92 結婚パーティー2
ユリアンが司会進行役として、二人を前に呼び出した。
ユリアンは、メインテーブルの前に立つファルとリモに温かい視線を向け、司会進行役として語り始めた。
「ファル、リモ。お二人はこれまでの道のりを共に歩んできました。今、その絆を形にする時です」
ユリアンが二人に語り掛けた。
「リモには内緒だったのですが、ファルは、今日この日のために、リモとお揃いの指輪を手作りしていました。スターチスの花を模したデザインで、二つの指輪を重ねると花冠が現れるという、とてもおしゃれで素敵な指輪が完成しました。ファル、その指輪をここに」
ファルがポケットから二つの指輪を出し、台座に置いた。
リモは驚いた様子で指輪とファルを交互に見つめた。
ファルは、心臓が大きく鳴るのを感じた。
「それでは、お互いに、誓いの言葉と共に、指輪をはめてあげてください。では、ファル。リモの左手をとって、誓いの言葉を。そして指輪をリモの左手の薬指に」
「まじか!? 誓いの言葉だなんて聞いてないぞ!」
「ファルなら大丈夫でしょ? 頑張って!」
ぐぬぬ……。
まさか嫌だなんて言えない状況。
誓いの言葉は聞いていなかったけれど、飾らない自分の言葉で、正直な気持ちを伝えようと決めた。
「リモ! 俺は、お前と出会って、これまで共に旅してきた。離れたこともあったけど、お前と再契約できた時、俺の人生は再び輝きを取り戻した。お前は俺の光であり、俺がどんな道を歩んでも、ただ一人、俺のそばにいてくれた。お前を独りにしたくない、悲しみから守りたいと、心から願っている。この世の理がどうであれ、俺はお前を愛し続ける。この先のどんな未来も、お前と共に歩むことを誓うよ」
ファルはリモの左手の薬指に指輪をはめた。
その瞬間、リモの瞳から大粒の涙がとめどなく溢れ、その頬を伝った。
「では次に、リモ。ファルの左手をとって、誓いの言葉を。そして、ファルの左手の薬指に指輪をはめてあげてください」
リモはこぼれる涙を拭うと、ファルへの気持ちを言葉にした。
「ファラムンド。あなたのそばにいることが、私のすべてなの。私にとって、あなたは誰よりも優しくて、私のすべてを受け入れてくれる人。……私はあなたとの絆が運命を超えるものだと信じてるわ。あなたが私を独りにしないと願ってくれるように、私もまた、どんな時もあなたのそばにいることを誓う。愛してる、ファラムンド。この命が尽きるその時まで、いえ、その先もずっと、あなたと共に」
リモの言葉は、ファルの心の奥深くに響いた。
彼女がファルの左手の薬指に指輪をはめると、その瞬間、ファルの目からも、とめどなく熱い涙が零れ落ちた。
「それでは、お二人の永遠の愛を誓って、キスを交わしてください」
ユリアンが誓いのキスを促した。
「今、ここでか!?」
ファルは涙が引っ込んだ。
「もちろん!」
ユリアンは当然とばかりにニッコリと笑う。
観衆の視線が集まる中、見つめ合ったファルとリモは、照れたように微笑むと、お互いを引き寄せ、優しい口づけを交わした。
ファルとリモの唇が触れ合った、その瞬間だった。
大広間を囲うように置かれたプランターの苗が、まるで時が加速したかのように一気に成長し、ピンクのスターチスが満開になった。
スターチスに混じり、真紅のサルビアも、種から瞬く間に咲き誇った。
「どうして苗を置いているのかと思ってたけど!」
「おお! すごい!」
「こんな演出があるなんて!」
給仕や警備の騎士、侍女たちの感嘆の声が聞こえてきた。
リーフは、その光景を眺めていた。
その胸は、祝福の気持ちでいっぱいだった。
「それでは、乾杯をするので皆、それぞれ飲み物を手にしてください。乾杯の後はしばらく自由に食事や歓談など楽しんでください」
乾杯では精霊たちも各々、お気に入りの水を手にした。
乾杯の音が鳴り響き、歓談が始まると、ソランは嬉しそうに駆け出した。
