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93 結婚パーティー3

 

 食事と歓談の時間がしばらく経った頃、ファルとリモが少しの間席を離れた。


 これから運ばれてくる特製スイーツを二人でカットする、というイベントのために、その打合せとしてユリアンに呼ばれたのだった。


「二人でナイフを手にして、二人で一緒にスイーツを一部分だけカットしてほしいんだ」


 ユリアンの言葉に、ファルとリモは互いの顔を見合わせた。


「ほお、そんな難しいことじゃなさそうだ」


「そうね。少しカットするだけなんでしょう?」


 二人の言葉に、ユリアンは満足そうに頷いた。


「うん、そうだね。二人に入刀してもらって、あとは給仕がやるよ。そのあと、二人でスイーツを皆に配膳してもらえると」


「わかったわ!」


「了解だ! しかしこれ、何か意味があるのか?」


 ファルの問いに、ユリアンは少し照れたように笑った。


「二人で初めての共同作業で、幸せを皆に分けるって感じだよ」


「ふふっ、なるほどだわ」


「幸せを分ける、か。なかなかいいじゃないか!」


「でしょう? このあとスイーツが運ばれてくるから、よろしくね!」



 ほどなくして、リボンが結ばれた一本のナイフが置かれた台と共に、給仕が特製のスイーツを運び込んでくると、会場のあちこちから感嘆の声が上がった。


 それは、何層にも薄く重ねられたスポンジとクリームが、まるで塔のように高くそびえる、華やかなレイヤードケーキだった。

 側面には細かく刻まれたナッツが散りばめられ、最上部にはスターチスとサルビアを模した砂糖細工の花が、可憐に飾られていた。


 それぞれの層が、これまでの二人の歩みを、そしてこれから重ねていくであろう未来を象徴しているかのようだった。

 ファルとリモは、そのケーキを前に、お互いの顔を見合わせると、にっこりと微笑んだ。



「それでは、これよりファルとリモに、二人で初めての共同作業を行っていただきます。ファルとリモは、ナイフを手にとって、二人で持ってください」


 ファルは、そっとリモの背後に回り、彼女の手を握るようにして、二人で一本のナイフを持った。


「用意はいいかな? では、ナイフを入れてください」


 レイヤードケーキにナイフが入ると、一斉に拍手が起きた。


「ありがとうございます。これから二人に配膳、いえ、幸せのおすそ分けをしてもらうので、幸せのケーキを受け取ってください」



 給仕がきれいにカットし、ファルとリモが配膳をしていく。


「わぁ、とても美味しそうね!」


 カリスはケーキに目がなかった。

 さっそく、スプーンで一口すくって口に運ぶと、軽やかなクリームのちょうどいい甘さが、舌の上でとろけるように広がり、カリスは至福の表情になった。


「こんなに美味しいケーキ、初めてだわ!」


 カリスは頬を緩ませてご満悦の様子だ。


「ほんとに! 幸せのケーキだなんて、なんだか食べるのがもったいないわ」


 テラはもったいないと言いつつも、ペロリと平らげた。

 ヴェルト、ソランもケーキを受け取り、幸せのおすそ分けにあずかった。


 ケーキも食べて、お茶をしながらの歓談の時間が緩やかに過ぎていく。

 こうして結婚パーティーも終盤を迎えた。




 司会進行役のユリアンが、結婚パーティー最後のイベントの進行を始めた。


「今日はソランの誕生日でもあります。ソラン、7歳の誕生日おめでとう」


「ありがとう、ユリアン!」


「ここで、皆からソランへプレゼントがあります」



 侍女がリボンのかかった箱と、蓋のある大きな籠を運んできた。

 蓋がなにやら勝手に動いている。

 すると、蓋が落ちると同時に、小さなピレニーズ犬が飛び出した。

 子犬は迷うことなくユリアンの元に一目散に駆け寄っていく。

 その愛らしい姿に、会場は感嘆と温かい笑いに包まれた。



「え!? 子犬!? プレゼントって子犬?」


「ああ、そうだぞ? 皆からだ」


「すごい! かわいい!」


 ユリアンは子犬を抱きかかえソランの前でしゃがむと、子犬をソランに差し出した。


「はい、ソラン。抱っこしてみて」


「う、うん!」


