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嫌よ嫌よも嫌なんです…不味いんです…  作者: 双鶴


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13話

蕎麦打ち教室の実習の日。受講生たちはそれぞれ打った蕎麦を持ち寄り、互いに試食し合うことになっていた。智幸は緊張で手が震えていた。これまで家族に食べてもらったことはあったが、他人に食べてもらうのは初めてだった。


講師が声をかける。

「今日は皆さんの蕎麦を試食します。味や食感、香りを確かめて、率直に意見を伝えましょう」


智幸は深く息を吸い、打ち立ての蕎麦を湯にくぐらせた。麺は少し太さが揃わず、端が欠けている部分もある。だが、香りは立っていた。皿に盛り、隣の受講生に差し出す。


「いただきます」

受講生は箸を取り、口に運んだ。しばらく噛みしめてから言った。

「香りはいいですね。でも、食感がまだ安定してない。ところどころ硬さが違う」


智幸は頷いた。別の受講生も「悪くはないけど、まだ粗い」と言った。講師は「でも、前よりずっと良くなっていますよ。続ければもっと安定します」と励ました。


智幸は胸の奥で複雑な思いを抱いた。厳しい評価に落ち込む一方で、「前より良くなった」という言葉に救われた。伝統の味にはまだ遠い。だが、基礎を積み重ねれば近づけるかもしれない。


その夜、美寿紀に報告した。

「食べてもらったけど、まだ粗いって言われた。でも、前より良くなったとも」

美寿紀は笑顔で答えた。

「それってすごいことだよ。だって、前に進んでるってことだから」


智幸は少し黙り、やがて口を開いた。

「でも、店の味にはまだ遠い。伝統を守るって、こんなに重いんだな」

美寿紀は真剣な眼差しで言った。

「伝統を守るのは私たちの役目。でも、守るだけじゃなくて、少しずつ新しい風を入れることも大事だと思う。あなたが基礎を積み重ねて、私が料理で支える。二人でなら、きっとできる」


智幸は頷いた。彼女の言葉に、少し未来が見えた気がした。


翌週の教室でも、智幸は水回しに集中した。粉の感触を指先で確かめ、少しずつ均一にまとめる。講師が「今日は悪くない」と言った。智幸は小さく笑った。


「まだ不安はある。でも、続けるしかない」


その決意は、静かに胸の奥で燃えていた。伝統と基礎の両立。その壁を越えるために、智幸は歩みを止めなかった。


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