その小さな足は、二人に向かって一直線だった。
「ファル兄、リモちゃん、おめでとう! ファル兄は今日はすごくカッコいいね! リモちゃんはとっても可愛い!」
「おお、ソラン。来てくれてありがとうな! 元気にしてたか?」
「うん、元気だよ! 招待状が来てから、楽しみにしてたんだ!」
「しっかり料理を食べるんだぞ? 王城でご飯なんて、なかなか食べられないからな! はははっ」
ファルはソランの頭をポンポンと撫でて、悪戯っぽく笑った。
「今日はソランの誕生日でしょう? ソランも7歳ね。おめでとう」
「うん、ありがとう、リモちゃん! 今日の夜はおうちでお祝いがあるって言ってたよ」
「そうか、よかったな。ソラン」
「うん! みんな優しくしてくれるし、勉強も頑張ってるよ」
「ソラン? お話もいいけど、ごはん、食べないとだよ?」
ごはんに全く手を付けていないため、テラがソランを呼んでいた。
「うん、わかった! テラお姉ちゃん! ファル兄、リモちゃん、またあとでね!」
「おう、またあとでな」
ファルとリモのメインテーブルから離れ、ソランは自分の席に戻った。
ソランはテラとリーフのすぐそばの席だ。
「リーフ! さっきのすごかった! お花を咲かせたのはリーフだよね? リーフはいつもすごいね!」
ソランは目をキラキラと輝かせ、リーフの顔をまじまじと見つめた。
「そう? 褒めてくれてありがとう、ソラン」
「ソラン、リーフはいつもすごいのですか?」
ヴェルトがソランに問いかけた。
ヴェルトの席はテラの伯父ということで彼女の隣だった。
「すごいよ! リーフはぼくを助けてくれたんだ! いっぱい草とか蔦とか生やして伸ばして、ぼくを守ってくれたんだ」
「それはすごいですね。リーフは命の恩人なんですね」
「そう! 命の恩人!」
「ソラン、さすがにそれは言いすぎかな。助けたのはファルだよ?」
リーフはそっとソランの頭を撫でた。
「ファル兄も命の恩人だよ。だから、リーフも!」
「まあ、いいけど……あまり誰にでも言わないで?」
リーフは手でシーッというポーズをして見せた。
「わかった! リーフがすごいのは内緒なんだよね」
ヴェルトは、ソランとのやり取りを見て、リーフが次期精霊王であるにも関わらず、全く偉ぶらない、その謙虚さに改めて感銘を受けていた。
これほどの力を持つのに、全く目立とうとしない。
むしろ、人の功績を称えるとは……。
この彼が自身の姪を幸せにすると約束してくれているのだから、誇らしくもあり、心から安堵していた。
テラを守るリーフの姿は、ヴェルトにとって何よりも心強く、姪の将来を案ずる伯父として、これほど喜ばしいことはなかった。
「ほら、ソラン。さっきからずっと喋ってるけど、ちゃんとしっかり食べないとだよ?」
テラは興奮冷めやらぬソランに声をかけた。
「うん! だけど、リーフってこんなに大きいんだね。ぼくと一緒にいたときは、ずっと小さかったのに」
ソランの言葉に、テラは顔を固まらせた。
その隣で、リーフもきょとんとした表情を浮かべていた。
「あっ! そうだったね……」
ソランと王都を目指していた期間、リーフはソランの前では小さな姿でいたため、今日、彼の目の前で大きな姿でいることで、これまでの努力が水の泡となってしまったことに、気付いたのだった。
「でも、大きなリーフはすっごくかっこいいね! テラお姉ちゃん、リーフが大好きだから、リーフが大きくてよかったね!」
「え! ま、まあ、そうかな?」
リーフが大好きって、ソランに言われるとは思ってもなかった。
『リーフが大きくてよかったね』ってどういう意味!?
と思ったけれど、聞くのはやめておくのが無難だと思ったのだった。
いつも「刻まれた花言葉と精霊のチカラ 〜どんぐり精霊と守り人少女の永遠のものがたり〜」を読んでいただき、ありがとうございます!
次回『93 結婚パーティー3』更新をお楽しみに!
※更新は明日です!