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74 フィオネール家02 ゲストハウス2

 

 カリスがゲストハウスを後にしてから、ファルとユリアンが『カリスに聞きたいことがあるから』と彼女を追って行ってしまったため、残ったテラたちはゲストハウスの探索をしつつ、ファルが戻るのをロビーで待っていた。


 そうして待つこと約20分。

 ファルとユリアンがゲストハウスに戻ってきた。

 カリスに内緒の相談事をしていたファルは、どこか意気揚々とした雰囲気を纏っていた。



「お帰り、ファル。どの部屋にしようかってみんなで話してたのよ。どの部屋も南側にバルコニーがあって、間取りはどの部屋も同じなの。ファルはどの位置の部屋がいいかな?」


「ああ、テラ。部屋の位置か。じゃあ俺たち、2階の階段に近い右側の部屋にするかな」


 ファルは階段の上を見上げると、視線を右のほうに定めた。


「それじゃ私とリーフは2階の左側にするわね。ヘリックスはどこにする?」


「私はテラたちの隣にするわ」


 ヘリックスはテラを見つめてにっこりと微笑む。


「わかったわ。それじゃ、部屋割りはこれで決まりね!」


 中央階段を上がって右手の部屋がファルとリモ、左手の部屋にリーフとテラ、その隣にヘリックスだ。


「ちょっといいかしら。ちょうどみんな揃ってるし」


 ヘリックスの声に、皆が一斉に彼女へ向き直った。


「結婚パーティーの日を決めようと思っていたの。そろそろ、決めておかないとでしょう?」


 ヘリックスが日取り決めを持ち掛けると、皆一様に『ああ!』といった表情を見せた。

 やっぱりさすがのヘリックスだった。


「18日は? ちょうどソランの誕生日。ソランもパーティーに呼ぶよね?」


 リーフが即座に日取りの提案をした。


「いいわね。ソランも招待したいし、今日が6日だから……12日後ね。ファルとリモは18日でいいかしら?」


「それでいいよ。むしろその日しかないよな? ソランのおかげで結婚することになったんだしな、リモ?」


「ふふ、そうね」


 ファルとリモは笑い合うと、嬉しそうに肩を寄せていた。


「ちょっと待って。ソランの誕生日、知ってるの? 僕が確認した資料では、ソランの誕生日は不明で、おおよその年齢で、預けられた日を誕生日に設定したと書いてあったんだ。だから、覚えていたんだけど……」


 黙って話を聞いていたユリアンは、ちょっと驚いたように疑問を投げかけた。


「ええ、ユリアン。私の力で誕生した時まで遡って確認したの。2月18日で7歳よ。間違いないわ」


 ヘリックスはちょっとだけ誇らしげに、にっこりと微笑んでいた。


「そうだったんだ……! ありがとう、ヘリックス! 誕生した日が分からないなんて、本当に不憫で、と思っていたんだ。誕生日は2月18日、そうか……」


 ヘリックスの言葉に驚きつつも、ユリアンは顎に手を当てて、何かを考えているようだった。


「まあ、こんな使い方をしたのは初めてだったけれど、若返りの力も、使いようがあるのね」


 長い時を生きているヘリックスだけれど、自身の力の新たな使い方に満足している様子だった。


「それじゃ、ソランには僕から招待状を送っておくよ。今日は僕は城に戻るから。明日また顔を出すよ」


 思い立ったように椅子から立ち上がると、ユリアンは玄関へ向かっていた。


「おお、もう帰るのか?」


 ファルは急に帰ろうとするユリアンに声をかけた。


「うん、戻ってからまだやることがあるし、また明日ね」


「ああ、ユリアン。また明日な!」


 ユリアンは招待状を出す手紙に誕生日の知らせを書く事、そして、結婚パーティーではソランの誕生祝いもしなければと、考えを巡らせていた。



 ユリアンがゲストハウスを出て歩き出したところで、テラが後を追って来て、彼に声をかけた。

 テラはユリアンと二人で話がしたかったために、帰り際に呼び止めた格好だ。


「あの、ユリアン。聞きたいことがあって……ちょっとだけ、いいかな?」


「うん、どうしたの? テラ?」


「えっと、騎士団長さんってヴェルトっていうのよね?」


「ああ、そうだよ。テラはヴェルトを知ってるの?」


 ユリアンはちょっと不思議そうな顔をしてテラを見つめた。


「……もしかしたら知り合いかなって思ってて。でも騎士団長さん、王都には居ないのよね?」


「ヴェルトは今地方に出ていてね。帰ってくるのは来週になるかな」


「来週……。あの、もし可能だったらなんだけど、会う事は出来るかしら」


「そうだね。王都に帰ってきたら、僕の護衛に付く日もあるからね。そしたら、ここに一緒に来るよ」


 テラが少し神妙な面持ちで話すので、ユリアンはさらに不思議に思いつつも、会える機会があることを伝えた。


「そう、分かったわ! ありがとう、ユリアン」


 騎士団長のヴェルトさんに会える、それを思うと、テラはドキドキとした嬉しさと共に少し緊張した思いを抱くのだった。



 ◇ ◇ ◇



 テラがゲストハウスに戻って来たところで、ヘリックスは再び、相談を持ち掛けた。


 この相談はユリアンとカリスがいない時、旅を共にする5人だけの時が適切だと思っていたため、その時が来る機会を待っていた。

 あちこちに気を回しつつ、話を進めるのはさすがのヘリックスだ。


「ふぅ。もうひとついいかしら。私たちが王都に来た理由のひとつ、会いたい精霊がいるって話をしていたけど、その精霊にはすぐに会えそうなのよ。それで、テラの探し人のほうはどんな感じなの?」


