転生したら魔法が使えない代わりに【料理スキル】がチートすぎた件
## 第1話 異世界転生、しかし魔法が使えない
俺の名前は佐藤健太。享年二十五歳。
前世では普通のサラリーマンだったが、残業帰りにトラックに轢かれて異世界転生した。よくある話だ。
転生先は中世ヨーロッパ風の異世界。魔法があり、モンスターがいて、冒険者ギルドがある。まさにテンプレート通りの世界だった。
転生した俺は貧民街の孤児院で育った。名前はリョウ。この世界では珍しい名前らしい。
「さあリョウ、十五歳になったからもう孤児院は出て行ってもらうよ」
孤児院の院長に言われて、俺は荷物をまとめた。この世界では十五歳が成人。これからは自分で生きていかなければならない。
「魔法の才能があれば魔法学院に行けるんだがねぇ…」
院長が申し訳なさそうに言う。そう、俺には魔法の才能が全くなかった。魔力測定石に触れても、光ることすらない。この世界では致命的な欠陥だ。
魔法が使えない者は肉体労働か商売くらいしか選択肢がない。そして俺には商売の元手もない。
仕方なく冒険者ギルドに向かった。魔法が使えなくても、力仕事くらいはできるだろう。
「魔法が使えない?それじゃあ雑用係くらいしかないな」
受付嬢のエリカが困った顔をする。金髪碧眼の美少女で、この世界の美的水準の高さを感じさせる。
「雑用でも構いません」
「そうね…それじゃあまずはギルドの食堂で皿洗いから始めてもらおうかしら」
食堂。その単語を聞いた瞬間、俺の頭の中で何かが弾けた。
『【料理スキル】を習得しました』
突然頭の中に声が響く。
『スキル詳細を確認しますか?』
「はい」と心の中で答えると、目の前に透明な画面が現れた。
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## 【料理スキル Lv.1】
・基本的な調理技術を習得
・食材の栄養価と効能を直感的に理解
・最適な調理方法を自動判別
・現在使用可能レシピ:10種類
これは…チートスキルというやつか?
前世で料理はそれなりにやっていたが、こんな超人的な能力はなかった。転生特典というやつだろう。
「どうかしたの?急にぼーっとして」
エリカの声で我に返る。
「いえ、何でも。食堂の仕事、喜んでやらせていただきます」
## 第2話 異世界料理で大騒動
ギルドの食堂は正直ひどかった。
メニューは硬いパンと薄いスープ、それに焼いただけの肉。調味料は塩と胡椒程度。野菜は茹でただけで味気ない。
「この世界の料理レベル、低すぎるだろ…」
皿洗いをしながらつぶやく。厨房で働く料理人たちも、ただ食材に火を通しているだけ。これなら俺でも…
いや、今の俺なら絶対に作れる。【料理スキル】が教えてくれる。
「おい新人、客が多くて料理が間に合わない。お前も手伝え」
料理長のガルスに呼ばれた。禿げ上がった頭と立派な髭の、いかにも頑固そうな中年男性だ。
「でも僕、料理は…」
「野菜を茹でるだけだ。簡単だろう」
大きな鍋で野菜を茹でる作業を任された。見ると、キャベツのような野菜をただお湯に放り込んでいる。
これじゃあ栄養も旨味も全部抜けてしまう。
「あの、もう少し火を弱くして、塩を少し入れた方が…」
「黙って言われた通りにやれ!」
ガルスに怒鳴られて黙り込む。しかし【料理スキル】が告げてくる情報が頭から離れない。
この野菜は「グリーンキャベツ」。栄養価が高く、適切に調理すれば疲労回復効果がある。現在の調理方法では効能の80%が失われている。
推奨調理方法:軽く塩茹でしたあと、バターで炒める。ニンニクとベーコンを加えるとさらに効果的。
バターはこの世界にもある。ベーコンもある。ニンニクも…厨房の隅に転がっていた。
