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63 王城1 再会


 翌朝。王都での最初の朝。


「さて、そろそろ出掛けるか?」


 ファルは軽く伸びをしながら、開けていた窓からの冷たい朝の空気を深く吸い込んだ。

 王都の街並みは、ひんやりとした朝の静けさに包まれていた。


 リーフたちは宿の一室に集まって、今日の予定を確認していた。


「とりあえず今日は王城へ行ってユリアンに会うでしょ。それからソランのことを相談して。カリスの家って、ユリアンに聞けば分かるかな?」


 テラは窓の外を眺めながら答えた。

 その視線の先には、街のどこからでも見上げられるほど高くそびえ、朝日にきらめくエルディン・パレスの本城があった。

 王都エルドリアの中心に鎮座するその城は、長き歴史を刻み、王家の威厳を体現しているかのようだった。



「あれ? そういえばユリアンってカリスがどこの家のお嬢様か知ってるんだっけか?」


「え? あれ? 確かに、そうね……。紹介した時はカリスとしか言わなかったし……誕生会のあとはそれぞれ王都へ帰ったし……。もしかして、知らないかも?」


「まあ、いいさ。知らないんだったらフィオネール家の邸を聞けばいい。ひとまず、ユリアンに会いに行こうぜ!」



 宿を出ると、一行は王城へと足を向けた。

 王都を潤すY字の大河から引き込まれた堀に守られ、東西南北に城門を構える広大な王城。

 彼らが選んだのは、荘厳な南の正門だった。


 門の前には、まるでこの城の歴史そのものを守るかのように、甲冑をまとった門番が厳かに立っていた。


「あー、ちょっとすまない。これなんだが……」


 ファルはチェーンペンダントを懐から出して、門番に見せた。


 門番はハッと何か気付いたようで、その顔にわずかな驚きと緊張を浮かべ、背筋をピシッと伸ばし、一瞬、ファルの顔とペンダントを交互に見つめた。


「ユリアン殿下から伺っております! ようこそ、お越しくださいました! しばし、お待ちいただきたく」


 門番の伝令が、肩に掛けた軍の紋章を揺らしながら、足早に城内へと駆けていった。

 おそらくユリアンにリーフたちの到着を知らせに走ったのだろう。


 やがて、甲冑をまとった若い騎士が姿を見せた。

 その表情にはまだ初々しさが残っていたが、 少し緊張した眼差しで一行を見つめ、一歩前へ進み出ると、ふっと柔らかな雰囲気を纏った。


「ご案内します。どうぞこちらへ」


 若い騎士はリーフたち一行を城門の内側へと案内した。


「……この騎士も守り人なのね」


 リモが小さな声でつぶやいた。


 石畳が敷かれ、整然と手入れされた緑の中を進む。

 敷地内には格式ある迎賓館が点在し、背の高い木々の間から本城の威容が覗く。

 距離を詰めるごとに、その壮麗な姿がはっきりと姿を現していく。


 遥か昔からエルディン王家が精霊と共に歩んできた証であるこの城には、城内にあるオレガノ畑に、王家と契約を結ぶオレガノの精霊が静かに宿っているという。


 城門から本城までは、およそ三百メートル。

 ちょうど半分ほど歩いたところで、ユリアンが前方から駆けてくるのが見えた。


「みんな! 久しぶり!」


 騎士は驚いた様子で、足を止めてピシっと直立する。


「よう! 久しぶりだな! ユリアン!」


「ユリアン、元気そうね!」


「ファルもテラも、長旅、お疲れ様! ヘリックスも、リーフも、リモも、久しぶり! また会えてすごく嬉しいよ」


 ソランはファルの左手をぎゅっと握りしめた。


「こちらの男の子が、ソラン君?」


「おお、ユリアンはもう知ってるのか?」


「うん、報告は届いているからね。話は聞いてる。ファル、本当にありがとう」


 ユリアンは右手を差し出しファルと握手をすると、ファルを見つめながら感謝の言葉を述べた。


「いや、俺じゃないぜ? ほとんどリーフの力だよ。リーフがいなければ、助けられなかったんだから」


「そうか。リーフ、本当にありがとう。王家を代表して、君の存在と力に、最上級の感謝を」


 ユリアンはテラの肩に乗ったリーフに対して、丁寧に深い角度でゆっくりと頭を下げ、最敬礼をした。


「え、ユリアン、いいよ。そんな風にしないで」


「ふふっ。ありがとう、リーフ」


 リーフの言葉に、ユリアンは顔を上げ、にっこりと微笑んだ。

 その眼差しには、偽りのない感謝の光が宿っていた。



 ユリアンのリーフへの最敬礼を目の当たりにし、テラは『ユリアンがこんなに深いお辞儀するなんて!』と驚きのあまり、思わず息をのんだ。


 ヘリックスとリモ、ファルはふと互いに視線を交わした。

『ユリアンはリーフの正体に気づいている?』互いの瞳に同じ問いが揺れる。

 最敬礼もそうだけれど、『王家を代表して』と言ったのは、次期精霊王に対する敬意からだろうと、彼らは推測した。



「それじゃみんな、案内するから着いてきて!」


 ユリアンが先頭をきって歩いていく。

 まずはソランのことについて話をしなければと、本城にある談話室へと向かうのだった。


いつも「刻まれた花言葉と精霊のチカラ 〜どんぐり精霊と守り人少女の永遠のものがたり〜」を読んでいただきまして、大変ありがとうございます。

次回更新は明日を予定しております!お楽しみに!

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