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嫌よ嫌よも嫌なんです…不味いんです…  作者: 双鶴


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17話

智幸は決意を固めていた。美寿紀の反対を押し切り、ついに自分の店を出すことにした。小さな商店街の一角、古い空き店舗を借り、暖簾を掲げた。そこには「蕎麦処・智」と書かれていた。


開店の日。智幸は緊張で手が震えながら蕎麦を打った。だが、客足はまばらだった。通りを歩く人々は暖簾をちらりと見ても、足を止めることは少ない。昼を過ぎても、客は数人しか入らなかった。


「……やっぱり、甘かったか」

智幸は湯気の立つ蕎麦を見つめ、唇を噛んだ。


その夜、美寿紀は店を訪れた。暖簾を見上げ、胸が締め付けられるように感じた。

「どうして……私の反対を押し切ってまで」

智幸は疲れた笑みを浮かべた。

「俺の蕎麦を試したかったんだ。ここでしかできないと思った」


美寿紀は黙り込んだ。両親の顔が浮かぶ。父は頑なに伝統を守ると言い、母は後継者の離脱に焦っていた。彼女自身も「裏切りになる」と思っていた。だが、智幸の姿を目の前にすると、心が揺れた。


翌日、美寿紀の両親は店の噂を耳にした。父は冷ややかに言った。

「勝手にやればいい。だが、うちの名前は使わせない」

母は不安げに呟いた。

「でも……もし失敗したら、どうなるのかしら」


その言葉は美寿紀の胸に突き刺さった。智幸の店は客が少なく、苦戦している。だが、彼女は離れたくなかった。


夜、美寿紀は智幸の店に再び足を運んだ。客のいない店内で、智幸が一人黙々と片付けをしていた。

「……私、どうしても離れられない」

その言葉に、智幸は驚いたように顔を上げた。

「美寿紀……」

「うまくいかなくても、私が支える。店を盛り立てたい。あなたと一緒に」


智幸の目に光が宿った。だが、まだ未来は不透明だった。客は少なく、常連もいない。挑戦は始まったばかり。


美寿紀は涙を拭い、暖簾を見上げた。

「この店を、二人で守る。たとえ道が険しくても」


その決意は、静かに夜の街に響いた。

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