昼食時間が終わり、客が帰った後。
「ガルスさん、試しに作ってみたいものがあるんですが…」
「はあ?新人が何を作るって?」
「このグリーンキャベツ、もっと美味しく作れると思うんです」
ガルスと他の料理人たちが呆れた顔をする。
「じゃあやってみろ。どうせ失敗するだろうがな」
俺は材料を集めた。グリーンキャベツ、ベーコン、ニンニク、バター、塩、胡椒。
【料理スキル】の導きに従って調理する。まずニンニクを薄切りにして、フライパンでベーコンと一緒に炒める。香りが立ったところでキャベツを投入。塩胡椒で味を調えて、最後にバターで仕上げる。
完成した瞬間、厨房に信じられないほど良い香りが広がった。
「な、何だこの匂いは…」
ガルスの目が見開かれる。他の料理人たちも鼻をひくひくと動かしている。
「食べてみてください」
恐る恐る口に運んだガルスの表情が一変した。
「うまい…何だこれは…野菜がこんなに美味しいなんて…」
他の料理人たちも次々と口に運ぶ。全員が驚愕の表情を浮かべている。
「リョウ、お前一体何者だ?」
「ただの孤児院出身です。でも、料理は好きで…」
その時、厨房にエリカが入ってきた。
「何この良い匂い?まさか厨房から?」
「あ、エリカさん。試しに作ってみたんです。良かったら…」
エリカが一口食べると、その場で固まった。
「嘘…何これ…野菜がこんなに…」
涙を浮かべている。
「私、生まれてからこんなに美味しいもの食べたことない…」
## 第3話 噂が広まり、大騒動に
翌日から、ギルドの食堂が変わった。
俺が作った「ガーリックベーコンキャベツ」が正式にメニューに加わったのだ。値段は普通の茹で野菜の三倍。それでも注文が殺到した。
「リョウの料理、また食べたい!」
「あんな美味しい野菜、初めて食べた!」
「疲れが取れる気がする!」
冒険者たちが口々に叫ぶ。実際、【料理スキル】で作った料理には軽い回復効果がある。疲労回復や体力増強の効果が期待できるのだ。
しかし、俺はまだ皿洗いの身分。料理を作れるのは手が空いた時だけだった。
「ガルスさん、僕をもっと料理に専念させてもらえませんか?」
「うーん…確かにお前の料理は人気だが、まだ新人だからなぁ」
その時、ギルドマスターのバルドが厨房にやってきた。五十代の屈強な元冒険者で、傷だらけの顔が迫力満点だ。
「リョウとかいう新人はどこだ?」
「は、はい!」
「お前があの野菜料理を作ったのか?」
「はい」
バルドがじっと俺を見つめる。
「他に何が作れる?」
【料理スキル】のレシピ一覧が頭に浮かぶ。現在使用可能なのは10種類。どれも基本的な料理だが、この世界では革命的なはずだ。
「えーと…肉料理とか、スープとか…」
「作ってみろ」
俺は厨房にある材料を確認した。牛肉、玉ねぎ、人参、じゃがいも…
「ビーフシチューはどうでしょうか?」
「ビーフシチュー?」
この世界にはシチューという概念がないらしい。肉は焼くか茹でるかしかない。
俺は【料理スキル】の指示に従って調理を始めた。まず牛肉を一口大に切って、小麦粉をまぶして焼き色をつける。玉ねぎを炒めて甘みを引き出し、トマトペーストを加える。
この世界にはワインもある。赤ワインを加えてアルコールを飛ばし、スープストックを注ぐ。野菜を加えて、じっくりと煮込む。
調理時間二時間。その間、厨房には信じられないほど良い香りが漂い続けた。ギルドの冒険者たちが厨房の前に集まってくる。
「何だこの匂いは…」
「腹が減って仕方ない…」
「早く食べたい…」
完成したビーフシチューを皿に盛る。肉は箸で切れるほど柔らかく、野菜は形を保ちながらも十分に味が染みている。
バルドが一口食べると、その巨体が震えた。
