表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/113

47 イーストゲート06 精霊のお財布事情

 

 一方、ヘリックスとテラのふたりは、リーフたちとは別行動で町を散策していた。

 ヘリックスの依り代は、今日はテラが預かっている。


「ねえ、ヘリックス、市場へ行ってみない?」


「いいわね、市場、行きましょう!」


 テラとヘリックスは、イーストゲートで一番の市場へと向かった。


 市場は露店がずらりと並び、色とりどりの果物や野菜が山積みになっていて、多くの買い物客でにぎわっていた。

 パン屋の店先からは香ばしい匂いが漂い、焼きたてのパンを求める客が列を作り、鶏や羊を売る商人が声を張り上げ、値段交渉をする客の声が飛び交っている。



「さすがに規模がすごいわね」


「そうだわ、テラ。依り代からお財布を出すから、テラに持っててもらいたいのだけど、いいかしら」


「ええ、もちろんよ。というか、ヘリックスは自分のお財布、持ってるの?」


「持ってるわよ。契約した守り人からお礼もらったりするから。だからお財布は持っているし、買いたいものがあれば自分でお金を出すわよ。もちろん守り人に頼んで買ってきてもらうのだけど」


 これまで何百人もの守り人と契約してきたヘリックスは、守り人から子孫繁栄のお礼の品として現金を受け取ることもあり、精霊でありながら実はけっこう裕福だった。


「なるほど……。そうよね……。精霊だって欲しいものはあるわよね。……私、リーフにお財布を買おうかしら。……お金を払う時はいつも私が出してたけど、今日みたいに別行動すると、リーフも自分のお財布があったほうがいいよね。それに、薬草を買い取ってもらうのだってリーフがいてこそだもの。リーフの取り分、っていうのかしら」


