表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/113

95 幸せな夜

 

 賑やかな中で二次会も終わり、皆で夕食を囲んで、それぞれの部屋へと戻った。


 ファルの部屋では、ドレスの着替えの手伝いをと侍女らが待っていたけれど、リモはこの服のまま精霊界へ行きたくなって、丁重に断りを入れた。


「ねぇ、ファラムンド? このまま、精霊界へ行かない?」


「! ああ、約束だったからな」


 リモはスッとファルの腕に手を絡めると、精霊界へ行く言葉を口にした。


「ヴェルデシア、リモ・エテルニタスへ」



 ファルとリモが降り立った場所は、精霊界はリモの住処であるリモ・エテルニタス。

 一面の花畑が広がる浮島の中央に、可愛らしい真っ白な洋館が建っていた。


「ここが精霊界……すごいな……一瞬で来れるんだな」


「ええ。ここが精霊界の私の住処。もう200年くらい来ていなかったから、私も久しぶりなの」


 リモは花畑の中へ駆け出して振り返ると、ファルを見て微笑んだ。


「綺麗なスターチスの花畑だ。リモのドレスが花畑に溶け込んで、花畑のドレスみたいだ」


「ふふっ。ありがとう、家に入ってみる?」


「もちろんだ! だけど、もう少し、花畑の中のリモを見ていたい」


 花畑の中でくるくると踊るようにしてはしゃぐリモを、ファルはニコニコ笑顔でしばらく眺めていた。


「ふふっ、そろそろ、家に入る?」


 ファルに抱きついたリモが優しく微笑みながら尋ねた。


「ああ、そうだな」


 ファルはリモを抱き寄せると、おでこに軽くチュッと唇を落とした。


 腕を組み、白亜の洋館へと歩を進めていくと、アーチ型の扉の前でリモがファルを見つめて、少し恥ずかしそうに話しかけた。


「ファラムンドの好みとは違うと思うし、居心地が悪いんじゃないかなって」


「そんなこと気にしてたのか? まあ、とにかく入ろうぜ?」


「そうね」


 二人で扉を開けると、そこには真っ白な壁と床以外、全てが淡いピンクで統一された世界が広がっていた。

 そこはリモの世界だった。


「リモの色、一色だな! 俺は好きだぞ? リモの色だからな」


 ファルはリモを抱きかかえると、スタスタと歩き出した。


「寝室は?」


「寝室はこの奥なの。もう寝ちゃうの?」


「まさか! おおっ! ここが寝室……!」


 豪華な天蓋付きのベッドも淡いピンクで統一されていて、まさに女の子の寝室! といった具合だ。


 ファルはリモをベッドにそっと降ろすと、自身はベッドに腰かけた。


「ねぇ、ファラムンド。指輪をよく見せて? 二つの指輪を重ねると花冠が現れるって……」


「ああ、指輪を外してみてくれ。指輪の内側なんだ」


 ふたりは外した指輪を重ねた。


「ほら。『2.18 F & L』にスターチスの花冠を模した5枚の花弁のマークだ」


「ほんとだ……! 花冠、とてもかわいいわ。ありがとう、ファラムンド。……こんな素敵な指輪を手作りしてもらえるなんて、私、幸せすぎて……」


 リモの淡いピンクの瞳が潤んで揺れていた。


「リモ? 指輪をはめるから、手を出して?」


 ファルは左手の薬指に指輪をはめてあげると、そのまま指輪に唇を落とした。


「愛してる、リモ」


「私もよ。ファラムンド」


 熱い口づけを交わすと、ファルがリモのドレスに、そっと手をかけた。


「そうか、今日のドレスは人の服だったよな」


 年の離れた弟や妹の着替えを手伝っていた昔を思い出して、ファルの顔にふっと笑みがこぼれた。



 リモが人の服を着たのは、実はこれが初めてだった。

 霊力で生成されている服は汚れないし、いつでも清潔を保っている。

 そもそも、着替える精霊のほうが稀なのだ。


「ファラムンド……っ、自分でやるわ……は、恥ずかしいもの……」


 リモは照れたように、ファルから身を離そうとした。


「これは俺の役目だから、リモのお願いでもこればかりは聞けないな」


 ファルは、150年来の恋人、もとい、『妻』のドレスの胸元を飾っていたリボンを解き、背中や袖口に沿って並んでいるフックひとつひとつ外す。

 ファルは思いがけずに、レアな体験をすることとなった。



 ◇ ◇ ◇



 リーフとテラの部屋では、早々に着替えを済ませた二人が普段着に戻り、長椅子にゆったりと座ってくつろいでいた。


「ファルとリモ、素敵だったな。結婚パーティー、すごく良かった! リーフも完璧なタイミングだったわ!」


「そういえば、ユリアンに全部話したの?」


「うん。ユリアンはとても良くしてくれているのに、何も話さないまま別れて、二度と会わないなんて悪いなって思ったの。それに、また会えるってユリアンに嘘をつきたくなくて」


「また会えるって言葉を、本当の言葉にしたかった?」


「……そう。また会える。ユリアン、定住地に遊びに来るって言ってたわ」


「カリスには言わないの?」


「カリスには言わないわ。だけど、もしこの先もユリアンと共にあるなら、一緒に遊びに来る時にでも、ユリアンから話して構わないって言ったの」


「そっか。二人が一緒に遊びに来るといいね」


 そう言ってリーフは優しく微笑んでいた。


「あの、私、リーフに確認したいことがあって……」


「確認したいこと?」


「ユリアンに聞かれたの。リーフと……その……こ、恋人になったの? って。だけど、リーフとはそんな話をしてないから……だ、だけど、ユリアンが言ってたの。傍から見れば、恋人にしか見えないって。……私たち、恋人、なのかな!?」