「…うまい」
短い言葉だが、その重みは計り知れない。元Sランク冒険者のバルドが認めた味。
「リョウ、今日からお前は専属料理人だ。給料は一般料理人の三倍。それでいいな、ガルス?」
「異議ありません!」
ガルスが即答する。実際、俺の料理目当てで来る客が激増し、ギルドの売上は三倍になっていた。
「ありがとうございます!」
俺は深々と頭を下げた。
## 第4話 料理スキルの真の力
専属料理人になってから一週間。
俺の料理は王都中の話題になっていた。「ギルドに天才料理人現る」「魔法よりも魔法的な料理」「食べると本当に元気になる料理」などと評判は上々だ。
【料理スキル】もLv.3に上がり、使用可能レシピは30種類に増えた。そして新しい能力も開放された。
『【栄養強化】を習得しました』
『【効能付与】を習得しました』
栄養強化は食材の栄養価を最大限に引き出す能力。効能付与は料理に特殊な効果を与える能力だ。
例えば「疲労回復のポトフ」「筋力増強のステーキ」「魔力回復のハーブティー」などが作れるようになった。
もはや料理というより、魔法に近い。
「リョウ、大変よ!」
エリカが慌てて厨房に飛び込んできた。
「王宮の料理長がここに来るって!」
「王宮の?」
「ええ!あなたの料理の噂が王様の耳に入ったの。王宮料理長のジャン・ピエールが味見に来るって」
ジャン・ピエール。この国の料理界の頂点に立つ男。宮廷料理の第一人者で、王族の食事を一手に担っている。
「い、いつ来るんですか?」
「今よ!」
厨房の扉が開き、高級そうな服を着た痩身の男性が入ってきた。五十代くらいで、鋭い目つきが印象的だ。
「私がジャン・ピエールだ。君がリョウとかいう料理人か?」
「は、はい!」
「噂の料理を食べさせてもらおう。私を満足させられたら、王宮で働かせてやってもいい」
王宮…つまり宮廷料理人への誘いだ。この世界では最高の栄誉。
「何を作りましょうか?」
「何でもいい。君の最高の料理を見せてくれ」
俺は考えた。【料理スキル】Lv.3の力を全て注ぎ込んだ最高の一品を。
「フレンチ風ビーフシチューはいかがでしょうか?」
「フレンチ?何だそれは?」
この世界にはフランス料理という概念がない。だが俺には前世の知識がある。そして【料理スキル】がそれを完璧に再現してくれる。
最高級の牛肉を選び、丁寧に下処理する。ブーケガルニを作り、赤ワインはいいものを選ぶ。野菜は一つ一つ丁寧にカットし、ブラウンソースから手作りする。
調理時間四時間。その間、ジャン・ピエールは厨房の隅で俺の動きを一部始終見つめていた。
「ほう…面白い手法だ」
「この香草の使い方は初めて見る」
「ソースの作り方も独特だな」
完成したビーフシチューを皿に盛る。肉は極上の柔らかさ、ソースは深いコクと上品な味わい。【効能付与】で体力回復効果も付けた。
ジャン・ピエールが一口食べる。
その瞬間、彼の表情が激変した。
「な…何だこれは…」
震える手でもう一口、また一口と運ぶ。
「信じられない…こんな料理があるなんて…」
皿を空にしたジャン・ピエールが俺を見つめる。その目には敬意が込められていた。
「リョウ、君は天才だ。いや、天才を超えている。この料理は芸術だ」
「ありがとうございます」
「頼む。王宮に来てくれ。君の料理を陛下に食べていただきたい」
王宮への誘い。しかし俺は首を振った。
「申し訳ありませんが、お断りします」
「な、何故だ?」
「僕はここで、みんなに美味しい料理を作っていたいんです。冒険者の皆さんも、ギルドの仲間も、僕にとっては大切な人たちです」
ジャン・ピエールが呆然とする。
「王宮を断るだと…?」
「はい。でも、たまに王宮に料理を届けることはできます。特別な日に」
