ピエロ
私はいわゆる、八方美人というやつだろう。
誰彼構わず話しかけるし、重すぎない自然な笑みをいつも口の端に浮かべている。
そうしていることが「間宮彩葉」であるし、そうでなければ私じゃない。
私はまた、計算高い女だとも思う。いつも無意識のうちに計算をしている。
それは、誰かが見ているところだけで好感を持たれることをするわけではない。
むしろ私は、誰も見ていないところで善行をすることも多い。いつでもどこでも善行をしているという事実が、いつか必ず実を結ぶと信じている。つまり、私が根っからの良い人であることの裏付けはいくらでもあった方が良いに決まっていると思っている。
校舎裏の、誰も通らないような秘境にある花壇への水やりは毎朝欠かさず行っているし、道脇に捨てられた子猫にだって名前をつけて傘を差した。まあただ、もちろんここに純粋な善意はないのだが。
一方で私は、弱い人間だ。
こんなに生きづらい生き方をしているのも、いつも笑顔を振りまくのも、身なりをきちんとしているのも、
そのすべてが、制服の中に包み隠した自分の脆い本性を他人に見せないための鋼の鎧だ。
「今日は皆さんに、お互いの第一印象と今の印象を聞き合ってもらおうと思います。」
2時間目が始まっていた。自分について悶々と考えていたら、いつの間にか1時間目が終わっていたらしい。
第一印象と、今の印象。指示も出ていないのに待ちきれず、もう既に話し始めた生徒もいるようだ。
私は正直、こういうイベントが好きではない。もし、自分がなりたかった理想の自分と他人からの評価が異なっていたら?
答え合わせをしているようで、怖い。
「じゃあ、次、間宮さんへの印象です。」
不意に名前を呼ばれ、肩が跳ねる。それでも凛とした、それでいて穏やかな笑みを浮かべて、立つ。
呼吸が苦しい。答え合わせをするのが怖い。間違っていたら。自分のすべてを否定されて、正常でいられるだろうか。
先生の唇が動き出す。呼吸が止まる。先生の口が言葉を紡ぎ出すのを、じっと堪えて待つ。
「穏やかそうだと思った。実際に穏やかだった。」「いつも笑顔で、一緒にいると楽しい。」
先生の手元の紙が残り1枚となった。順調だ。完璧だ。私は私の「彩葉」になりえている。
「ピエロみたい。」
...?思考が停止した。ピエロ、ピエロってあの、仮面を被った?いつも笑っているという意味だろうか。
周りも騒然としている。まだよかった。みんなも彼の意見におかしいと思っているのだ。少し、安心した。
「でも、少しわかるかもなー」
ついに、息のつき方がわからなくなった。授業終了を知らせるチャイムが鳴って全員が立ち上がった。
私だけがまだ、舞台の上に取り残されたようだった。