「それなら、旅の費用分とテラの取り分、リーフの取り分って感じで分けるといいんじゃないかしら?」


「そうね! それがいいわ!」


「リーフ、きっと喜ぶわよ。それじゃ、まずはリーフのお財布ね」



 テラとヘリックスは、お財布、お財布……と財布を探しながら歩いていると、革製品を売る露店が目に留まった。

 どうやら革職人のおじいさんが露店を出しているようで、ごつごつした手で革を叩いて形を整えていた。

 露店の奥では、焚き火が揺れ、革を乾かしている様子が見えた。



「テラ、お財布、あるわよ。革製で良さそうじゃない?」


「ええ、いいわね。リーフに合いそうないい感じのあるかしら」


 テラはリーフに似合いそうな財布を探しながら、並べられた商品を手に取って質感を確かめていた。


「いらっしゃい、財布かい? 贈り物かな?」


「はい、お友達の男の子に贈るんですが、どれがいいか迷ってて」


「ほう、男の子、何歳くらいだい?」


「えっと、私と同じくらいです」


「うむ。それじゃあ……これはどうだい? お洒落だし使いやすいよ」


 革職人の店主が自信ありげに選んだ財布は、アカンサスの葉模様が型押しされた皮財布だった。


「リーフ柄の型押しなのね。すごくいい感じね!」


 まるでリーフを象徴するようなデザインに、ヘリックスも微笑みながら頷いた。


「うん、これに決めようかな。おじいさん、この財布にします!」


「はいよ、まいどあり! その男の子、きっと喜んでくれるよ」


「そ、そうかな……へへ。……あ、あと、私が使う財布もほしいんですが……」


 そう言いながらテラは自分用の財布をと思って、並べられている財布に視線を移した。


「テラの財布?」


「今の財布は旅の資金も一緒になってるから、私の個人用にもうひとつ財布があればって」


「なるほど、そのほうがいいわね。どれにする?」


「うーん……」


「嬢ちゃんの財布なら、これはどうだい? これもアカンサスだけど、さっきのより大柄で女性が持つのにぴったりだよ」


 店主が選んだのは、同じアカンサス模様だけれど、大柄で優雅なデザインの財布だった。


「わあ、素敵ですね! 女性らしい華やかな感じ!」


 テラは手に取ると、その質感の良さと華やかさに感嘆して声を弾ませる。


「あら、すごくいいじゃない?」


「うん! 私のはこれにするわ」


 すると、ヘリックスが微笑みながら口を開いた。


「あ、テラには私が贈るわ。私の財布から代金を払って?」


「ええ!? どうして?」


 テラはとても驚いた表情を浮かべつつも、ヘリックスに小声で訊ねた。

 精霊と会話する時は、人前では小声で話すのが基本だ。


「お財布は自分で買うより贈り物がいいのよ。だから、私に贈らせてもらえるかしら?」


 戸惑うテラに、ヘリックスは柔らかく微笑みながら答えた。


「いいの?」


「もちろんよ」


「……それじゃ、お言葉に甘えて。ありがとう! ヘリックス! すっごく嬉しい!」


 テラは満面の笑みを浮かべて、ヘリックスにお礼を言うのだった。




 お財布を買ったテラとヘリックスは、さらに市場を見て回る。

 ヘリックスはリボンを探して、露店の間をキョロキョロと見回していた。

 テラがふと前方に視線を向けると、布製品を扱う店が目に入る。


「あっ! ヘリックス、リボンあるわよ! あそこ!」


 絹や麻の布が棚に並び、鮮やかな色合いのリボンが風に揺れていた。


「素敵な色合いのリボンがいっぱいね。どれか好きなのはある?」


 テラは並べられたリボンを手に取りながら尋ねる。


「さすがに紫は無いわね。染色ギルドが厳しく管理しているし」


「紫以外では何色が好き? あ、でも今のリボンは瞳の色と同じで赤紫色よね」


「このリボンは特別なのよ。私の力で生成しているから」


「へぇ! そうなのね。それじゃ、市場で買うのは何色がいいかしら?」


「そうね。淡いピンクは買いたいわね。あと、テラの瞳の色の青がほしいわ」


 テラはヘリックスの好みを聞きながら、リボンを選ぶ。


「それじゃ、これと……これ! どうかな?」


 テラは棚から淡いピンクと空の青のリボンを手に取って、ヘリックスに確認した。


「ええ、それでいいわ! ありがとう、テラ」


 ヘリックスから預かっていたお財布で支払いを済ませると、ふたりはさらに市場をめぐる。

 露店の間を歩きながら、次はどんな品を見つけるのかと期待に胸を膨らませていた。




 しばらく市場を歩いていると、前方にリーフたち4人組がいるのが見えた。


「あれっ、ファルたちよ! ちょうどよかったわ!」


 テラはリーフのところに駆け寄っていった。


「お! テラじゃないか! 市場巡りか?」


「ええ! ちょっといいかな。私、リーフに渡したいものがあって! リーフ、大きくなれる?」


 リーフはファルの肩に乗っていたけれど、テラから品物を受け取るために姿を変えた。

 もちろん、王子様リーフだった。

 人が多い場所で品物を渡すわけにもいかないので、リーフとテラはササっと路地に入る。


「ね、リーフ、これ! 開けてみて!」


 テラはリーフに包みを渡した。これはさっき買ったばかりのリーフの財布だ。


「お財布!?」


「そう、リーフのお財布よ。リーフもお金持っておいたほうがいいかなと思って。だから、はい、これ」


 渡したのは現金だ。額にして5,000ŞĿ(シルヴァ)。

 5,000ŞĿは薬草6把か7把分、宿泊費なら3泊分か4泊分くらいの額になる。


「お金!?」


「ええ、リーフのものよ。これからは薬草を買い取ってもらった時は、旅の資金とお小遣いを分けようと思うの。とりあえず、今手元にあるお金を分けたのよ」


「すごく嬉しい、本当にありがとう! テラ!!」


 ナイスなタイミングでテラからお小遣いをもらったリーフは、まず、ファルに渡すことを考えた。

 ぼくのお金……これをファルに渡せば……!


 テラの誕生日の贈り物をみんなで買うために、自分のお金を出して一緒に買える、ということがとても嬉しくて、リーフは『お金が持てる』という事を初めて強く意識した。




 テラとリーフが路地で話している間に、ファルとユリアンとリモは、ヘリックスと話をしていた。


「ヘリックス、誕生会の場所と時間、決まったから教えておくよ。『オリーブ・ルミエール』って店で正午からだ。ユリアンのお勧めでな。宿から15分くらい歩くかな。金もユリアンが出してくれるんだ」


「そうなの? ありがとう、ユリアン。でも、お金まで。本当にいいの?」


「テラの誕生日だからね。ヘリックスに会わせてもらったお礼でもあるから」


「そう……? それじゃ甘えさせてもらうわね。ありがとう、ユリアン。それで、ファルたちはこの後プレゼントを買いに行くのかしら?」


「ああ、ユリアンに本屋を聞いたんで、今から行くところだ。ちゃんと買ってくるから、任せとけ!」


「ふふ。私もいるから心配ないわ。ちゃんと選んでくるから」


「わかったわ。私たちはテラの靴を買いに行って、明日はテラにおめかししてもらうから、そのつもりでね」


「ん? そのつもりで……? ああ! わかったよ。承知した! ははは」



 テラにおめかししてもらう、ということは――リーフの出番だな。

 リーフがおめかししたテラを、ちゃんと誉める!

 ……とはいえ、リーフがそういうことに気づくとは思えない。

 おそらく、当日になっても『わあ、テラ! すごいね!』で済ませてしまう可能性が高い。

 ならば――俺が教えるしかない!


『そのつもりで』というのは、つまり、リーフに 『ちゃんと褒め方を覚えろ!』ってことだ!


 こうして、リーフはリモを相手に 『褒める練習』 をする羽目になった。



 ファル、リモ、リーフ、ユリアンの4人グループはテラたちと別れ、本屋へと向かう。

 その道中、ファルの 『褒める特訓』が繰り広げられていた。



「その服、とても似合ってる」

「ふふ、ありがとう」


「とても素敵だね」

「うんうん、いい感じね」


「すごくかわいいね」

「うーん?」


「とてもきれいだよ」

 リーフが髪をひとふさ手に取って瞳を見つめながら、軽く髪にキスをする。

「これはちょっとドキッとするわね」


 リモは笑いを堪えながら 『褒める特訓』を楽しんでいた。

 ユリアンもリーフの特訓を眺め、微笑ましい光景に思わず笑いそうになる。



 リーフは一通り試してみたものの、どうにもピンときていないようだった。

 言葉としては覚えたけれど、『かわいい』という概念を理解できない様子だった。



「なんだかみんな、笑ってない……?」


「いや、笑ってないぞ! まあ、練習しといたら本番ではちゃんと出来るさ。こんなふうに言うってのを覚えておけば、いつでも使えるからな!」


 ファルは腕を組みながら、リーフを励ました。

 にしても、リーフの言葉は棒読み気味で、ファルは微妙に首を傾げる。


「まあ、あんまり詰め込みすぎても逆効果だし、ひとまずこれくらいでいいか?」


 そう思いながら、特訓を終えることにした。


いつも、『刻まれた花言葉と精霊のチカラ 〜どんぐり精霊と守り人少女の永遠のものがたり〜』を読んでいただき、ありがとうございます!

次回の更新もぜひお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