのだ。恋愛とかそういうものでは片付かない、もっと深い領域。
私はその日、今までにないくらい胸の奥が静かだった。
それが何なのか、まだ名前をつけることはできないけれど。




