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66 王城4 小宮殿セオドア宮


 ユリアンは王都に戻ってから、リーフたち一行が王城に来た際に宿泊する場所はどこが適切か、頭の中でいくつかの候補を巡らせていた。

 本城のゲストルーム、迎賓館、あるいはセオドア宮。


 彼らが快適に過ごせることはもちろん、精霊たちが安心して過ごせる環境が何よりも重要だった。

 彼らはユリアン個人が招く客人であり、精霊が3人いる。

 となると、精霊と直接交流できる守り人が多く仕えている場所が望ましい。


 ユリアン専属の従者や侍女、使用人、騎士らは人数こそ限られているものの、皆が守り人だ。

 精霊と直接交わることのできる守り人たちが常駐する、ユリアン専用の別棟――小宮殿『セオドア宮』が最適だと判断した。

 そこは本城の喧騒から離れ、庭園に面した静かな佇まいで、まさに理想の場所だった。

 ここならば、リーフたちが快適に過ごせるはずだ。


 小宮殿といっても、ゲストルームが十以上備えられており、ユリアンが賓客を迎える機会に備え、 いつでも利用できるよう普段から整えられている。

 彼らが宿泊する際には『セオドア宮』へ案内しよう、と決めていたのだった。



 ユリアンはリーフたちを伴って、別棟の小宮殿へと続く整然とした石畳の道を歩いて行く。


「リーフとテラ、ファルとリモ、それぞれ部屋を用意してあるからね。ヘリックスは僕と一緒なのだけど、いい?」


「まあ! 私、ユリアンと一緒でいいの?」


「僕と契約する精霊だからね。当然だよ? もちろん、ヘリックスさえよければ、だけどね!」


 ユリアンはいたずらっぽく笑ってみせた。


「ええ。それじゃ、ユリアン、よろしくね」


 ヘリックスは、ファルとリモにチラリと目を向けつつ、リーフとテラに目配せをすると、軽くウインクをした。

 リーフとテラはその意味を理解して、オーケーサインを出した。

 ファルとリモのお祝いの件をユリアンに相談しよう! というわけだ。


 ユリアンは初めてヘリックスの依り代を預かり、まるで精霊の存在そのものを扱うかのように、慎重にそれを胸のポケットに仕舞い込んだ。

 その顔には、純粋な喜びと誇らしげな笑顔が浮かんでいた。


「今日は再会を祝っての晩餐になるから、準備が整ったら部屋に使いを寄越すからね。それまで、ゆっくりと寛いでいて」


 『セオドア宮』は、本城から少し離れた静かな木立の中に建っていた。

 灰色の石で組まれた外壁は、年月を経てなお端正な輪郭を保ち、冬の空の下でわずかに青みを帯びて見える。

 尖塔のない控えめな屋根には、深紅の瓦が整然と並び、窓枠には蔦が絡んでいる。

 正面のアーチ型の玄関扉は重厚なオーク材でできており、扉の上には王家の紋章が静かに掲げられていた。

 周囲には整えられた低木の生垣と、冬枯れの庭が広がり、石畳の道がまっすぐ玄関へと続いている。



 小宮殿の玄関に入ると、静けさと格式が同居する空気が一行を包み込んだ。

 重厚な扉が背後で音もなく閉まり、外の喧騒を完全に遮断する。

 わずかに漂う古い木材と磨かれた石の匂いが、歴史の重みを感じさせた。


 それぞれの部屋へと案内される足音だけが、廊下に静かに響いている。


 夕食は大広間で皆で再会の晩餐を開くことになっており、部屋で小休憩をしたあと、大広間へと集合する手筈だ。

 晩餐といっても食事をするのはユリアン、テラ、ファルの3人のみ。

 ユリアンは、着席して形式的に過ごすよりも、精霊たちを含め皆が自由に談笑し、交流できる立食形式の方が自然で快適だろうと考えたのだ。



 ◇ ◇ ◇



 リーフとテラが案内された部屋は、ユリアンの小宮殿の2階の一角に位置する、装飾こそ控えめながら、どこか澄んだ空気の漂う部屋だった。


 壁は白い漆喰で塗られ、木の温もりが感じられるような磨かれた木の床には、厚手の織りラグが敷かれている。

 窓にはシンプルな麻色のカーテンがかけられ、柔らかな光が差し込んでいた。

 部屋の中央には木彫りの葉模様が美しいテーブルと椅子が並び、部屋全体を温かな雰囲気にしている。


 部屋の奥には木目が美しい質の良い天蓋付きのダブルベッドが整えられ、窓辺には、冬の盛りにも関わらず青々とした葉を広げる鉢植えの植物が置かれている。

 その傍らには、リーフが座るのにちょうどよさそうな小さな木の椅子がさりげなく添えられていた。

 部屋の空気はどこか澄み渡り、二人にとっての安らぎの空間がそこにあった。


 リーフは部屋へ案内され、いつの間にか王子様なリーフに姿を変えていた。

 ソランの前では小さな姿でいたため、王都への旅路ではテラと二人きりの時限定になっていたこの姿も、久しぶりに常時解禁というわけだ。



「すごく素敵! こんなお部屋に泊れるなんて!」


「森の中の家って雰囲気だね」


「ふふっ。木の匂いがいいよね。なんだか落ち着くわ」



 実は、この部屋にはユリアンの特別な思いが込められていた。

 王都に戻ってすぐ、カルバからリーフが次期精霊王だと知らされたユリアンは、彼が王城に来ることを想定し、大急ぎで改装を進めたのだ。

 まさにリーフをイメージし、彼のために設えられた部屋だった。

 王城での宿泊を提案したのも、次期精霊王であるリーフに最高の場を提供したい、というユリアンの強い願いであり、彼への深い敬意の表れでもあったのだ。



「それでは、晩餐の準備が出来ましたらお迎えにあがります。今しばらく、ごゆるりとお寛ぎください」


 案内をしてくれた若い侍女と、落ち着いた雰囲気の執事らしき男性は、 丁寧にお辞儀をすると、物音一つ立てずに 部屋を後にした。


 この部屋の改装については、小宮殿の使用人たちの間で『特別な方を迎えるための改装らしい』と噂になっていた。

 そして、改装後、初めて使用するのがリーフとテラだった。

 もしや、この女性がユリアン殿下の特別なお方なのでは、と最初は思われたのだけれど、リーフの姿を目の当たりにして納得した。

 これは、リーフのための改装だったのだと。



 それから約1時間ほどのち、晩餐の準備が整い、それぞれの部屋へ案内の侍女が訪れた。

 リーフとテラも侍女の案内のもと、大広間へと足を踏み入れたのだった。


いつも『刻まれた花言葉と精霊のチカラ 〜どんぐり精霊と守り人少女の永遠のものがたり〜』を読んでいただき、ありがとうございます!

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