表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌よ嫌よも嫌なんです…不味いんです…  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/24

16話

家族会議の夜から数日が経った。美寿紀は一人、店の座敷に座っていた。暖簾は下ろされ、客の声も消えた後の静けさ。畳の上に座り、灯りに照らされた店内を見渡す。ここで幼い頃から過ごしてきた。両親の背中を見て育ち、蕎麦の香りに包まれてきた。


だが今、その香りは弱くなっている。常連客の言葉が耳に残る。「昔はもっと香りが立ってたんだがな……」。父は頑なに伝統を守ると言い、母は後継者の離脱に焦っている。智幸は新しい店を提案した。すべてが心に重くのしかかる。


美寿紀は膝に顔を埋め、涙をこぼした。

「私は店を捨てたくない。でも、智幸も失いたくない……。両方は無理なのに、どうしても両方欲しいと思ってしまう」


その矛盾が胸を締め付ける。伝統と未来、家族と恋人。どちらかを選べば、どちらかを失う。


ふと、幼い頃の記憶が蘇った。父が蕎麦を打ち、母が客に笑顔で接していた姿。あの頃の店は活気に満ちていた。だが今は、伝統に縛られ、変化を拒んでいる。


「伝統って、守るだけでいいのかな……? でも、壊す勇気もない……」


美寿紀は自問した。答えは出ない。だが、答えを出さずに逃げることもできない。涙を拭い、灯りの下で静かに呟いた。

「私は、まだ決められない。でも、逃げない。必ず答えを見つける」


その夜、智幸に会った。街灯の下で、美寿紀は涙を浮かべながら言った。

「私は両方を欲しがってる。無理なのはわかってる。でも、諦められない。だから、答えを探す。あなたと一緒に」


智幸は頷き、彼女の手を握った。二人の影が並び、未来へと伸びていくように見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