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嫌よ嫌よも嫌なんです…不味いんです…  作者: 双鶴


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22話

冬の風が街を吹き抜ける頃、商店街の一角に掲げられた「新蕎麦処・智幸」の暖簾は、夕暮れの光を受けて揺れていた。開店から数か月、二人の店は少しずつ賑わいを増していた。昼時には近所の人々が暖簾をくぐり、若い二人の奮闘を見守るように蕎麦をすすり、温かな声をかけてくれる。まだ小さな店だが、確かな手応えがあった。


一方、本家の店は客足が減りつつあった。帳簿を開いた母は、静かにため息をついた。

「……もう、潮時なのかもしれないわね」


父は眉をひそめ、湯呑を置いた。

「何を言う。伝統を守ることが私たちの務めだ」

「でも、客が減っているのは事実よ。私たちが勝手に『継ぐものだ』と思い込んでいたのも、間違いだった。美寿紀はもう智幸さんと生きる道を選んだ。無理に縛ることはできない」


父は黙り込み、帳簿を閉じた。頑なな表情の奥に、疲れが滲んでいた。


数日後、両親は美寿紀と智幸を座敷に呼び出した。畳の上に並んで座り、父が静かに口を開いた。

「……私たちは引退を考えている。体も昔ほど動かなくなった。店を守り続けることは難しい」


母は続けた。

「だから、あなたたちに任せたい。伝統を捨てるのではなく、あなたたちの工夫と融合させてほしい」


美寿紀は涙を拭い、智幸と顔を見合わせた。智幸は深く頷き、静かに言った。

「ありがとうございます。でも、私は継ぐ気はありません。ここで自分の店を続けたい。ただ、伝統を学び、融合させることはできます」


父は黙り込み、やがて深いため息をついた。

「……それでいい。私たちが勝手に思い込んでいたのが間違いだった。伝統は押し付けるものではない。受け継ぐ人が工夫してこそ、生き続ける」


母は微笑み、娘の肩に手を置いた。

「美寿紀……あなたたちならできる。常連客に愛される店になるはずよ」


その夜、二人は暖簾を見上げた。風に揺れる布の向こうに、未来が広がっているように見えた。


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