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40 フォールゴールド5 テラの手紙と密談

 

 フォールゴールドでの2日目の夜。

 テラはマーサおばさんへの手紙を書くために、宿の部屋の隅にある机に向かって、ひとり、ペンを取っていた。


 その少し前――。


 リーフとの公園デートから宿に戻り、昨日と同じように、ファルとリモと共に夕食をとっていたのだけれど、『故郷のおばさんに手紙を書く』という話をしたところ、ひとりでゆっくり手紙を書けるように、とファルが気を遣ってくれたのだ。


「俺たちは明日からの旅の相談でもするか。俺の部屋に集まってるから、テラは気にせずゆっくり手紙書いてくれな!」


 部屋のドアが閉まると静けさが戻り、テラはふっと息を吐く。


「さて。マーサおばさんに手紙を書かなくちゃね」


 宿の部屋の窓辺にはうっすらと霜が張っており、外を吹き抜ける風は冷たく、かすかに木々を揺らす音が響く。


 テラは机に向かい、羽ペンのペン先を紙に置く。

 インクがじんわりと滲むのを見つめながら、マーサおばさんとロイスおじさんの顔を思い浮かべた。

 それから、テラがゆっくりと書き始めると、ペン先が紙をかすかに削る音が静寂の中に響いた――。



 ◇ ◇ ◇



 ファルの部屋では、みんなでテラの誕生日プレゼントについての相談が行われていた。もちろん、リーフも起きてファルの部屋に来ている。


「テラが手紙を書くって言ってたから、ちょうどよかったよ。テラの誕生日が1か月後だろ。どうしようかね。何か良い案……ヘリックスは何かないか?」


「そうね。テラは薬草の本を何冊か持っているでしょう? 図鑑は持ってるかしら? もし持ってないなら、薬草図鑑はどう? みんなでお金を出せば良い物が買えるし、みんなからの贈り物になるわ」


「テラは薬草図鑑は持ってないよ。薬草図鑑、すごくいいと思うけど、ぼく、お金持ってない……」


「リーフはお金を持っていないのか。でも、リーフにはいつも薬草を見つけてもらっているし、俺がリーフの分も出しておくから、心配しなくていいぞ! 俺からのリーフへの日頃のお礼だ」


 ファルはニカッと笑うと、小さなリーフの頭を指先でちょんちょんっと撫でた。


「いいの?」


「気にすんなって!」


「ありがとう、ファル……でも、ヘリックスもリモもお金持ってるんだ……」


 リーフは今まで考えたことも無かった。リーフがお金を使う機会など無かったのだから。

 そして、ヘリックスもリモも持っているっぽいことが、少々ショックだった。


「それでだ、薬草図鑑ってことでいいのか? リモは何かあるか?」


「薬草図鑑に、ブックストラップや紙束(しそく)、羽ペンやインクなんかも一緒にプレゼントしたらどう? それと、せっかくだから私のスターチスのしおりも入れたいわ」


 リモはスターチスの花を押し花にした『お手製のしおり』を一緒にプレゼントしようと考えた。


 リモのお手製しおりは、色褪せないスターチスの押し花をロウで固め、木の薄板に固定し、薄手のリネンでラッピングしたものを細いリボンや紐などで装飾したオリジナルだ。

 押し花がうっすらと透けて見えるとてもお洒落なしおりは、通常、町の店には売っていないため、上流階級の方々にとても人気があった。持っていると恋が成就するというウワサの一品だった。


