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嫌よ嫌よも嫌なんです…不味いんです…  作者: 双鶴


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6話

蕎麦打ち教室に通い始めてから、智幸は毎回粉まみれになりながらも少しずつ上達していた。だが、まだ「これだ」と胸を張れるものはできていなかった。そんなある日、偶然が訪れた。


水回しの加減がたまたまうまくいき、生地がしっとりとまとまった。延ばす作業も、いつもより均一に広がり、切る段階では麺が細く揃った。湯にくぐらせると、香りがふわりと立ち、箸で持ち上げても切れずに伸びる。試食すると、まだ名店の味には遠いが、確かに「商品として出せる程度」に近づいていた。


「やっと、少しは蕎麦らしくなったな……」


講師も「今日はいい出来だね」と笑った。智幸は胸の奥が熱くなるのを感じた。これまでの失敗続きの中で、初めて「満足できる」蕎麦が打てたのだ。


その夜、智幸は決意した。もう隠し続けるのはやめよう。彼女に打ち明けよう。


翌日、美寿紀と会った。彼女は少し不安そうな顔をしていた。最近、会う時間が減っていたからだろう。智幸は深呼吸をして、言葉を選んだ。


「実は……蕎麦打ち教室に通ってるんだ」


美寿紀は目を丸くした。

「え? どうして?」


智幸は一瞬迷った。だが、正直に「不味いから」とは言えない。彼女の両親を否定することになる。だから、言葉を変えた。


「本気で継ぐ決意をしたからだよ。蕎麦屋を継ぐって軽く言ったけど、やっぱりちゃんと学ばないといけないと思ったんだ」


美寿紀の瞳が揺れた。だが、次第に笑顔が広がっていった。

「そうだったんだ……。なんだか安心した。最近、会えなくて不安だったけど、そういう理由なら嬉しい」


智幸は胸を撫で下ろした。彼女の不安が解消されたのを感じた。


「それに、蕎麦だけじゃなくて丼モノや肴も大事だろ? だから、一緒に料理教室に行かないか。そうすれば一緒にいられるし、店のためにもなる」


美寿紀はぱっと顔を輝かせた。

「いいね! 一緒にやれば楽しいし、丼モノももっと美味しくできるかも」


二人の間に温かい空気が流れた。智幸の秘密は「本気の決意」として受け止められ、彼女の不安は希望に変わった。蕎麦打ち教室と料理教室。二人で歩む未来の小さな一歩が、静かに始まった。


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