 ソランの小さな腕に抱かれた子犬は、しっぽを振ってソランの顔をペロッと舐めた。


「ソランのこと、気に入ったみたいだよ」


「うん!  ありがとう! 子犬、大事にする!」


 ソランはもふもふした子犬を抱きかかえ、その温かさに心が癒されていくような、幸せな気持ちになった。


「どうしよう。名前、何にしようかな。すごく温かくて、かわいい」


 ソランは子犬の名前を考えることで頭がいっぱいになった。




「それじゃ、これで最後になるんだけど、この後は二次会もこのままやってもらって構わないからね」


「ちょっといいか? 俺から皆に一言、言わせてもらいたくてな」


「それでは、最後にファルから、どうぞ」


 ファルは、こみ上げる感情をこらえながら、大広間に集まった皆の顔を一人ひとり見渡した。


「皆、今日は本当にありがとう。こんな心に残るお祝いをしてもらって、心の底から嬉しかった。俺とリモは、というより、俺たち五人は明後日、王都を発つが、ここでの出来事は一生忘れない。たとえ二度と会えなくても、何十年経ったとしても、本当に、生涯、忘れない。この恩は、ずっと消えない。本当に、本当に、ありがとう。心から感謝している」


 ファルは頭を下げて、礼をした。


 すると、会場全体から一斉に拍手が起きた。

 侍女も給仕も、警護の騎士たちも、揃って拍手を送っていた。

 それは、新郎新婦への祝福であり、そして彼らの旅路を(おもんばか)る、温かな拍手だった。



 ユリアンはファルの『明後日、王都を発つ』という言葉に、驚きで呼吸を止めた。

 発つ、だって?

 そんなこと、聞いてない……!


 頭の中が真っ白になるも、司会進行という役目を果たすべく、ユリアンはなんとか言葉を繋いだ。



「盛大な拍手をありがとうございます。ファル、リモ。本当におめでとう。これからもどうか、末永くお幸せにね。それじゃ、結婚パーティーはこれでということになりますが、このまま二次会、それぞれ自由に歓談、食事を楽しんでください」


 ユリアンの進行役もここでようやく終わり、肩の荷が下りた。


 ホッとしつつも、先程のファルの挨拶が頭から離れない。

 ファルでもヘリックスでも、誰でもいいから、捕まえて話を聞かなきゃと思った。



 ちょうどそこへヴェルトがやってきて、ユリアンに声をかけた。


「殿下、仕事がありますので、私はこれで下がらせてもらいます」


「ああ、ヴェルト。今日はありがとう」


「いえ。とても良い結婚パーティーでした。殿下の進行役も、なかなかでした」


「リーフとテラには帰るって挨拶したの?」


「はい。先程、済ませておりますので」


 ヴェルトが大広間の出口のところで、後ろを振り返ってテラに手を振っていたのを目撃し、あのヴェルトが! と思ったけれど、見なかったことにした。



 ユリアンはファルに話しかけようと、彼の方へと歩を進めた。

 ファルはソランと何か話をしているようだった。


「ファル兄、明後日、ぼく、絶対に見送りするからね」


「そうだな。どこで見送るのがいいのかね? カリスの家に来るか?」


「それなら、王城で見送りをしたらどう? フィオネール邸はソランが住む邸からとても遠いからね」


 ユリアンが横から声をかけた。


「そうなのか。じゃ、王城に寄ってから出発するか」


「わかった! ここに来たらいいんだね? 時間はいつ?」


「あー、そうだな。時間は決めてないんだが……俺らはいつも朝飯食ったらすぐって感じだからな。朝8時か9時くらいになるんじゃないか」


「必ず見送るからね。絶対だよ」


「ああ、約束だ」


 ソランは誕生日プレゼントの子犬を抱え、迎えの従者に連れられ大広間を後にした。

 ソランはこの後、自宅で初めての誕生日パーティーが開かれることになっている。


 ヴェルトとソランが帰り、二次会メンバーは、ファルとリモ、リーフとテラ、ヘリックスとユリアン、カリスの7名となった。


いつも「刻まれた花言葉と精霊のチカラ 〜どんぐり精霊と守り人少女の永遠のものがたり〜」を読んでいただき、ありがとうございます!

次回『94 二次会』更新をお楽しみに!

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