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73 フィオネール家01 ゲストハウス1

 

 市場で買い物を済ませた6人、リーフ、テラ、ファル、リモ、ヘリックス、ユリアンを乗せた豪華な馬車は、王都のはずれにあるフィオネール家の邸宅に到着した。


 この邸宅の敷地は一辺約220メートルの正方形に近く、現代日本でいうと東京ドームほどの、かなりの広大な敷地だ。


「すごい! ここがフィオネール家のお邸!」


 延々と続く敷地を囲む水堀に土塁。

 さらには木製の塀が連なっていると思ったら、石壁が現れ、それに続く門構えのあまりの立派さにテラは驚いたように声を出した。

 奥の方に、本館と思われる石造りの気品ある建物と緑に囲まれた手入れの行き届いた庭園が広がっている。


 別名『水の邸』。


 敷地内には川から引かれた水源があり、大型の水車が設置されている。

 その動力で揚水ポンプが動き、汲み上げられた水が高所に設けられた大きな貯水槽に送られている。

 この敷地内で一番背の高い構造物、それが貯水槽だった。


 遠目からも見えていた貯水槽は、本館に向かって右斜め後方のわずかな高台にあり、緻密に組まれた灰色の石材で築かれた堂々たる塔だった。

 木々に囲まれた、まるで小さな城塞のようにも見え、その頂が空に突き刺さるさまは、フィオネール家の技術と知恵の結晶であり、歴史と卓越性の証として、訪れる者の目に焼き付ける。



 馬車の車輪が敷地内に入ると、微かな水の流れる音と、風に揺れる木々の葉音が耳に届いた。


 出迎えたのはもちろん、カリス・フィオネール、フィオネール家のお嬢様だ。


「いらっしゃい! 待ってたわ! みんな元気そうね」


「カリス、また会えて嬉しいわ!」


 カリスとテラは久しぶりの再会を抱き合って喜んだ。


「よう! カリス、元気そうだな! 世話になるよ!」


「ファルも元気そうね!」


 ファルとカリスはがっちりと握手をして、パンパンと肩をたたき挨拶をした。


「こんにちは、カリス。久しぶりだね」


「でん……いや、ユリアン、こんにちは。久しぶり……ね」


 カリスは一瞬ためらったものの、すぐに笑みを作り、ユリアンとそっと手を交わした。


 やっぱりユリアンも来るわよね。

 そりゃ、そうよね。まあ……仕方ないか。

 カリスは心の中でつぶやいた。


「リーフ、リモ、ヘリックスも、みんなお久しぶり! ゆっくりしていってね」


 もちろん精霊たちとも握手を交わし、全員の顔を見渡して満足そうに頷いた。


「父も母も、仕事で家を空けているの。 みんなの話をしたら、ぜひ会いたいって言っていたのだけど。とりあえずこのままゲストハウスへ案内するわ! 何泊してもらっても構わないわよ!」


 カリスは両手を広げ、胸を張って楽しそうに話し続けた。


「ははは、それじゃここに住むか?」


「なに言ってるのよ、もう! ファルは適当なこと言うんだから」


「ふふ、テラ? 住んでもらってもいいわよ?」


「冗談だよ、冗談! 俺らは旅の途中だからな」



 わいわいと会話しながらテラたち一行とカリスは、歩いてゲストハウスへと移動する。


 敷地内には緻密に計算され作られた、傾斜や段差をもつ大小さまざまな水路が張り巡らされ、貯水槽から絶えず溢れる水が水路を流れていた。

 淀みなく流れ続ける澄んだ水が奏でるせせらぎは、心地よい音楽となって、耳を楽しませてくれる。


 広い中央庭園を抜けると、すぐに小径へと分かれた。

 常緑の木立に囲まれるその道は、木漏れ日と冷たい空気が足先から頬まで撫でていく。



「ゲストハウスを一棟、テラたちに使ってもらうことになったの。お部屋は5室あるから、好きなお部屋を使って。食事は朝昼晩、食堂に用意するから、好きな時間に食べてね。出入りも自由にしてもらって構わないわ」


 カリスがゲストハウスの説明をしていると、ちょうどゲストハウスの前に辿り着いた。


「うわぁ……」


 思わずテラが声を漏らした。


「いい感じだね。木造って」


 リーフは木造の温かみのあるこの建物が気に入ったようだった。


 本館の気品ある石造りとは対照的に、ゲストハウスはどこか温かみのある木造建築で、まるで森に溶け込むような設計だった。


「ここでは集中式湯沸かし炉の最新型を試験運転してるの。大陸でも最先端の技術だから、お客さまの声を取り入れてさらに磨きをかけるつもりよ」


 カリスは得意げに胸を張った。

 木造の向こうに見える石造りの小屋が、まさにその実験炉を納める建物だった。


 ゲストハウス一号館。

 フィオネール家では、開発した技術を試験導入するためにゲストハウスを使っているのだ。



「ふふっ。いい感じでしょう? ゲストハウスは3棟あるけど、このゲストハウスが一番のおすすめなの! それじゃ、中に入って。部屋割はそれぞれで決めてね。5部屋あるから、1人ずつでもいいわよ」


「ひとりずつ……」


 テラがぼそりと呟いた。


「テラ? ぼく、テラと一緒がいい……」


「え、もちろんよ? まさかひとりなんて。ふふっ」


 テラが同室なのは当然なのに、なぜか心配するリーフが面白くて笑みがこぼれた。


「私、1人でいいかしら」


「ヘリックスは1人がいいのか?」


 ファルがちょっと不思議そうにヘリックスに尋ねた。

 これまでの旅の流れから、ヘリックスが早々に一人部屋を希望したのは意外だったけれど、王都ではユリアンがいる。


「ええ。ユリアンが来ることもあるだろうから、そのほうが都合がいいわ。ね? ユリアン」


「ヘリックスがそう言ってくれるなら。ありがとう、ヘリックス」


 ユリアンは嬉しそうにヘリックスの気遣いに感謝した。


「ああ、なるほど。それもそうだな。俺とリモはふたりでいいから、じゃあ、3部屋使うってことで決まりか」


 それぞれ、契約する守り人と精霊で3部屋というのは当然の成り行きだ。


「ゲストハウスには、食事や清掃を担当する給仕や使用人が来たりはするけど、基本的にはテラたちだけよ。だから家だと思って自由に使ってね。1階には食堂や談話室、浴室があるわ。お部屋は1階に1室、2階に4室よ」


「ありがとう、カリス。こんなすてきなゲストハウスを用意してくれて」


「ふふ、テラ。せっかく来てくれたんだもの。あと、今日の夕食だけ、本館で用意するから時間になったら迎えに来るわ。いいかしら?」


「ええ、もちろんよ」


「それじゃ、とりあえずはゆっくりしてて。2時間後くらいに迎えにくるわね!」


 カリスはにこやかに手を振って、ゲストハウスを後にした。

 そして、ファルとユリアンはお互い目配せをすると、カリスの後を追うことにした。


いつも「刻まれた花言葉と精霊のチカラ 〜どんぐり精霊と守り人少女の永遠のものがたり〜」を読んでいただき、ありがとうございます!

フィオネール家でのエピソードは盛りだくさんです。

長くなりますが次回更新もお楽しみに!

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