「あら、いいわね! 一式って感じで見栄えもいいし、これで決まりでいいじゃない?」


「よっしゃ。それじゃ、どこで買う? って話になるんだが……」


 ファルは地図を広げながら、今後の道程を考えていた。


「誕生日は12月29日だ。約1カ月先だが、1か月後、このまま歩き旅を続けるとして、ちょうどイーストゲートあたりじゃないか?」


 みんなで広げた地図を眺めながら、距離と日数を弾いていた。


「そうね。おそらく、イーストゲート。いいじゃない? すごく栄えた町だから、なんでもあるんじゃないかしら? リモとファルは何度も行ったことがあるんじゃないの?」


「そうね、イーストゲートは王都が近くて、何でも揃ってるって感じね」


 リモは、かつてファルと放浪した旅を思い出し、懐かしそうに微笑んでいた。


「ああ、イーストゲートなら間違いなく薬草図鑑もそのほかの物も、必ず買えるだろうな」


「それじゃ、イーストゲートで買い物して、テラの誕生日をお祝いするってことで決まりね」




「ところで、話は変わるんだが、リーフ、ちょっと大きくなれないか?」


「なれるよ、ちょっと待ってね」


 リーフは柔らかな光を帯びてテラと同じくらいの背丈に姿を変えた。

 これはいつもの『大きくなったリーフ』だ。


「もうちょっと、大きくなれるか? 俺くらいに」


「ずっとテラの背丈に合わせてたけど……ちょっと待ってね。ファルくらい……」


 再び光を帯びたリーフは、175センチほどの姿になってみせた。

 ちなみにファルは179センチで、テラは157センチほどらしい。


 リーフは力が解放されてから基礎力が上がったおかげなのか、ずいぶんと大きく変化できるようになっていた。

 普段はテラの背丈に合わせて姿を変えていたのだけれど、ファルのリクエストで初めて最大サイズに変化してみた。

 中学生くらいの男の子がいきなり大学生くらいに成長したようなイメージだ。


「あら、リーフ。いいわね。それくらいがいいわよ。カッコいいじゃない」


 ヘリックスが初めてリーフをカッコいいと褒めて、ニッコリ。


「わぁ! リーフ、ステキね! カッコよくて、かわいい雰囲気もあって、年頃の女の子だったら恋しちゃうわね」


 リモはなかなかの誉めっぷりで、リーフをまじまじと眺めていた。


「リーフは大人になったら色男だな! ははは」


 背が高くなったため、少し大人びて、顔つきも幼さは消えて、それでいて可愛さも残っていて絶妙なバランスだ。服は変わらないのだけれど、頭にかぶっていたどんぐり帽子はなくなっていた。


「えっと……どういうこと?」


「なあ、リーフ。これからはなるべく……そうだな、テラと2人きりのときは、その姿になってたほうがいいぞ!」


「そうなの?」


 リーフは自分の姿を見ていないので、さっぱり分からない。そもそもリーフは自分の見目について興味が無く、無頓着だった。


「そうね、それがいいわよ」


 ヘリックスはニコニコ顔で笑っていた。


「リーフは毎晩『寒いから』ってテラを抱きしめて温めているんでしょう? テラ、リーフのこと絶対、意識するわね! どこかの国の王子様みたいだもの! これで何も感じないなら、テラがおかしいのよ」


 リモはクスクスと笑いながらも、リーフの少し大人びたこの姿がいたく気に入ったようだった。


「あはははは。たしかにな! リーフ、これからはその姿でいる時間を増やすんだ! テラもきっとそのほうが嬉しいと思うぜ!」


「そっか! よくわかんないけど、わかった!」



 ◇ ◇ ◇



『大好きなマーサおばさん、ロイスおじさんへ』


 マーサおばさん、ロイスおじさん、おふたりとも変わりなくお元気にしていますか?


 今、フォールゴールドの町の宿でペンを取っています。

 こうしてお手紙を書く時間を持てて、とても嬉しく感じています。


 窓の外には賑やかな市場が広がり、人々の笑い声が聞こえてきます。

 この町の活気に囲まれながら、おばさんのことを思い出しています。


 この旅では、たくさんの初めての経験をしています。

 新しい出会いもあって、とても頼りになる友達と5人での旅になり、毎日が新鮮で楽しい旅になっています。

 フォールゴールドでは珍しい干し肉を買ったり、美しいイチョウの広場を歩いたりしました。


 ただ、私は旅客馬車にどうにも慣れなくて、結局歩き旅になってしまっていますが、これからフォールゴールドの町を出て、さらに南へ進んで、春ごろには南国サウディア地方に着く予定です。



 旅に出て約1か月半が過ぎ、色んな人と出会い、様々な景色を見ながら、改めて感じるのはおばさんの温かさです。

 旅をしていると、新しい土地の人々や文化に触れることが楽しい反面、ブライトウッドのように安心できる場所が恋しくなることもあります。


 それと、旅立つ日を言っていなくて、ごめんなさい。

 旅客馬車に乗る日は誰にも言っていなかったのに、マーサおばさんとロイスおじさんが丘の上に現れたとき、本当に驚きました。

 そして、じんわりと温かい気持ちが広がって、涙が止まりませんでした。


 おばさんにまた会える日を楽しみにしています。

 そのときは旅の思い出や、南国で見つけた薬草の話をたくさんお伝えしたいです。

 いつかブライトウッドに戻ったら、またおばさんとパンを焼けたらいいなと思っています。


 どうかお体を大切にしてください。遠くからいつもお二人のことを思っています。


『テラより』



 書き終えた後、テラは静かに手紙を見つめた。

 手紙を折りたたみながら、じんわりと胸の奥に温かい気持ちが広がっていくのを感じる。

 折りたたんだ手紙を指先でなぞりながら、テラはふと窓の外を見上げた――。


「ふぅ……。手紙も書いたし、ファルの部屋に行こうかな」



 こうして、王子様なリーフを囲んで、皆がわいわいと賑やかに盛り上がっているところへ、手紙を書き終えたテラが入っていくことになるのだけれど、これは次回のお話。


『刻まれた花言葉と精霊のチカラ』

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

次回の更新をお楽しみに!

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