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05 薬草茶2

 

 リーフとテラ、ふたりの共同生活が始まってちょうど1週間が経ち、いつものように薬草採取に行く途中で、昨日会えなかったマーサおばさんに出会った。

 薬草茶を届けに行ったときには風邪で休んでいると聞いていたのだけれど、今日はテラの姿を見つけて元気そうに手を振って笑っていた。


「おはよう、テラちゃん。通りかかると思って待ってたのよ」


「マーサおばさん、おはようございます。お加減はどうですか?」


「テラちゃんの薬草茶、昨夜飲んで寝たのよ。咳がひどくて、熱も高くてね。でも朝起きたらスッキリしてて。喉はまったく痛くないし、熱もないの。薬草茶のおかげよ! すごいわ。こんなに早く効く薬草茶、初めてよ!」


 いつも穏やかで落ち着いた印象のマーサおばさんが、テラの薬草茶を飲んだこと、風邪の症状がなくなったことをとても興奮した様子で話してくれた。


「それはよかったです! マーサおばさんが元気になってとっても嬉しいです!」


 リーフの力で薬草茶の効果が上がったのね! とテラも嬉しくなって、にこやかに応じた。


「ありがとうね、テラちゃん!」


 マーサおばさんは両手でテラの手を握ってブンブンと振るようにして感謝と喜びを現していた。


「どういたしまして。そうだわ。昨日伝えてなかったんですけど、マーサおばさん、茶葉はまだ余ってますか?」


 リーフが力の持続期間が1年と言っていたので説明しておかなきゃと、茶葉が余っているかどうかを尋ねたのだけど。


「ええ、まだ1杯飲んだだけよ。それがね、あの薬草茶、ふたくち飲んだだけで咳が止まってしまったのよ。朝からずっと咳が酷くて寝てたのに、ほんと、びっくりしたわ! それで、ティーカップに1杯だけ飲んで、そのまま寝たの。そしたら朝になったら風邪なんかどこかにいっちゃってたのよ!2杯目を飲む必要がなくなっちゃったわね」


 お茶をふたくち飲んだだけで咳が止まったと聞き、テラはそんなに早く効果が出るとは想像もしてなかったので、さすがに動揺してしまう。マーサおばさんの興奮ぶりも当然だわと納得せざるを得なかった。


「そ、そうだったんですね。あの、薬草茶の使用期限は1年なので、1年以内に飲んでくださいって伝えようと思ってたんです」


「そうなのね。リコリスとカモミールの薬草茶、すごく美味しくて香りもよくて、風邪じゃなくても飲みたいくらいなんだけど、効き目がすごいから何も無いのに飲んじゃったらもったいないなって思ってね。今度また風邪を引いた時に飲むことにするけど、1年以内に風邪を引かなかったら、そのときは美味しくいただくことにするわ」


「はい、ぜひそうしてください」


「それにしても、本当にすごいわ。特別な作り方なの? 薬草が特別なのかしら?」


 うっ。聞かれたくなかった。どうしよう、と思ったのだけれど、適当すぎることも言えないわと、あながち嘘ではない言い訳を思い付いた。


「たまたまだと思うんですけど、リコリスルートの状態がよかったのもあるかもしれないです」


「でも、あんなに効く薬草茶は私は知らないわ。テラちゃんがもっと作れるなら、販売するのはどうかしら。必ず高く売れると思うのよ」


 ああ、どうしよう。これ以上聞かれたくないのだけど。なんとかこの話を終わらせたいとテラは懸命に言い訳を考える。


「あ、いえ、リコリスルートは使い切ってしまったから……」


「そうなの。すごく残念だけど、また作れるかしら?」


 あああ、ほんとに困ったわ。作れないことはないし、作れるんだけど、作れるとは言えない。精霊の力だなんて誰も信じないし、私の力でもないのに。説明できないことを表立ってやるなんて私には無理!と考えた末。


「状態のいいリコリスルートがあれば作れるかもしれないですが、ちょっと難しいかなと思います……」


「そう……それじゃ、私のために貴重なリコリスルートを使ってくれたのね。本当にありがとう、テラちゃん」


「いえ、ほんとに偶然なので! 私も驚いているくらいですから!」


 そう。私だって驚いているもの。リーフの力がすごすぎて。これは下手にリーフに力を使ってもらうわけにはいかないわ、と思うほどに。


「でも、もしまた、状態のいいリコリスルートが見つかれば、次は売ったほうがいいわ! 私だってお金を払いたいくらいよ」


「そんな! 私が勝手に作って持って行ったんですから。そんなふうに思わないでください」


「テラちゃんは本当に立派になって。ありがとうね。薬草茶はありがたく頂いておくわね。テラちゃん、本当にありがとう」


「はい、それじゃ、私、そろそろ薬草採取に行きますね!」


「ええ、ごめんなさいね。引き留めちゃって。いってらっしゃい。気をつけてね」


「行ってきます!」


 やっと解放されたわ! と安堵したけれど、怪しまれなかったかと少し心配にもなり、リーフの力が薬草茶の効果を上昇させたことは嬉しいのだけど、喜んでばかりもいられないと気付いたテラの胸中は複雑だった。





