49 イーストゲート08 出会い~カリス 後編
カリスに案内され、薄い水色のワンピースを着て、真っ白なコートを羽織ったテラを連れて靴屋へと向かう3人。
「じつは、私も誕生日が近いのよ。私は明後日なの。テラと1日違いね」
「すごい偶然ね! 何かの縁かしら」
テラの言葉を聞いて、カリスは軽やかに笑いながら、先を歩いていく。
「ふふっ。もうお友達よね? わたしたち。あ、ここよ! このお店」
テラは店の前で立ち止まり、思わず息をのんだ。
「うわぁ……」
目の前には、品のある外観と豪奢な雰囲気の漂う靴屋がどーんと構えていた。
「こんなお店……ちょっと場違いな気がする……」
「そんなことないわ! 大丈夫よ。ささ、入りましょ!」
店に足を踏み入れると、すぐに柔らかな笑顔の店員が迎えた。
「いらっしゃいませ、カリス・フィオネール様。本日はどのような靴をお探しですか?」
店員の口から出た苗字付きのフルネームに、テラは驚きの表情を浮かべる。
カリス・フィオネール。ヘリックスの見立て通り、彼女はフィオネール家のお嬢様だった。
「今日はお友達の靴を選びに来たの。白か水色で、こちらの女の子に合うものを見繕ってもらえるかしら?」
「承知いたしました。少々お待ちくださいませ」
カリスの言葉に、店員はすぐに丁寧な会釈をしにっこりと微笑むと、奥へと姿を消した。
「カリス……。どこかの貴族様だったの?」
テラは驚き混じりに問いかけた。カリスの立ち振る舞いは、確かにどこか育ちの良さを感じさせるものだった。
「え、違うわよ。ただ、父がちょっとだけ有名かしらね。さっき私がいた工事現場、ああいった工事をしているギルドを父が経営してるのよ」
カリスはさらりと言ったけれど、その言葉には誇りが滲んでいた。
「そ、そうなんだ……。だから工事現場に居たの?」
「そうなの。私、建築の勉強をしているのよ。将来はギルドを継ぎたいの!」
テラは思わず目を丸くした。
「すごい……! 年も私とそんなに変わらないように見えるのに……」
カリスは少し得意げな表情を浮かべると、にっこりと笑った。
「明後日、誕生日がきたら17歳になるのよ。テラは?」
テラは一瞬、迷うような仕草をしつつも、すぐに答える。
「私は……16歳……になるけど」
「ひとつ違いなのね! 年の近い守り人のお友達ができて嬉しいわ!」
カリスは弾むような声で言いながら、テラの腕を軽く取った。
テラは少し戸惑いながらも、その親しみやすさに微笑んだ。
そんな会話をしていると、店員が靴を見繕って持ってきてくれた。
「お待たせいたしました。こちらですが、いかがでしょうか?」
並べられたのは、白と水色、それに近い色の靴が5足。どれも上品で、美しく磨かれている。
「あら、いい感じね。どれも可愛いし、ワンピースに合いそうよ! ねぇ、ヘリックスはどれがいいと思う?」
ヘリックスはじっと靴を見つめ、少し考えるように視線を動かした。
「どれも素敵ね。そうね……隣に並ぶのはリーフだから、ペタンとした靴より、少しヒールがあるほうがいいかもしれないわ」
「隣に並ぶ? ああ! テラのいい人は背があるのね。それなら、ヒールがあるほうがいいわね!」
テラは急に顔を赤くした。
「ちょっと待って、いい人じゃなくて……」
カリスは軽く笑いながら、選んだ靴を手に取る。
「まあ、まあ。わかってるって! これ。この靴でどうかしら? ワンピースにもよく合ってるわ! ほらほら、履いてみて!」
言われるがままに、テラは少しヒールのある白い靴を履いてみた。
「いいじゃない? ね。どう? ヘリックスは」
「そうね、これでいいと思うわ。あとは髪を整えたら完璧ね」
こうして靴を購入したヘリックスとテラ、カリスの3人は、再びカリスの宿へと戻るのだった。
着替えを済ませ、ワンピースから元の装いに戻ったテラは、カリスに向き直った。
「カリス、今日は本当に、色々とありがとう」
カリスは笑顔を見せ、軽く手を振る。
「どういたしまして。明日の誕生会、楽しみね! しっかりおめかししなきゃ」
テラは少し迷うような仕草をしたあと、意を決したように口を開いた。
「あの、もしよかったら、明日の誕生会、来てもらえない?」
カリスは驚いたように目を瞬かせた。
「せっかくお友達になれたし、同じ年ごろの女の子の友達って初めてなの。それに、カリスはすごいなって思ったの。ちゃんとしてて、将来のことも考えて勉強してて。かっこいいなって! 私、全然だから……もっとお話ししたいと思って」
テラの言葉に、カリスは嬉しそうに微笑んだ。
「明日……。そうね、いいわよ! どこで誕生会をするの?」
「それはファルから聞いてるわ。場所は『オリーブ・ルミエール』ですって」
ヘリックスがファルから聞いていた店の名を口にすると、カリスは驚きの表情を浮かべた。
「ええっ! 『オリーブ・ルミエール』で誕生会をするの? すっごい! 私もおめかししないといけないわね! せっかくあのサロンに行けるんだもの! ほんとにいいの? 私がお邪魔しちゃって」
テラは力強く首を振った。
「全然、お邪魔なんかじゃないから! ぜひ!」
この誕生会に、どうしてもカリスにも来てほしい。そんな気持ちが込められていた。
「そうね、明日、一緒に行くってどうかしら? 宿のほうに来れる? 『ゲート・ヘイブン』という宿なの。誕生会は正午からだから、それまでにテラをおめかしして、主人公はギリギリに到着って感じで考えてるのよ」
ヘリックスは、男性陣には先に会場へ向かってもらい、女性陣は後から登場しようと考えていた。
「それじゃ私、早めに行ってテラのおめかしを手伝っちゃう!」
カリスは勢いよく宣言し、テラの手を軽く取る。
こうして、カリスの参加が決まり、誕生会の準備が新たな楽しみへとつながるのだった。
いつも、『刻まれた花言葉と精霊のチカラ 〜どんぐり精霊と守り人少女の永遠のものがたり〜』を読んでいただき、ありがとうございます!
次回はいよいよ誕生会当日のエピソードです!
ぜひ、お楽しみに!