「え、えっと……恋人、じゃないの?」


 リーフは先日の初キスをした時点で、テラと恋人になったと思っていた。

 ファルとリモの『恋人同士のキス』を真似して実践して、それが出来た=恋人同士だった。



「で、でも、私……交際してほしいとか、恋人になってほしいとか……言われてないから……わ、分からなくて……」


 本当は分からないわけではないけど、はっきりと言ってもらいたい、というのがテラの想いだった。

 はっきりと言ってもらい、安心したかった。


「…………」



 ぼくは恋人になったと思ってたけど……

 キスしただけじゃ恋人同士とは言えない……?

 それなら……

 テラに伝えたいぼくの気持ちを……



「あの……リーフ?」


 リーフは何も言わず、テラをじっと見つめ返した。

 その間にも、テラの胸は高鳴っていく。



「……ぼくはテラだけだから……ぼくの『好き』はテラだけ。テラが好き……。ぼくにはテラしかいないの。……テラはぼくの唯一で、ぼくの特別なの」


 テラへの想いを言葉にして重ねるごとに、じわじわと何かが湧いてくるのを感じていた。


「……ねぇ、テラ。ぼくの恋人に……なってくれる?」


 テラの心臓が、ドクンと大きく鳴った。

 彼女は、吸い込まれるように、リーフの輝く瞳から目が離せなかった。

 欲しかった言葉がリーフの口から紡がれる。

 この瞬間を、心の底から、待っていた。


「……うん……すごく……うれしい。私も、リーフが好き……リーフの恋人に……なりたい」


 テラの言葉に、リーフの霊核は強く呼応した。

 体いっぱいに広がるあの昂揚感は、テラの言葉一つ一つに反応し、一気に膨れ上がり高まっていく。



 この昂揚感は、契約している守り人にしか呼応しない、霊核の特殊な反応。

 守り人の言葉、熱、鼓動などから敏感に察知して呼応し、精霊の状態に影響を与える。


 条件の一つである、契約している守り人――これをクリアして初めて、精霊は昂揚感という感覚を守り人に呼応する形で呼び起こす。



「キス、してもいい? テラとキスしたい」


 リーフの言葉はあまりに直球で、テラは恥ずかしさから思わず顔を下に向けた。


「私と、キスしたいって思ってくれるの?」


 テラは初キスからこの数日間で、少しばかり不安な気持ちになっていた。

 もしかして、あの時のような『いい雰囲気』なキスをしたいと思っているのは自分だけ?……と。



「今、すごく、キスしたいよ」


 昂揚感が湧き上がったことで、リーフはどうすればいいのかを既に理解していた。


 リーフのひんやりとした手のひらがテラの頬を包むように触れ、軽く顎を持ち上げられると、リーフのきれいな宝石のような緑の瞳がすぐ目の前にあった。



「テラ、大好き。ぼくは……テラだけのもの」


 こんな時にそんなことを言われては、もはやテラはリーフになされるがままだった。


 触れ合う唇は次第に熱を帯びていき、二人の嬉しさが溢れだす。

 テラの鼓動はこれ以上ないほどに早まり、その熱が身体を紅潮させていく。


 リーフはテラを抱きかかえベッドに向かい、そろりと下すと、テラを包み込むように抱きしめ、キスの続きをする。


 テラの蕩けるような甘く恍惚とした瞳と彼女の吐息は、リーフの昂揚感を満たしていく。

 その表情は、まるで幸福な夢の中にいるかのようだった。


『好き』が重なると嬉しくて、『触れ合う』と心地よくて、テラの表情からは『気持ちいい』が溢れているように思えた。



 リーフは、テラの蕩けるような甘く恍惚とした表情を見て、尋ねた。


「テラ……気持ちいい?」


「……うん、気持ち……いい……」


 テラは自分で言ったことが恥ずかしくなって、フイッと顔を横に向けた。


「……かわいい……匂いも……前より強くて濃くて…………」


 リーフはテラの顔を覗き込むと、甘ったるい吐息が漏れる彼女の口を、ふんわりと優しく自身の口で覆う。


「んん……」



 テラ念願の『いい雰囲気』なキスは、前回……初めてのときよりも、かなり――倍ほど長かった。

 確かに、また『いい雰囲気』にと期待したけれど、まさかの持久戦だった。



 キスする時間ってこんなに長いのね

 知らなかった……

 もしかして、もっと、もっと長くなるの!?



 テラの期待が大きく膨れ上がり、霊核がそれに強く呼応して昂揚感の高まりも一段と強く、満たされるまでに相応の時間がかかった。

 これは、『触れ合い』を求める強さの表れ、テラの期待の表れであり、霊核はそれにしっかりと応えただけなので、リーフだけのせいじゃないのは確かだった。


いつも「刻まれた花言葉と精霊のチカラ 〜どんぐり精霊と守り人少女の永遠のものがたり〜」を読んでいただき、ありがとうございます!

次回『96 旅の見送り』更新をお楽しみに!

※更新は明日です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