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嫌よ嫌よも嫌なんです…不味いんです…  作者: 双鶴


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23話

春の風が街を包む頃、智幸と美寿紀の店は移転の準備を始めていた。両親が引退を決意し、本家の店を閉じる代わりに、二人の店と融合させることになったのだ。古い暖簾は畳まれ、新しい暖簾が染められていく。そこには「蕎麦処 美智」と記されていた。伝統と挑戦が並んで刻まれた文字だった。


移転の日、商店街の人々が集まった。常連客たちは「待っていたよ」と笑顔を見せ、近所の子どもたちも暖簾を揺らして覗き込んだ。父母は静かに座り、二人の姿を見守っていた。


智幸は厨房に立ち、蕎麦を打った。粉の香りが広がり、湯気が立ち上る。美寿紀は客を迎え、笑顔で声をかけた。

「今日は新しい暖簾の日です。ぜひ味を見てください」


最初の客は昔からの常連だった。蕎麦をすすり、目を細めて言った。

「昔の味も残っているし、新しい工夫もある。これはいいね」


その言葉に、店内の空気が温かく満ちていった。父は黙って蕎麦をすすり、やがて低い声で言った。

「……悪くない。伝統を守りながら、新しい道を作っている」


母は微笑み、娘に視線を向けた。

「美寿紀……あなたたちなら大丈夫ね」


夜、片付けを終えた後、二人は暖簾を見上げた。風に揺れる布の向こうに、未来が広がっているように見えた。常連客の笑い声が街に響き、商店街の灯りが優しく二人を照らしていた。


美寿紀は静かに呟いた。

「両方を失わずに済んだね。伝統も、あなたも」

智幸は頷き、彼女の手を握った。

「これからも二人で守っていこう。常連客に愛される店に」


その言葉に、美寿紀は涙を浮かべ、笑顔を見せた。暖簾は揺れ続け、二人の未来を祝福するように街に響いていた。


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