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嫌よ嫌よも嫌なんです…不味いんです…  作者: 双鶴


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14話

夜の蕎麦屋。暖簾を下ろした後、店内には重い空気が漂っていた。美寿紀の両親は、智幸が打った蕎麦を試食したものの、首を横に振った。

「悪くはない。でも、うちの味じゃない」

父の言葉は冷たく、母も「伝統を守ることが一番大事」と静かに付け加えた。


智幸は唇を噛み、しばらく黙っていた。だが、やがて決意を込めて口を開いた。

「……なら、俺たちで新しい店をやるしかない」


その言葉に、美寿紀は目を見開いた。

「新しい店……?」


智幸は真剣な眼差しで続けた。

「ここで認めてもらえないなら、俺たちで自分たちの蕎麦屋を作る。伝統を尊重しながらも、新しい味を追求できる場所を」


父は眉をひそめ、母は驚いたように沈黙した。美寿紀は両親と智幸の間で視線を揺らし、胸の奥がざわめいた。


「でも……これは私の家の店なの。ここを守るのが私の役目だと思ってた。新しい店を作るなんて、裏切りになるんじゃない?」


美寿紀の声は震えていた。両親への思いと、智幸への信頼。その狭間で心が引き裂かれるようだった。


智幸は静かに答えた。

「裏切りじゃない。むしろ、ここで学んだことを未来につなげるんだ。伝統を守るために新しい挑戦をする。それが俺たちの道だと思う」


美寿紀は俯いた。両親の頑なな姿勢を思い出す。常連客が「昔の味がいい」と言う声も耳に残っている。だが、智幸の蕎麦には確かに新しい可能性があった。


「……私、どうすればいいの?」


その問いは自分自身へのものだった。両親を裏切りたくない。けれど、智幸と共に歩みたい。伝統と未来、その狭間で揺れる心。


父は重い声で言った。

「新しい店を作るなら、勝手にやれ。ただし、この店の名前は使わせない」


母は沈黙したまま、ただ美寿紀を見つめていた。


その夜、帰り道。街灯の下で美寿紀は立ち止まり、智幸に言った。

「あなたの言うことはわかる。でも、私にはまだ決められない。両親を裏切るのも怖いし、でもあなたと一緒に未来を作りたい気持ちもある」


智幸は頷いた。

「焦らなくていい。俺は待つ。だけど、いつか決めなきゃならない。俺たちの道を」


美寿紀は深く息を吐いた。狭間に立つ自分を痛感しながら、未来への選択を迫られていることを理解した。


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