 マーサおばさんと別れて、ふたりはいつもの森へ続く道を歩いて行くのだけれど、テラは少し思い詰めた様子でリーフに話かけた。


「ねぇ、リーフ。薬草茶、とても効いたみたいね。リーフの力、本当にすごいのね」


「薬草茶、効果が出てよかった! 今日からはテラが採取する全ての薬草に守護を使うよ!」


「ちょっと待って。それは……ちょっと、どうかな……」


 リーフの守護の力が込められた薬草茶の効き目はすごいけど、これから採取するすべての薬草に力を使うというリーフの提案に、テラはどうにも気が乗らなかった。


「どうしたの?」


「リーフの力って本当にすごいのよ?ただ、あまりに効きすぎると、変かなって……。薬草はどこで?とか、薬草茶はどうやって作ってるのとか色々聞かれても、私、答えられない……」


 テラの言葉を聞いてハッとしたリーフは、効果が出て嬉しかった気持ちはどこかへいってしまった。


「……そうだよね……それでテラが危険な目に合う可能性だってあるよね……気付かなくてごめんね……ぼく、全然ダメ……」


「ううん。リーフが全然ダメとかじゃないよ。私がダメなの。勇気が無いから……。でもね、リーフの守護がかかった薬草はほんとにすごいから、色々作っておきたいって思うの。だから、私がお願いしたときだけ、力を使ってほしいかな。全部じゃなくて」


「うん、わかった。テラがお願いしてくれたときだけにする」


「ごめんね。ありがとう、リーフ」


 こうしてふたりは、今日も森で時々リーフの力を使ってもらったりしながら薬草を採取した。

 リーフの守護で強化された薬草は普通の薬草とは異なり、光の粒がほんのりと煌めいて、生き生きとしているように見えた。





(閑話)


 リーフとテラ、ふたりの生活が始まって8日が経ち、少し肌寒くなってきた秋の夜。


「テラ、何か……ぼくにしてほしいこととか、お願いとか、ない?」


 毎日血をもらっているのに、薬草採取のときくらいしか力を使っていないリーフは、何か他にテラのために出来ることはないのかなと思っていたのだけれど、テラは何も言ってこないのでテラに率直に聞いてみることにした。


「うーん。今のところは……特に無いかなぁ。薬草はリーフのおかげでいっぱい摘んでるし。あ! そうだ。リーフって、血を飲むとすぐ寝ちゃうよね」


 リーフが毎日血を飲むようになって数日、テラは気づいたことがあった。

 リーフは血を飲むとその場で速攻で寝てしまう。

 最初は夜だから眠かったのかなと思ったけれど、時間を変えても同じだったため、血を飲むとその場ですぐに寝てしまうんだわ!と気づいたのだ。


「おなかいっぱいになっちゃって……寝ちゃうね……」


 精霊には臓器がないのでお腹がいっぱいにはならないのだけど、分かりやすい表現でリーフは説明をした。


「ふふ、お話したい時は血を飲む前じゃないとだめね」


「ごめんね……ぜひそうして……」


「リーフはテーブルの上でもどこでも寝ちゃうけど、体痛くなったりしないの?」


 血を摂取するとすぐに寝てしまうので、それが机の上でも椅子の上でも、場所はまったくお構いなし。摂取した場所が寝る場所になっていて、しかも座ったまま寝ていることもある。テラはそれが気になって仕方がなかった。


「それはないけど、どうして?」


「寝てるとき、手に乗せても平気?起きちゃうかな。柔らかいところのほうがいいんじゃないのかなって、気になってたの。血を飲んだあと、私のベッドで寝ないかなって思ってて。どうかな?」


「起きるかどうかはわからないけど……テラのベッドに? いいの? 誰かと一緒に寝るなんて初めて!」


「それじゃ、今日から、血を飲むのは夜寝る前にしよう。リーフはベッドで血を飲んで、そのままベッドで眠ってね。これが私のお願いよ」


 リーフに血を飲んでもらうのは夜、寝る前。場所は寝室でベッドの枕元。リーフが私の枕元でそのまま寝てくれたら、運ばなくてもいいし、これで解決だわ! そうと決まれば、枕元にリーフ専用スペースを作らなきゃね!


 本音は、ひとりで寝るのは寂しいもんね、と思ったのだけど、枕元ですやすや眠る可愛いリーフの寝顔を目の前で見守りながら眠りにつく自分を想像して、ついニヤけてしまうのだった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

楽しんでいただけると幸いです。

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