 さすがのヘリックスも少々お疲れの様子だった。


「私のほうも、伯父さんだろうって人は分かったのよ。来週、会えるかもしれないわ」


 たった今、ユリアンと話してきたばかりの情報だ。


「へぇ! いつの間に探したんだ?」


 ファルは驚いたようにテラに問いかけた。


「探したというか、血の匂いで分かったというか……」


「ああ、なるほどな! リーフが血の匂いを覚えていたのか」


「まあ、そんなところ、かな」


 ここで詳しい話をしてもね、と思ったテラは、詳細は省いて答えた。


「それで、いつまでこのゲストハウスにお世話になるのか、というのも、決めておいたほうがいいと思っていたのよ」


 ヘリックスは王都を発つ日を決めておく必要がある、と考えていた。


「そうだな。いつまでも居座るつもりはないが、目途は立てておかないとな。決めておかないと、ずるずる無計画になっちまう」


 ファルもヘリックスに同意した。


「そしたら、結婚パーティーの翌々日、20日に発つってことにしない?」


 リーフが具体的な日にちを提案した。

 会いたい精霊にはすぐに会えるし、騎士団長にも来週には会えるだろう。

 となると、12日後の結婚パーティーが、王都での一番最後の予定となるためだ。


「ああ、いいね。パーティーの翌日だとバタバタしそうだしな。俺はそれでいいぞ」


 ファルの返事に、リモもヘリックスも頷いていた。


「それじゃ、20日を目途に旅を再開する、ということで決まりだね。もちろん、次の行き先はエルナス森林地帯、だよね?」


 リーフは王都を出発してからの行き先もしっかりと確認する。


「ああ、その通りだ!」


 ファルはいつものようにニカッと笑っていた。



 ◇ ◇ ◇



 ゲストハウス一号館の部屋は、木の匂いがふんわりと漂い、温かな感じがした。

 それぞれの部屋の広さは、畳でいうと30畳ほど。

 建物の総床面積は60坪(約200平方メートル)ほどあり、ゆったりとした造りになっている。



 リーフとテラは、中央階段を上がってすぐ左手の部屋を使用することにした。


「素敵なお部屋ね! 広いし、ベッドもふたつあるわ! バルコニーからの眺めもよくて、気持ちいいね」


「広いのはいいけど、ベッドがふたつ……?」


「そうだ、リーフ。ムーンピーチフラワーのプランター、依り代から出してもらっていいかな? ここにいる間は出しておこうと思って。実を収穫しておきたいし」


「うん、すぐに出すね。他に出しておきたいもの、ある?」


「そうね……。とりあえず、採取した薬草……。あと、薬草の本と薬草図鑑も出しておいてもらえると」


「うん、わかった。せっかくだからお菓子と薬草茶も出しておくよ」


「ありがとう、リーフ!」


「しばらく滞在するから、久しぶりに薬草茶も作れるね」


「うん、嬉しい! 食堂のキッチン、借りても大丈夫かな」


「カリスは『家だと思って自由に使って』って言ってたし、大丈夫じゃないかな?」


「ふふ。10月下旬に旅に出て、もう3か月ちょっと経ったけど、採取ばかりで何も出来なかったから。ほんと、久しぶりだわ!」


「旅をしてると、色々作るのは難しいもの。定住地に住めるようになったら、薬草茶を作ったり、調味料を作ったり、薬を作ったり。また色々と出来るようになるね」


「そうね! 定住地……すっごく楽しみ!」


 定住地の夢は膨らむ一方だった。

 テラのニコニコ笑顔とは裏腹に、リーフにはどうしても気になる事があった。

 ベッドがふたつ。

 これは一体……?

 テラに聞こうかと思ったけど、なんとなく聞けなかった。




 中央階段を上がってすぐ右手の部屋はファルとリモが使用する。


「いいお部屋ね。木の匂いがして、温かみがあって」


「そうだな。なぁリモ、ベッドふたつあるけど、どうする? くっつけて一緒に使うかな」


「ファル、寝相がよくないから、くっつけて一つにしたほうがいいわよね?」


「ええ!? 俺、そんなに寝相悪いか?」


「ふふっ 冗談よ。ぜんぜん悪くないわ。だって私から毛布を剥ぎ取ったりしないもの。私の方がファルが寒くないかって気になっちゃうわ」


「そんなことリモは気にしなくていいんだ。リモは意識してないかもだけど、リモだって、温かくなるって俺は知ってるから」


「え? 温かくなる……?」


「ああ、そうだよ」


 リモを後ろから抱きしめ、背後から顔を覗くようにして口づけをすると、いつものようにニカッと笑った。


「!! フ、ファル……もう、知らない!」


「リモはずっと変わらず、俺が一目ぼれした時のリモのままで、可愛いよな。これからも俺は君のものだよ。愛してる」


 ファルとリモは相変わらずのラブラブ全開、仲良しな恋人同士だ。




 ヘリックスは、リーフたちの左横の部屋を使用する。


「ひとりでこの部屋を使ってもね。と思ったけど、依り代の中身の整理でもしようかしらね」


 ヘリックスの精霊界の住処も物が溢れているのだけれど、依り代の中もかなり物がたくさんで、さすがに整理しなくては、と思っていたところだった。

 ひとり部屋なのは幸いだわ、いやむしろ、ひとりで良かったわと、にんまりするのだった。


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