「…分かった。君のような料理人を無理に引き抜くのは間違いだ。しかし、必要な時は頼らせてもらう」
## 第5話 新たなスタート
ジャン・ピエールが帰った後、ギルドは大騒ぎになった。
「リョウが王宮からスカウトされた!」
「でも断ったって!」
「さすがリョウ!俺たちを見捨てない!」
冒険者たちが俺を取り囲んで喜んでいる。
「でも本当に良かったの?王宮料理人になれたのに」
エリカが心配そうに聞く。
「はい。僕はここが好きですから」
実際、この生活が気に入っていた。毎日美味しい料理を作り、みんなに喜んでもらう。魔法が使えなくても、【料理スキル】があれば十分に生きていける。
その夜、一人で厨房にいると、バルドがやってきた。
「リョウ、少し話があるんだが」
「はい」
「お前、本当は何者なんだ?」
鋭い質問だった。さすがは元Sランク冒険者。
「何者って…」
「普通の孤児院出身にしては、知識が豊富すぎる。料理の技術も常識外れだ。それに…」
バルドが俺を見つめる。
「お前の料理を食べると、本当に体力が回復する。魔法薬並みの効果だ。これは普通の料理じゃない」
【料理スキル】の効果がバレている。
「実は…僕には【料理スキル】という特殊スキルがあるんです」
「スキル?」
「はい。料理に関する全てを理解し、特殊な効果を付与できるスキルです」
バルドが驚く。
「そんなスキル、聞いたことがない。お前、もしかして…」
「転生者、ですね」
白状した。隠していても仕方ない。
「やはりな。普通じゃないと思っていた」
「問題ありますか?」
「いや、全くない。転生者だろうが何だろうが、お前は俺たちの仲間だ。ただ一つ聞きたいことがある」
「何でしょうか?」
「お前の目標は何だ?この世界で何をしたい?」
俺は考えた。前世では平凡なサラリーマンだった。特別な夢も野望もなかった。でも今は違う。
「美味しい料理を作って、みんなに幸せになってもらいたいです。それだけです」
「それだけ?」
「はい。でも、それが一番大切なことだと思います」
バルドが笑った。
「そうか。それなら安心だ。お前みたいな奴が仲間にいてくれて良かった」
翌朝、俺は新しいメニューを考えていた。【料理スキル】Lv.4に上がり、新しいレシピが50種類も増えた。
パスタ、ピザ、カレー、ラーメン…前世の知識と【料理スキル】が合わさって、無限の可能性が広がっている。
「今日は何を作ろうかな」
厨房の窓から見える青空が美しい。この世界に来て良かった。魔法は使えないけれど、【料理スキル】で十分に幸せだ。
「リョウ!今日のおすすめは何?」
常連の冒険者パーティーが入ってきた。リーダーのアランは剣士、回復魔法使いのルナ、盗賊のロック。みんな俺の料理を楽しみにしてくれている。
「今日は新メニューがあります。『カルボナーラ』っていうパスタ料理なんですが…」
「パスタ?」
「麺料理です。きっと気に入ってもらえると思います」
「リョウの料理なら間違いない!」
俺は厨房に向かった。今日も美味しい料理を作ろう。【料理スキル】の力で、この世界をもっと美味しくしていこう。
魔法が使えない代わりに手に入れたチートスキル。それは俺にとって最高の贈り物だった。
「さあ、今日も頑張るぞ!」
厨房に響く俺の声と共に、新しい一日が始まる。転生した異世界で、俺の料理人人生はまだまだ続いていく。
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【おわり】
この作品は「転生したら魔法が使えない代わりに【料理スキル】がチートすぎた件」の第1話〜第5話です。続きが気になった方は、ぜひ感想やコメントをお寄せください!